Friday, 29 March 2024

京都賞受賞者講演会

京都賞受賞者講演会、サンディエゴの大学で開催

科学・文明の発展に多大な貢献、染織家の志村ふくみさんら3人

2015年3月19日


kyotoprize shimura科学や文明の発展に貢献した人物を顕彰する京都賞の受賞者をサンディエゴに招き、地元の大学で講演会を行う「京都賞シンポジウム」が3月半ばに開催された。

第30回 (2014年度) の受賞者の顔ぶれは次の通り。

先端技術部門はロバート・サミュエル・ランガー博士 (65)。

シャーレ上で培養が難しい臓器や皮膚などの複雑な構造を持つ組織を立体的に培養することに成功し、組織工学と呼ばれる分野を創設した業績が受賞理由。

基礎科学部門はエドワード・ウイッテン博士 (63)。

数百種類ある素粒子は1本の「ひも」で説明できるという超弦 (ちょうげん) 理論を進化させ、理論物理学のみならず、数学の新領域を開拓した功績が讃えられた。

また、思想・芸術部門で選ばれた志村ふくみさん (90) は、日本の農家の女性が普段着として用いていた紬織 (つむぎおり) の着物に美を見いだし、植物由来の染料を使って作品として完成させるなど、新たな美的価値観を構築したとして受賞の栄誉に浴した。

3氏は昨年11月に京都市内で行われた授賞式で、主催する稲盛財団 (理事長・稲盛和夫京セラ名誉会長) から、それぞれ記念メダルと賞金5千万円が贈られている。

植物染料を使った繊細な紬織で新境地を開き、1990年に人間国宝となった志村ふくみさんは、大仏次郎賞を受けた『一色一生』 などの随筆でも知られるが、染織家として歩き始めるまでは苦労の連続だった。

郵船会社の支店長令嬢として東京、上海、青島、長崎で育った。

実の父母が手放した里子だと知らされたのは16歳の時。

滋賀県近江八幡の実家で1か月ほど過ごし、それまで無縁だった美術や文学の魅力に目覚め、機織りも初めて体験する。

長兄を結核で亡くし、東京で築いた家庭も離散状態となり、失意のうちに帰り着いた実家で出会った染色が苦境から救い上げてくれた。

そこには一度は染色の道を志した母の後押しがあった。

志村さんは2年後に日本伝統工芸展で入選し、33歳で染織家としてデビューする。

草木の採取時期や媒染剤の種類などの条件次第で、色の鮮やかさ、透明度が微妙に変化する植物染料。

その不思議さに魅入られ、苦悩や困難、挫折を糧にする人々の生きざまが重なって見えてきたという。

「自然は素晴らしい色を人間に与えてくれる。自然との交わりが大事であることを、若い人に伝えていきたい」と受賞の喜びを語る。

*写真は京都賞を受賞した染織家の志村ふくみさん=昨年11月10日、京都市内の授賞式場



(2015年4月1日号掲載)