Tuesday, 20 May 2025

熱性けいれん Febrile Seizure(2013.11.1)

kim top 
 
dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


ご質問、ご連絡はこちらまで

       
column line
 

 

熱性けいれん

Febrile Seizure

       
       

 

熱性けいれんは、生後6か月から5歳までの子どもに起こる、発熱に伴うけいれんです。

 

 

 

特に1〜3歳の子どもに多く、生後6か月以内、3歳以降は稀 (まれ) です。

 

 

 

けいれんの大半は発熱の初日に起こり、数分間で自然に止まりますが、中には15分以上続くこともあります。

 

 

 

けいれん中は意識や反応がなく、大抵は目をどちらか一方に向けています。

 

 

 

子どもの2〜3%が熱性けいれんを起こし、その3分の1は2回以上熱性けいれんを経験します。

 

 

 

 

熱性けいれんの原因

 

 

原因は未だに分かりませんが、体の深部体温の調整を行っている視床下部という脳の一部が、乳幼児では未発達のために熱に過敏になって、けいれんを起こしてしまうのではないかと考えられています。

 

 

発熱の原因としては、ウイルス性または細菌性の感染などで、風邪も発熱の原因になります。三種混合 (ジフテリア、破傷風、百日咳) や MMR (はしか、おたふく風邪、風疹) などのワクチン摂取後に起こることもあります。

 

 

 

 

熱性けいれんの種類

 

 

♦単純熱性けいれん —— 最も一般的な熱性けいれんで、けいれんの時間は数秒から15分まで、全身性のけいれんで24時間以内に再発はしません。

 

 

♦複雑熱性けいれん —— けいれんが15分以上続く、24時間以内に2回以上起こる、体の一部分だけけいれんする、などがある場合。

 

 

 

 

熱性けいれんを起こしやすい小児

 

 

親や兄弟姉妹に熱性けいれんの病歴がある場合、生後15か月以下の子ども、発熱を何度も起こす子どもは熱性けいれんのリスクがあります。

 

 

発熱している子どもに、毛布や布団を被せると体温をさらに上昇させる可能性があるため、これもリスクになります。

 

 

また、前述の熱性けいれんのリスク以外に、初回の熱性けいれんが、熱が始まって比較的間もない時期や低い発熱の時に起こった場合、再発のリスクが高いと言えます。最初の熱性けいれんが比較的長く起こったとしても、再発の頻度には関係ありません。

 

 

 

 

熱性けいれんの症状

 

 

症状としては、眼球の上転や偏移、手足の硬直、意識消失が主なもので、数秒から数分すると自然に止まります。

 

 

手足がピクピクけいれんしたり、唇の色が悪くなることもあります。けいれんの後、しばらくはぼーっとしています。

 

 

ほとんどの熱性けいれんは単純熱性けいれんなので、体の一部だけけいれんすることはありません。

 

 

他に、転倒、失禁 (おしっこや便を漏らす)、嘔吐、舌を咬む、息が止まって皮膚が青くなるチアノーゼになることがあります。

 

 

けいれんはリズミカルな筋肉の運動で、通常、両親の声には反応しません。

 

 

 

 

熱性けいれんの診断

 

 

単純熱性けいれんの場合、特に検査は必要ありません。

 

 

 

ただし、複雑熱性けいれん、あるいは髄膜炎、脳炎、てんかんなどの可能性がある場合は、脳波、頭のCT、腰椎穿刺 (ようついせんし) による脊髄液検査などが必要になります。

 

 

 

特に、小児が生後6か月以内、5歳以上、中枢神経や発達障害などの持病のある時、神経学的な異常がある時などは詳しい検査が必要になります。

 

 

 

熱の原因が不明な場合は、血液検査、尿検査、鼻腔などからのウイルス検査、胸のレントゲンなどを行います。

 

 

 

 

親ができること

 

 

子どもがけいれんを起こすと「死んでしまうのではないか」という不安感や恐怖感を持つかもしれませんが、なるべく冷静に対処します。

 

 

子どもをよく観察し、二次的な事故を防ぎます。

 

 

子どもは床など安全な場所に寝かせます。

 

 

近くに鋭利な物や危険な物がある場合は除去します。

 

 

けいれんを止めようとして手足を制限したり、抱き上げてはいけません。

 

 

嘔吐などによる窒息を防ぐには、子どもを横向きあるいは腹ばいに寝かせます。

 

 

もし、子どもの口の中に何か入っている場合は優しく除去します。

 

 

舌を咬むのを防ぐ目的で口の中に物を入れてはいけません。

 

 

逆に、口の中を傷つけたり、窒息の原因になります。

 

 

 

けいれんが始まったら時間を計ってください。

 

 

 

10分以上けいれんが続く場合は、救急車を呼んで近くの救急室に連れて行ってもらってください。

 

 

 

けいれんが10分以内に終了した場合は、熱の原因を調べるために、子どもの主治医に連絡をして診てもらってください。

 

 

 

首の硬直、長い意識障害、頻回の嘔吐がある場合も救急車を要請してください。

 

 

 

 

熱性けいれんの治療

 

 

熱性けいれんに対する治療は特にありませんが、発熱に対しては、アセトアミノフェン (商品名:タイラノ−ル) やイブプロフェン (商品名:モトリンあるいはアドビル) を使用します。

 

 

ただし、熱冷ましで熱性けいれんの時間が短縮したりするわけではありません。

 

けいれん中は口の中に薬を入れないでください。

 

 

 

おでこや首のまわりを優しく水で塗らしたタオルなどで拭いてあげたり、体をぬるま湯でスポンジで濡らしてあげるのは構いませんが、冷たい水やアルコールを使用してはいけません。

 

 

 

けいれんが終わって子どもが目を覚まし、普通にしていれば、通常の量のアセトアミノフェンやイブプロフェンを経口であげてください。

 

 

 

熱性けいれんが終わった後は、熱の原因を探ることが重要になってきます。

 

 

 

連絡を取って小児科医に診てもらいましょう。

 

 

 

髄膜炎が原因になることは 0.1%以下です。

 

また、発熱の原因が細菌性の時は抗菌薬が必要になります。

 

 

通常、入院は必要ありませんが、症状の重い場合、けいれんが長く続いた場合、重篤な感染のある場合などは観察入院が必要になることがあります。

 

 

 

 

熱性けいれんの予防

 

 

発熱のある場合、子どもの症状を改善するために熱冷ましをあげますが、熱冷ましで熱性けいれんが予防できるわけではありません。

 

 

フェノバービタルやバルプロ酸などの抗けいれん薬を毎日与えて熱性けいれんを予防することは、副作用のことを考えると現実的ではありません。

 

 

また、それで予防できる保証もありません。   

 

 

 

1時間以上続くような長時間の熱性けいれんや、何度も繰り返す熱性けいれんは、抗けいれん薬であるジアゼパンの座薬による予防の対象になりますが、ほとんどの子どもには必要ありません。

 

 

副作用としては眠気、過活動性などです。

 

 

 

 

熱性けいれんの予後

 

 

熱性けいれんは脳や人体に害はありません。

 

 

熱性けいれんによって、死、脳障害、知能の低下、学習障害などは起こりません。

 

 

大抵の子どもは5歳を過ぎると熱性けいれんを起こしにくくなります。

 

 

一生の間に3回以上熱性けいれんを起こす子どももいますが、熱性けいれんを起こす回数と将来てんかんになる可能性とは相関がありません。

 

 

脳性まひ、発達障害、他の神経学的異常のある小児は、その後てんかんを持つ確率が高くなりますが、それ以外の子どもがてんかんを持つようになる確率はわずか1%です。

 

 

 

熱性けいれんのタイプも問題です。

 

 

 

1時間以上続くごく稀なタイプの熱性けいれん、体の一部分に起こる熱性けいれん、24時間以内に再発するタイプはてんかんを持ちやすくなります。

 

 

 

単純熱性けいれんでは、特に深刻な合併症は起こりません。

 

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。過去の「アメリカ健康ノート」の記事は、私のウェブサイトwww.usjapanmed.com またはwww.dockim.com で読むことができます。
 
(2013年11月1日号掲載)

​