勢い増す妊娠中絶反対派、判事指名「絶好の機会」

勢い増す妊娠中絶反対派、判事指名「絶好の機会」

女性の憲法上の権利を保障、1973年米最高裁判決の反動

2018年7月5日

人工妊娠中絶に対するトランプ政権の厳しい姿勢を追い風に、キリスト教保守派を中心とする中絶反対派が勢いを増している。

中絶は米社会を二分する問題で、保守派の目下の狙いは人工妊娠中絶を合憲とした1973年の連邦最高裁判決を覆すことだ。

トランプ大統領による保守派の最高裁判事指名を「絶好の機会」と捉え、活動を強化している。

「赤ちゃんを殺すな。汝、殺すなかれ」。

保守的なキリスト教信者が多く暮らす南部ミシシッピ州ジャクソン。

同州で唯一中絶手術を実施する医療施設の前には信者が続々と姿を見せ、聖書を片手に声を上げていた。

施設には午前8時の診察開始と同時に、中絶を望む女性が護衛に付き添われて分刻みで入っていく。

外壁は黒い布や板で覆われ、信者の声に妨げられないよう大音量の音楽が流れる。

施設で以前手術を担当していた医師ウィリー・パーカー氏 (55) によると、同州は最貧州の一つで経済的な事情から中絶を選択する患者が多い。

大半は黒人で、処置費約600ドル (約66,000円) を捻出するのすら難しいという。

「産んだ子どもを飢えさせたくない」。

中絶のため車で約2時間半かけて訪れたジャスミン・ガスパードさん (23) は沈痛な表情でうつむいた。

病気がちな祖母と6人目の子を産んだ姉の生計を担い、生活は苦しい。

パーカー氏は「中絶によって女性の暮らしを助けるのは決して非道徳的ではない」と力を込める。

一方、信者は「中絶は罪」と口をそろえる。

医療施設前の抗議活動に毎週訪れるサラ・スタサムさん (21) は「神から授かった命を奪うのは悲劇」と表情を曇らせる。

「育てられないなら養子に出すべきだ」と語る外科医コールマン・ボイドさん (46) は血のつながっていない子ども3人を自らの養子に迎えた。

ミシシッピ州を含む各地では中絶を制限する州法が次々成立しているが、1973年の最高裁判決が有効で全面的な禁止はされていない。

中絶の権利を支持してきた最高裁判事の1人が最近、退任を表明した。

トランプ政権が保守的な判事を後釜に指名すれば判決見直しの可能性も高まる。

施設で患者の護衛を5年以上続ける女性権利活動家デレンドラ・ハンコックさん (59) は1973年の判決が覆り、女性たちが違法かつ危険な中絶を余儀なくされる事態を恐れている。

「キリスト教が抑圧の道具になっている。

女性がつらい試練を受ける限り、私たちは『神』とだって闘う」と表情を引き締めた。


(2018年7月16日号掲載)