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金 一東
日本クリニック・サンディエゴ院長 |
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蟯虫(ぎょうちゅう)症 Enterobiasis = Pinworm infection |
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蟯虫症は世界中どこでも存在し、アメリカでは最も一般的な回虫感染症で、毎年4000万件程度発生します。
蟯虫は誰でも感染しますが、特に5〜10歳の学童、施設の入居者、感染者の家族に多くみられます。
人間のみの感染症で、ペットには感染しません。
蟯虫
蟯虫は、小さくて白い糸のような回虫で、口から卵が体内に入り、小腸で幼虫になった後で大腸に移動し、4〜6週間かけて成虫になります。
メスの体内で卵が発育するとメスは直腸に移動し、人が寝ている間に肛門から出て肛門周囲の皮膚に産卵します。
その卵や粘着性の物質による炎症で痒 (かゆ) みが起こります。
メスの蟯虫が一生の間に産卵する卵の数は1万個以上です。
メスの成虫は8〜13mm、オスの成虫は2〜5mm 程度の大きさです。
オスの寿命は約2週間、メスは2〜3か月程度。
卵は暖かく乾いた環境では1〜2日で死にますが、涼しくて湿気のある環境では2〜3週間生存することができます。
蟯虫症感染の様式
夜、寝ている間に肛門近くを掻 (か) くと卵が爪について、食べ物や他の場所へ直接あるいは間接に移動します。
爪以外にも、下着やパジャマなどの衣類、シーツなどの寝具、おもちゃなどに付着して移動することもあります。
感染者がよく手を洗わないで食事をしたり、料理をすると、卵が口から入ることがあります。
感染者本人であれば再感染が起こり、他の人であれば感染が広がります。
このように、蟯虫症は「肛門から口へのルート」で広がります。
蟯虫の卵は産卵後2〜3時間すると感染性を持つようになり、前述の様式で感染が広がっていきますが、蟯虫の卵は非常に小さいために、空中に舞い、呼吸とともに呑 (の) み込んでしまって感染することもあります。
蟯虫症の症状
蟯虫症は症状のないことも多いのですが、メスの産卵により肛門周囲に痒みが起こります。
この痒みが強い時は、睡眠障害や肛門周囲を掻くことで細菌性の2次感染を起こすことがあります。
成虫が炎症を起こした虫垂で発見されることがあるため、成虫の虫垂への侵入が虫垂炎の原因になるのではないかと考えられていますが、議論の分かれるところです。
蟯虫症の診断
蟯虫症を診断するのにはいくつか方法がありますが、最も一般的で確実な方法は、朝起きて、すぐに肛門周囲をスコッチテープや粘着性のテストキットを使用して卵を採取し、顕微鏡検査をすることです。
1回のテストで卵を発見できる確率は約50%ですが、3日連続で検査をすると90%の確率になります。
これは蟯虫が必ずしも毎日産卵するわけではないからです。
便の中には卵は存在しないので、便検査をしても蟯虫の卵は発見できません。
入眠して2〜3時間後に肛門周囲を見てみる方法もあります。
白い糸のような成虫が肛門周囲に見えるかもしれません。
おしりが痒い人の爪を調べると、卵が付いている可能性があります。
無意識におしりを指で掻いているからです。
蟯虫症の治療
治療は、アルベンダゾール (商品名:Albenza) やメベンダゾール (Vermox) の経口駆虫剤を使用します。
ピランテルパーモエートは市販で購入できますが、最近はあまり使用されていません。
治療は2週間あけて2回行います。
これらの薬では蟯虫の卵は駆除できないので、卵から孵化 (ふか) した後の幼虫を駆虫するため、2回目の治療が必要なのです。
家族や一緒に住んでいる人は全員、同時に治療を受けます。
再感染は簡単に起こるので、以下に述べる予防が重要になります。
妊娠中の女性は、妊娠後期まで待って治療をします。授乳中でも治療はできます。
蟯虫症の予防
蟯虫症の予防で最も効果的な方法は、石鹸を使用してよく手洗いをすることです。
特に、排便後やおむつ交換後。食べ物に触れる前や料理前にも手洗いをよくします。
体や下着などに付着している可能性があるので、毎朝シャワーを浴び、下着を換えます。
下着やパジャマなどの衣類、シーツ類などは、感染が完全になくなるまで熱い水で洗濯をし、乾燥器で高温乾燥させます。
下着、パジャマは毎日洗濯を2週間、その他の寝具は洗濯を3〜7日おきに3週間続けます。
爪は短く切り、爪を咬 (か) むのを止めます。
施設、保育園、学校では蟯虫のコントロールが困難です。
施設などでは入所者全員に薬を服用させる方法もあります。
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この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。 | |||
(2014年4月1日号掲載) |