Monday, 15 April 2024

デング熱* Dengue Fever(2014.10.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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デング熱*

Dengue Fever

       
       

今年8月下旬、海外への渡航歴のない人がデング熱を発病し、約70年ぶりの日本国内での発生ということで大ニュースになりました。

海外の流行地で感染し、日本へ帰国する症例が毎年200例近くあるそうですが、今年は国内発生が141例 (2014年9月19日現在) に達し、デング熱という病名を耳にする機会が増えました。

感染源は主に代々木公園、新宿中央公園などの公園に生息する蚊だと考えられています。

 

 

デングウイルスの感染

デング熱はウイルスによる感染症で、原因になるデングウイルスは日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科に属し、4つの血清型があります (1型、2型、3型、4型)。

人間が主な宿主 (ホスト) で、メスの蚊が人間の血を吸うことによって8〜12日の潜伏期間後に感染性をもち、約1か月デングウイルスを広めます。  

熱帯および亜熱帯に生息するネッタイシマカによってデングウイルスが媒介しますが、この蚊は日本には生息していません。

ヒトスジシマカは日本に生息する蚊で、デングウイルスも媒介することが知られています。

海外の流行地で感染した人が帰国し、蚊に吸血されることにより、その蚊が周囲の人にウイルスを伝播する可能性は少ないながらもあります。  

ヒトスジシマカの活動期は5月中旬から10月下旬までで、冬を越すことができません。

また次世代の蚊にウイルスが伝わることがないので、現在の日本での流行は一時的で、次第に収束していくものと考えられています。

 

 

デング熱の流行地  

デング熱の流行地は、インドネシア、中南米、東南アジア、サハラ以南のアフリカ、カリブ海の一部などで、100か国以上の国で発生し、約25億人がデング熱発生地に住んでいます。

年間5000万人から1億人の人が感染していると考えられています。アメリカ国内でもフロリダ、ハワイ、テキサスなどで時々流行しています。

アメリカ国内で最もデング熱の発生が多いのはプエルトリコです。

デング熱は、こうした流行地に住んでいる人だけではなく、訪問したり、旅行する人たちの間でも発病が増えてきています。

 

 

デング熱の分類  

1975年から2009年まで、デングウイルス感染症は、デング熱、デング出血熱、そしてデングショック症候群の3つに分類されていました。

未だにこの分類が広く使われていますが、2009年11月にWHOがデングウイルス感染症分類のための新しい指針を発表しました。

新しい分類によると、デング熱の分類はなく、デングで警告徴候があるものとないもの、それと重症デングです。  

デング病の診断は、流行地に旅行したことがあるか、流行地に住んでいて発熱のある人で、以下の2つ以上の症状があれば可能性が高くなります。

嘔気 (おうき) または嘔吐 (おうと)、皮疹 (ひしん)、ターニケット試験 (血圧測定用カフによるテスト) が陽性、白血球減少、体の痛み。

警告徴候とは、重症化する可能性のある徴候で、腹痛または腹部の圧痛、継続する嘔吐、体液の貯留 (血漿=けっしょう=の血管外への漏出)、粘膜からの出血、傾眠 (けいみん) あるいはレストレス、肝肥大、血液検査で急激な血小板減少を伴うヘマトクリットの上昇で、特に注意する必要があります。  

重症デング病は、重度の血漿の血管外への浸潤があり、ショック状態や体液貯留に伴う呼吸困難、重度の出血、重度の臓器障害がある (肝臓、中枢神経、心臓など) と定義されています。

 

 

デング熱の症状

デングウイルスに感染してもほとんどの人 (7〜8割) は発病しません。

また発病しても大半の人が軽度から中度の症状で経過し、回復します。

症状で一番多いのは発熱です。大半が微熱から中程度の熱で重症にはなりませんが、5%くらいの人は重症になります。  

デング熱は、4〜7日の潜伏期を経て3つの病期を経過します。

発熱期、重症期、そして回復期です。発熱は2〜7日続きます。

頭痛、眼球後部痛、筋肉痛、関節痛、骨痛、紅班や出血の症状 (点状出血、出血班、紫斑、鼻血、歯茎からの出血、血尿など) などの症状もあります。

継続する嘔吐、激しい腹痛、粘膜からの出血、呼吸困難、脱水性ショックなどは重症化の徴候です。

 

 

デング熱の診断

デング熱は、過去2週間以内に流行地を訪問または滞在し、提起されている2項目以上の症状があれば疑われます。

一般的な血液検査では、白血球の減少、血小板減少、ナトリウムの低下、肝機能異常、血沈は正常、ヘマトクリットの上昇などが認められることがありますが、確定診断には血液によるPCR法やデングウイルス抗体の測定が使われます。

発症後5日以内で、1回の血液検査で診断する場合は、デングウイルス の遺伝子を検出するRT-PCR法、または病原体タンパクを検出をするNS1法という検査を行います。

発症後4日以上経過している時は、デングウイルスのIgM抗体を調べます。

発症後1週間以上経過している場合は、デングウイルスのIgM抗体を調べるのが最も確実な方法です。  

1回の検査でPCR法やNS1法で陽性になった場合は、症状や最近の旅行歴でデング熱が疑われた場合の確定診断になります。

デング熱発症初期にIgM抗体が陰性で、回復期にIgM抗体が陽性の場合はデング熱の確定診断になります。

 

 

デング熱の治療  

特別な治療法はありません。発熱や痛みにはタイレノ-ル (アセトアミノフェン)、脱水には経口または点滴による補液をします。

アスピリン、イブプロフェン、ロキソニンなどの抗炎症鎮痛薬は、出血傾向が悪化する可能性があるので避けます。

症状は1週間以上続くかもしれませんが、ほとんどの人が何の後遺症もなく回復します。

警告徴候のある人は、速やかに医療機関に行き、重症デングの人は緊急な集中治療が必要になります。

 

 

 

デング熱の予防

流行地に行くのを避ける。蚊に刺されない対策。

例えば、長袖のシャツや長ズボンの着用、虫除けスプレーの使用を考慮します。

特に、よく蚊に刺される早朝と午後遅めの外出を避けます。

 

* 2007年のWHOの分類では「デング熱」という分類はなく、「デング」とだけ記載されていますが、デング熱という病名の方が日本では一般的なので、このコラムでは「デング熱」を使用しています。

 

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2014年10月1日号掲載)

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