ゆうゆうインタビュー オミッド・ナマーズ

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誕生して間もないWUSAですが、リーグ発足の経緯を話して下さい。

1999年に世界中を熱狂させた、女子サッカーW杯でのアメリカ代表優勝という栄光を背景に女子プロサッカーリーグ (WUSA) が誕生しました。全米を感動と興奮の渦に巻き込んだW杯の成功が自然に女子リーグの誕生を実現させたのです。今季でリーグ創設3年目に入り、現在のチーム数はアトランタ、ボストン、カロライナ、ニューヨーク、フィラデルフィア、サンノゼ、ワシントン、そしてサンディエゴ・スピリットの8つ。各チームが1シーズンに21試合ずつ消化しています。今年9月には中国でW杯が開催され、益々女子サッカーリーグが注目されることでしょう。


——監督就任1年目とのことですが、SDの印象は。

サンディエゴに来られたという幸運に感謝しています。暮らしやすい街であることは言うまでもありませんが、チームとして必要なものが揃っている環境であり、女子リーグの間では「試合をするならサンディエゴがベスト」と言われるほど恵まれている場所なのです。頼りになる組織、スタジアム、そして完備された設備に加えて、何と言っても私達は最高のファンに囲まれています! 街の人々はチームジャケットを着ている私を見掛けるなり、応援しているよという意思表示をしてくれます。誰もがチームを知っている。皆さんの応援は本当に嬉しいですね。女子プロサッカーのコーチとして経験の浅い私ですが、チームは市民の皆さんに支えられ、そしてエネルギーを与えられていることに幸せを感じています。サンディエゴはアメフトのチャージャーズと野球のパドレスが有名ですが、私達も地元を代表するビックチームの一つに成長できることを願っています。


—— 今シーズンに臨むチームの特徴を教えて下さい。

そうですね、昨年はタイプの似た選手がセンターミッドフィルダーに集中していたため、チームの機動力を発揮できませんでした。試合のペースが掴めずにスピードも劣っていたのですが、トレードやドラフトを通じて問題を克服してくれる選手を獲得できました。結果的に、今シーズンはスピードも出てきましたし、チーム全体が随分と逞しくなってきました。ここ数年はフォワード陣のスピードが乏しく、相手のディフェンスを越えて行ける選手が不在だったのですが、現在ではケンプ、サリバン、マック、フリーティング、ラサンといった優秀な選手が揃い、相手チームに脅威を与えています。チームが更に強くなるためには多少の時間を要するかもしれませんが、守備を見ても分かるように今年は積極的なプレーが随所で見られ、確実にチームは成熟の一途を辿っています。今までは技術を備えていながら強さに欠け、中央での守備の弱さが目立っていました。リーグ全体を見ると、アトランタのような優れたチームには戦力になるミッドフィールダーが揃っています。そこで私達はダニエラやケリー・コナーズをチームに迎えたのです。チームは未だ頂点に達していませんが、毎日練習を積み重ねながら着実に腕を上げています。


—— コーチとしての指導理念、そして理想的なプレイの形とは。

19_1.jpg1ゲームたりとも無駄にできない厳しい状況の中で戦っていますし、それは選手自身も十分に自覚しています。タックルでボールを奪ったり、セカンドボールを拾うといった小さなことでも勝ち負けに大きく影響するのです。この認識がチームを少しずつ向上させ、ゲームを重ねていくにつれて好結果を挙げています。私がこのチームが好きな理由は日々の進歩が感じられるからです。積極的にゴールを狙うと同時に、ディフェンス陣を擦り抜けて、ボールを前に進めるような技術を生かしたゲーム展開を繰り出す̶̶これが私の理想とするスタイルです。現役時代の自分も技を身に付けたプレイヤーでしたので、技術に優れた選手が好きですし、運動能力にも恵まれている選手というのは素晴らしいと思います。ここではそのような技術と能力を兼ね備えた選手の育成を行っているのです。負けないようにではなく、全力を尽くし、勝利を獲得する目的で試合に挑むのです。そのためには精神的、肉体的な強靱さを持たなければなりません。

練習に関しては、私は選手を尊重して限られた範囲内で彼女達の自由にさせています。ヘッドコーチに就任して初めて選手に伝えたのは「私は君達の父親でも母親でもない…ああしなさい、こうしなさいと指示するつもりはない。責任を持って自分達のやりたいようにやりなさい。但し、ここへ来たらサッカーだけに集中するように」ということ̶̶。勿論、選手の調子が悪ければ、その時にこそ私は責任を持って指導をします。各ポジションを獲得するために、100%の力を出して毎日必死に練習に取り組むという雰囲気がチームに生まれています。練習で手を抜くことなどありません。それだけ過酷な日々を送っていますので、試合は練習よりも楽に感じているのかもしれません。プロチームを目指すのであれば、ただ練習するのではなく、実際に試合で戦っているかのようにハードな練習を毎日こなしていく必要があります。今シーズンはこれまで良い結果を出していますが、試合開始前にプレッシャーを感じることで選手一人一人が強くなっていくことが必要です。そして、今のチームの弱点がここに在るのです。


——チームの強さを意識的に前面に出してゲームに挑んでいるのですか。

言うまでもありません! チームの間では常にそのことが話題になっています。「サンディエゴ・スピリットは開始から終了までハードな試合を繰り広げる」という印象を相手に植え付けるゲーム展開をしていきたいと思っています。全力で戦い抜く。必死に戦わなければ勝利は得られないことを身を持って他のチームに証明したいのです。サンディエゴ・スピリットが迫ってきている!と相手が怯えてしまうようなチームになることを目指しています。相手を精神的に威圧することは、私達に有利な試合展開をもたらしてくれるでしょうから。


—— サンディエゴ・スピリットを含めて女子リーグでの外国人選手が目立つようになりました。どのように選手を獲得しているのでしょう。

サッカーは世界中で年々人気を増していますし、ヨーロッパを始めとする各国では長い歴史を誇るスポーツです。現在では各シーズン2名までの外国人選手のスカウトが許されるようになりました。今シーズンはピション (フランス)、カティア (ブラジル)、メラニー・ホフマン (ドイツ)、スカンサ (チェコ)、スミス (イギリス)、そして澤穂希 (さわ・ほまれ=日本) らの外国人選手がWUSAで活躍しています。各チームにはそれぞれに特色ある外国人選手が入団しています。私達のチームに所属するジュリー・フリーティング選手 (スコットランド) は英国サッカーに見るセンター・フォワードの典型的な特徴を持ち、他の選手も彼女から良い影響を受けています。彼女のヘディングやシュートの実力はリーグ No.1 の1人と言われているほどです。また、相手ディフェンスを上手くかわして得点に結び付ける優れた技術を持ったストライカーのザン・オーイン選手 (中国) やクリスティーヌ・ラサン選手 (カナダ) も獲得できました。


—— メジャー・インドア・サッカー・リーグ (MISL) での選手そしてコーチ時代に比べて、女子プロサッカーリーグに見る違いはありますか。

エネルギーを使い果たし、全神経を集中させて試合に挑む…これが女子サッカーの特徴の一つであり、男子には見られないものです。これを目にすることが私の楽しみですし、コーチ職の醍醐味なのです。例えば、世界のトップ選手の1人と言われるアリー・ワグナーは彼女のプレーに何が足りないのかを私に尋ねてきました。このような姿を男子選手に見ることは滅多に無いのですが、これはサンディエゴ・スピリットの特徴とも言えます。こうして女子リーグのレベルは年々上昇しています。機敏な動きと技術を身に付け、試合に対する理解を深めていくことで、短期間でありながらWUSAは劇的に発展してきました。

そして、もう一つの違いは女子は十分なフィードバックを必要とすることです。男子サッカーの場合、自分がスターティングメンバーに選ばれなければ彼らは落胆するだけで、その理由を追及しようとはしません。後に試合に出るチャンスさえ得られれば、それで良いのです。しかし、女子の場合は異なります。スターティングメンバーに選ばれなければ、すぐさま私の所に現れ、その理由は何か、そして自分の欠点を克服するためには何をすれば良いのかを問い質してきます。常に建設的なフィードバックを求めてくるので、彼女達に応えられるよう、各選手とのコミュニケーションを通じながら私自身も強くならなくてはと感じています。

男子と比較すると若干スローな女子サッカーは、コーチにとってチェスのようにコントロールを要するゲームなのです。些細なフォーメーションの変更や選手交代が試合を大きく左右することもあります。例えば、先日ボストンで行われた試合でポジションの変更と選手交代を行ったところ、これが勝利を導く端緒となりました。そして、この戦略がほぼ毎試合において良い結果をもたらしているのです。これは、動きの速い男子サッカーには通用しないものです。


—— 今年はファウンダーズ・カップ・チャンピオンシップ (WUSA王座決定シリーズ) が SDのトレロ・スタジアムで開催されますが、選手にとって大きな刺激になっているのでしょうか。

全選手が楽しみにしていることは確かです! 選手にとって刺激になっているのは勿論ですし、今まで以上に奮起を与えています。私達は長い道のりを歩んできましたが、克服すべき課題はまだ沢山あります。選手がチームを信じて努力を積み重ねることで、更なる女子リーグの発展ぶりを今シーズン中にお見せすることができるでしょう。

—— ご自身の現役時代を振り返って思うことは。

19.jpg全ての経験が貴重なものでした。私の現役時代、テニスはビジネスよりも社交の意味合いを持ち、限られた枠を飛び出して世界を覗き込む絶好の手段だったのです。アルゼンチンで育った私はとても若い時期から世界中に友達を作る環境を与えられ、未だ見ぬ国々を訪れる機会に恵まれていました。こうした経験が私のテニス人生に刺激を与え、最高の思い出として心に残っています。


—— サンディエゴ・スピリットはどこまで成績を残せると思いますか。

シーズン中に何が起こるかは分かりませんので、今は何とも言えません。正しい方向に進んでいることは確かですが、プレーオフ進出までの道程は厳しいものです。プレーオフに進出できればファウンダーズ・カップまであと1試合。勝ち進む自信はあります。トップチームになれると信じていますが、優勝を勝ち取るためには多大なる努力を要します。チームは確実に強くなっていますし、どこまで成績を残せるかはどれだけ上達したかに依るでしょう。シーズン終了時の成績は、チームの現状に満足することなく、更に強くなろうとする不断の精進の結果として現れます。それが栄光への分水嶺となるのです。


オミッド・ナマーズ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2003年サンディエゴ・スピリット第3代ヘッドコーチ就任。1964年12月6日ユタ州プロボ生まれ。ウェストバージニア大学在学中にサッカー選手とし て活躍。メジャー・インドア・サッカー・リーグのフィラデルフィア・キックスに所属し3年連続プレーオフ出場に導く。2002年度 MISL プレイヤー・コーチ賞を獲得。MISLオールスター選出5回、2000年-2001年度ディフェンダー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、現在もキックスのチー ム・アシスト記録を保持。全米サッカーリーグ、全米プロサッカーリーグ等の選手として活躍。米国サッカー連盟Aライセンスコーチ兼ニュージャージー州オリ ンピック開発プログラムコーチスタッフ。現在はコリーン夫人と二人の子息 (カイアン君、ジュリアン君) とサンディエゴに暮らす。サンディエゴ・スピリットについての詳細はwww.sandiegospirit.com でご覧になれます。

(2003年月1日号に掲載)