金 一東
日本クリニック・サンディエゴ院長 |
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小児の発育不全 |
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赤ちゃんが生まれて、母乳が思うように出なかったり、母乳をあまり飲んでくれなかったりすると、赤ちゃんの体重が思うように増えないことがあります。 通常は、生後1週間程度は体重が減少しますが、その後体重は増え始め、最初の3か月間は、毎日平均30グラム程度の割合で増え続けます。 その後も1日当たりの体重増加はやや減少するものの、成長曲線にほぼ沿って体重は増加していきます。 出生して最初の1か月体重の増加が遅延していても、ほとんどの赤ちゃんはその後体重は増えていきます。 もし、体重や体重の増加が同年齢・同性の他の小児と比べて著しく低い場合は、「発育不全」と定義されます。 発育不全のある子供は他の子供に比べ著しく小さいか背が低いのが特徴です。
発育不全の原因 発育不全の原因には、器質的(内因性)原因と非器質的(外因性)原因があります。 器質的原因とは、医学的な原因がある場合で、例えば、ダウン症候群やターナー症候群のような染色体異常、ある臓器系の異常、甲状腺機能低下症や成長ホルモン分泌不全のような内分泌的異常、脳性まひなどの脳や中枢神経系の異常、心肺系の異常、貧血や他の血液疾患、消化不良や消化酵素欠損などの消化管系の異常、代謝異常、長期間の感染、出産時の低体重、ミルクアレルギーなどがあります。 便秘、過度に泣く、過度にぐずる、などの原因もあります。 非器質的原因とは環境要因で起こるもので、授乳や食事の問題、食事時間が一定していない、母乳の量が足りない、調整乳や他の食事によるカロリー摂取量が少ない、などです。 発育不全のほとんどの原因がこの非器質性原因によるものです。 また、器質的原因と非器質的原因のミックスしたような混合性原因もあります。
発育不全の症状 症状としては、体重や身長が極端に低いということですが、実際の体重・身長より重要なのは、体重と身長の増加率です。 発育不全のある場合、身長、体重、頭囲が成長曲線外、すなわち、体重が成長曲線の3標準偏差以下(5パ-センタイル以下)、または身長に比べ体重が予想体重の2割以下になります。 また、発育不全は、長期に及ぶと発達の障害を起こし、寝返り、つかまり立ち、歩行などの発達に影響の出ることがあります。 更に、精神年齢及び社会的発達の遅れの原因になることもあります。
発育不全の診断 問診では、授乳歴、食事歴が重要です。 母乳、調整乳、離乳食などの授乳、栄養の評価、母乳不足や人工調整乳の不適切な調合などが存在するかどうか、十分な栄養が与えられているかどうか、貧困が存在するかどうか、両親と小児の関係などの評価が行われます。 他に両親の小児に対する無関心、不安、敵意などの存在や、育児のストレスがあるかどうかなどの心理的評価も必要です。 また、体重増加の評価をするために、定期的に体重の記録を行います。 器質的原因か非器質的原因かを区別するために、血液検査、血液算定、血中電解質、甲状腺ホルモンや成長ホルモンなどのホルモン検査、X線検査による骨年齢の測定、尿検査などが行われることがあります。
発育不全の治療 治療は原因によって異なってきます。 栄養不足による成長不全は、両親への教育やよりバランスの取れた食事の供給で解決を図ります。 母乳不足の場合は、母乳の授乳指導、母乳で不十分な場合は、人工調整乳を足したり、母乳にカロリーを増やす添加物を加える場合もあります。 1日の必要量の1.5倍程度までカロリーを増やします。 頻回に体重をモニターし、カロリー増加に対応して体重が増加するかどうかを評価します。 離乳食期の小児に対しては、野菜・ごはんを中心とした離乳食ではカロリーが不足する傾向があるので、乳児用のライスシリアルを利用して、それに母乳や調整乳を加えるとカロリーを手軽に増加させることができます。 社会的・精神的な原因のある場合は、家族環境や家庭環境の改善によって解決を図ります。 カウンセリングや栄養指導を利用する方法もあります。 発育不全が改善しない時や重篤な場合は、入院加療が必要になります。 器質的原因のある場合は、その原因によって医学的な治療の対象になります。
栄養不全の予後 発育不全が短期の場合は、発達に対する影響は少なく、発育不全が改善されると正常に発達する場合が多いのですが、成長不全が長期に渡る場合は、社会的精神的発達にも影響が出てきます。 |
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(2013年5月1日号掲載) |