Saturday, 20 April 2024

再生不良貧血 Aplastic Anemia (2013.12.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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再生不良貧血

 

Aplastic Anemia

       
       

 

 

再生不良貧血は、骨髄が必要量の新しい血球を作らなくなる疾患ですが、稀 (まれ) な病気です。

 

 

骨髄は骨の中に存在し、スポンジのような組織で、造血幹細胞という未熟な細胞を作り、この細胞がさらに、赤血球、白血球、血小板に発達します。

 

 

赤血球は酸素を体の隅々の組織まで運搬し、二酸化炭素を代わりに肺まで戻す働きを持っています。

 

 

白血球は細菌やウイルスなどの感染と闘う血球で、血小板は血管の小さな傷を塞ぎ、出血を止める役目を持っています。

 

 

 

赤血球の寿命は約120日、白血球は1日以内、血小板は約6日なので、骨髄はこれらの血球を絶え間なく生産して補っています。

 

 

もし、骨髄がこのような血球を必要なだけ生産しなくなると、赤血球、白血球、血小板の数は減少し、多くの健康障害が起こります。

 

 

 

 

再生不良貧血の原因

 

 

先天的な原因と後天的な原因がありますが、後者が一般的です。

 

 

先天的な原因としては、ファンコニ貧血、シュワッチマンーダイアモンド症候群などがありますが、非常に稀です。

 

 

先天的な原因以外は後天的な原因に分類されますが、多くの場合、原因は特定できません。

 

 

また、自分の抗体が自分の骨髄を攻撃する自己免疫疾患の可能性もあります。

 

 

 

 

原因として考えられているのは、殺虫剤・砒素 (ひそ)・ベンジンなどのトキシン (毒素)、放射線、化学療法、クロラムフェニコールのような薬、肝炎・EBウイルス・サイトメガロウイルス・パーボウイルスB19・HIVなどによる感染症、全身性エリテマトーデスや関節リウマチのような自己免疫疾患、妊娠などです。

 

 

時には、悪性腫瘍が骨に転移して起こす場合があります。

 

 

薬物や妊娠によるものは一時的な可能性が高いです。

 

 

 

 

再生不良貧血の症状

 

 

症状は、それぞれ減少する血球によってもたらされます。

 

 

赤血球が低くなると、貧血により疲れやすくなる、息切れ、めまい (特に立ち上がった時)、頭痛、手足の冷感、青白い皮膚、胸痛、不整脈、心雑音、心肥大、心不全などが起こります。

 

 

 

 

白血球が減少すると、感染と闘うことが困難になり、感染を何度も起こしたり、発熱やインフルエンザ様症状が長引く原因になります。

 

 

 

 

血小板が不足すると、血管壁の損傷の修復や出血を止める作用が低下し、鼻血、歯茎からの出血、皮膚の小さな出血点、便に血が混じるなどの症状が起こります。

 

 

 

 

再生不良貧血の診断

 

 

主に、問診と診察。そして血液検査です。

 

 

問診と診察の後、血液検査で血球成分を調べます。

 

 

血液算定 (血算=CBC) で、赤血球数、白血球数、血小板数が測定できます。

 

 

また、ヘモグロビンやヘマトクリットの値も分かります。ヘモグロビンは鉄分の含まれるタンパク質で、酸素を体の隅々まで運搬します。

 

 

ヘマトクリットは血液中にどれだけ赤血球が占めているかの値です。

 

 

ヘモグロビンやヘマトクリットが低いと貧血と定義されます。

 

 

 

 

血液検査で網状赤血球数を計ります。

 

 

網状赤血球数は血液中の幼若な赤血球の数を測定し、骨髄が正常なペースで赤血球を生成しているかを見ます。

 

 

再生不良貧血のある人は、この値が下がります。

 

 

 

 

確定診断のために骨髄検査をします。

 

 

骨髄検査では骨髄が健康で十分な血球を生成しているかどうかを調べます。

 

 

また、骨髄が十分な血球を生成していない原因が分かる可能性もあります。

 

 

この検査では針で骨髄液を採取するのですが、再生不良貧血では3系統すべての血球の減少が見られます。

 

 

 

 

他の検査としては、X線検査 (胸部X線など)、CT、超音波検査、血液検査による肝機能評価、ビタミンB12、葉酸レベルなどを調べる検査などがあります。

 

 

 

 

再生不良貧血の治療

 

 

治療には、輸血、骨髄移植 (造血幹細胞の移植)、薬物療法がありますが、軽度及び中程度の人は状態が悪くならない限り、治療は必ずしも必要ではありません。

 

 

重度の人は治療が必要になります。

 

 

特に重症の人は病院での救急治療が必要で、治療が遅れると命にかかわることがあります。

 

 

 

 

輸血では不足している血球を補います。

 

 

輸血は症状の改善をもたらしますが、恒久的な治癒が得られるわけではありません。

 

 

輸血する血球としては、赤血球や血小板があります。

 

 

 

 

骨髄移植は健康な造血幹細胞を移植することによって血球産生を促すものですが、輸血のようにドナーからの造血幹細胞をカテーテルという管を通じて、血液中に入れると、造血幹細胞は骨髄に至り、新しい血球を産生し始めます。

 

 

移植の前に、異常な造血幹細胞を処理しておく必要があります。

 

 

 

 

骨髄移植の最適者は、他に健康上の異常のない重症の子どもや若い成人です。

 

 

年齢の高い人は、移植に必要な治療に耐えられない可能性が高いばかりでなく、移植後の合併症を伴う確率が高くなります。

 

 

 

 

薬物治療としては ①骨髄の刺激、②免疫の抑制、③感染の予防と治療 —— という3つに分かれます。

 

 

 

 

骨髄を刺激する薬物としてはエリスロポイエティンとコロニー刺激因子があります。

 

 

副作用があるので、ベネフィットとリスクを秤 (はかり) にかけて治療の方針を立てます。

 

 

 

 

免疫抑制療法は、骨髄移植が不可能な人や自己免疫疾患による再生不良貧血の人が対象になります。

 

 

免疫抑制剤としては、抗胸腺細胞グロブリン (サイモグロブリン=ATG)、サイクロスポリン、メチルプレドニゾロンなどがあります。

 

 

これらの治療薬は症状を改善し、再生不良貧血による合併症を下げる効果があるので、日常生活が送れるようになります。

 

 

 

 

また、骨髄が新しい血球を作るのを助けます。

 

 

効果が出てくるには数か月の月日がかかりますが、再生不良貧血を治癒するわけではありません。

 

 

長期の治療が必要なので、これらの薬による副作用が問題になってきます。

 

 

また、これらの薬の使用によって、白血病や骨髄形成異常症になる確率が上がります。

 

 

 

感染を予防したり治療したりする薬としては、抗菌薬や抗ウイルス薬があります。

 

 

 

 

日常生活で気をつけること

 

 

再生不良貧血があっても多くの人は治療を受け、普通の日常生活が送れます。

 

 

 

 

日常生活上気をつけることとしては、病気の人と接触するのを避ける、人ごみを避ける、生ものは食べない、手洗いを頻繁に行う、歯磨き、歯のフロシングをよく行い口の衛生を保つ。肺炎球菌や、毎年のインフルエンザの予防接種を受ける。十分休息を取る、フルコンタクトのスポーツを避ける —— などです。

 

 

 
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(2013年11月1日号掲載)

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