Thursday, 28 March 2024

膵炎(すいえん) Pancreatitis(2014.9.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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膵炎(すいえん)

Pancreatitis

       
       

 

膵炎は、お腹の上部に位置する膵臓が炎症を起こして腹痛などの症状を起こす病気ですが、アメリカでは年間20万人以上の人が急性膵炎で入院しています。

 

 

膵炎とは

膵臓は、インスリン、グルカゴンなどのホルモンを血中に放出するだけでなく、アミラーゼ、リパーゼなどの消化酵素を十二指腸に分泌し、食べ物を分解して消化管からの吸収を助けています。

膵炎になると、食べ物を分解するはずの消化酵素が膵臓自身を分解するようになります。

特に、トリプシノ-ゲンという消化酵素はトリプシンに変化し、強力な膵臓分解を進めます。

その結果、痛みや膵炎の合併症が引き起こされます。

膵炎は急性膵炎と慢性膵炎に区別されます。

 

 

膵炎の原因  

膵炎の原因は、胆石による総胆管 (胆のうから出た胆汁が十二指腸に至るまでの管) 下部の閉鎖、アルコールの飲用、外傷、ウイルス感染症、ステロイドの服用、自己免疫疾患、高脂血症、高中性脂肪血症、高カルシウム血症、膵臓の腫瘍、薬の副作用、遺伝などですが、原因が分からないことも多いのです。

急性膵炎の場合は胆石、慢性膵炎の場合はアルコールの常用が一番多い原因とされています。

 

 

膵炎の症状  

急性膵炎の症状としては上腹部の痛みですが、左側腹部の痛みや背部痛がある時もあります。

急に始まることもあれば、徐々に症状が出たり、激痛の時もあれば、痛みは軽度で、飲食後に痛みが悪化することもあります。

腹痛以外に、嘔気、嘔吐、発熱、頻脈、腹部膨満などの症状も伴います。

重症になると、脱水、低血圧、膵臓からの出血、ショック状態、そして死に至ることがあります。

慢性膵炎の症状は、急性膵炎の症状以外にも、腹痛のない場合、体重減少、下痢、脂肪性便などがあります。

膵臓の消化酵素によって膵臓が破壊されていくと痛みが起こらなくなってきます。

また、慢性膵炎が進行すると、糖尿病や消化不良から栄養失調になります。

 

 

膵炎の診断

膵炎は、上腹部痛があり、血液検査でアミラーゼやリパーゼが正常値の数倍以上上昇していると診断されますが、発症して間もない時期は、これらの消化酵素の血中値が必ずしも上昇していない場合があります。  

また、アミラーゼは約1割の急性膵炎で正常なので、必ずリパーゼも同時に検査します。

リパーゼは発症後4〜8時間後には上昇してきます。

慢性膵炎の場合、急性膵炎の時のようにアミラーゼやリパーゼが血液検査で上昇しない場合があります。

それは、膵臓が慢性的な損傷を受け、アミラーゼやリパーゼのような消化酵素を作れなくなるからです。  

白血球、血糖、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどの値も変化します。

血液検査以外の検査としては、腹部超音波、CT、MRI などがあります。  

腹部超音波検査では、胆石が原因になっていれば胆石を発見したり、胆石による総胆管の拡張、膵臓内の仮性のう胞、腫瘍なども評価します。

CTスキャンはそれ以外にも、膵臓の損傷の程度も評価できます。  

内視鏡的超音波検査は、お腹の内部から総胆管や膵臓の状態を調べます。

他に、MRIを利用した総胆管膵管造影である MRCP、内視鏡的逆行性総胆管膵管造影 ERCP などの特殊な検査法もあります。

 

 

膵炎の治療  

治療は、急性膵炎で軽度の場合は、数日入院して点滴や薬物治療を受けます。

その間、絶食で膵臓を休ませます。

嘔吐のある時は、鼻から管を胃に入れて胃内の空気や水分を吸引します。

合併症もなく軽度の場合は数日で快方に向かいます。

退院後は喫煙、アルコール飲料、脂肪分の多い食事などを避けます。  

重症の場合 (急性膵炎の約2割) は死亡率も高いので、ICU (集中治療室) に入院したり緊急処置が必要になることがあります。

痛みに対しては、モルヒネやメペリディンなどの強力な痛み止めが使われます。  

慢性膵炎は長期間の間に徐々に進行していきますが、症状が悪化した場合は急性膵炎と同じように数日入院し、絶食して点滴、薬物治療を受けます。

また、体重減少、栄養失調のある場合は、鼻から胃に管を入れて、そこから栄養液を供給する経鼻栄養を数週間続ける場合があります。

 

 

内視鏡的逆行性胆管膵管造影 (ERCP) による治療  

ERCPは内視鏡的に膵臓、胆嚢のう、総胆管を造影する方法ですが、入院後に専門医によってこの検査が行われます。

仮性嚢胞があると、ERCPから出たワイヤーで中に溜まった液体などを出すドレナージ (排液) が行われます。

胆石が総胆管や膵管などに詰まっていると、それを除去します。

もし、総胆管や膵管で狭窄している部位があると、ステントを入れてその部分を拡張します。

また、バルーンで狭窄している部分を広げる方法もあります。

 

 

膵炎の合併症と対処  

胆石のある場合は、胆のう摘出術を入院中か退院後に行います。

重症の場合は ERCP による胆石除去術を受けます。

感染のある場合は、ERCPや手術による感染部位のドレナージが必要になります。

原因のはっきりしない重症の膵炎では、手術による原因の発見や壊死 (えし) した膵臓の一部組織を除去する手術が行われます。

仮性のう胞という液体や死んだ組織が溜まった袋のある場合は、ERCPなどを利用して排液します。  

急性膵炎は重症の腎不全を起こすことがあります。

その場合は人工透析や腎移植が必要になります。

急性呼吸不全のある場合は、酸素投与や重症の場合は人工呼吸器による補助呼吸が行われます。

 

 

生活上の注意点  

上述したように、急性膵炎で退院した後は、喫煙、アルコール飲料、脂肪分の多い食事などを避けます。

慢性膵炎で経口による食事ができる場合は、消化酵素薬を服用したり、脂肪分の少ない少量の食事を頻回に取るようにします。

水分を多めに取り、カフェイン飲料を制限します。

喫煙とアルコールは慢性膵炎の場合も禁止です。

 

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2014年9月1日号掲載)

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