Thursday, 18 April 2024

麻疹(はしか) Measles(2015.3.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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麻疹(はしか)

Measles

       
       

昨年から今年にかけて、アメリカでは麻疹の大流行が起こっています。

 

アメリカでの麻疹感染者の報告数は例年数十人程度ですが、昨年は644人の感染が報告され、今年も2月6日までに121人の感染が報告されています。

 

アメリカで麻疹の感染源になる人は、予防接種を受けていないアメリカ人で麻疹流行地の外国へ旅行した人か、麻疹流行地からの外国人旅行者です。

 

昨年の流行は、フィリピンでの麻疹大流行がアメリカへ入ってきたようで、今年のカリフォルニア州での流行は、昨年12月17~20日の間にディズニーランドから始まっており、外国人旅行者が持ち込んで、麻疹の予防接種をしていないアメリカ人を中心に感染し広がったと考えられています。

 

 

 

麻疹の歴史

 

アメリカでは、麻疹の予防接種が始まる1963年以前は平均して毎年300~400万人が感染し、55万人が報告され、約1,000人が脳炎にかかり、約500人が死亡していました。

 

2000年にアメリカは麻疹根絶宣言を発表しましたが、毎年数十人程度の感染が報告されてきました。

 

世界に視点を向けると、未だに毎年2000万人が罹患し、約15万人が亡くなっています。

 

 

日本では、2008年に11,005人の感染が報告されましたが、翌年には732人と激減しました。

 

その後の予防接種の広まりとともに下がり続け、2013年には229例まで下がりましたが、昨年は463人に増えました。

 

 

 

麻疹とは?

 

麻疹は麻疹ウイルスによる急性感染症で、非常に感染力が強く、麻疹の感染者と密接な接触をすると10人中9人は感染してしまいます。

 

感染様式は感染者の息、咳、くしゃみなどによる飛沫を吸い込んで感染するか、感染者から体外に出たウイルスに直接触れることで感染します。

 

咳などで体外に出た麻疹ウイルスは、物の表面や空気中で2時間程度感染性を維持します。

 

 

 

麻疹の症状

 

まず発熱、倦怠感、咳、鼻水、結膜炎などの風邪様症状から始まり、数日して発疹が出てきます。

 

発疹が出る直前には、口内にコプリック班という特徴的な白色班が出現します。

 

発疹は顔面から体幹、上下肢という具合に広がっていきます。

 

発疹は感染して約2週間して出現します。

 

潜伏期間は通常10~12日程度 (最大3週間) です。

 

発疹の出現する4日前から発疹出現後の4日間は感染性があります。

 

免疫の低下した人では発疹が出ないこともあります。

 

 

 

麻疹の合併症

 

一般的な合併症は中耳炎、肺炎、咽頭炎などですが、1,000人に1人の割合で脳炎を起こします。

 

脳炎にかかると、恒久的な脳の障害を生じることがあります。

 

1,000人に1人か2人が呼吸器系や神経学的な合併症で亡くなります。

 

亜急性硬化性全脳炎 (SSPE) は稀 (まれ) な合併症ですが、感染後7~10年して知能障害、行動障害、けいれんなどが発症します。

 

合併症の起こりやすい人は、5歳以下の小児、20歳以上の成人、妊婦、それに免疫の低下している人です。

 

 

 

麻疹の診断

 

発熱と発疹があり、麻疹の臨床像とともに、最近外国に旅行したり、麻疹の疑いのある人と接触のあった人は、麻疹の疑い例として考えます。

 

直接医療機関に行くと他の人に感染を広める可能性があるので、必ず医療機関に問い合わせをして、どうしたらいいかを尋ねてください。

 

建物内でなく、駐車場の車の中で待機してもらったまま検査を行うことがあります。

 

検査としては、血液での麻疹ウイルスのIgM抗体とPCR法によるRNA遺伝子の検出法 (RT-PCR) が一般的です。

 

血液検査以外にも、咽頭 (いんとう) や 鼻咽喉 (びいんとう) のぬぐい液、あるいは尿の検体から麻疹ウイルスを分離することもあります。

 

 

 

麻疹の治療

 

麻疹には特別な治療法はありません。

 

主に症状に対する治療です。

 

麻疹感染者と接触してまだ発症していない場合は、予防の項で説明する予防法があります。

 

 

 

麻疹の予防

 

最大の予防法は麻疹ワクチンを受けることです。

 

現在、麻疹ワクチンはアメリカでは MMR  (麻疹、おたふく、風疹) またはMMRV (MMR+水疱瘡) の混合液で接種しています。

 

日本ではMR (麻疹、風疹) の混合液が使われています。

 

アメリカでのMMRの接種対象者は、小児では1回目が生後12~15か月の間、2回目が4~6歳です。

 

4歳以上でまだ1度も接種していない小児は28日間隔を取れば2回連続で接種できます。

 

1回の接種での予防効果は93%、2回受けると 97%まで上がります。

 

18歳以上の学生は、過去にMMRの接種歴がないか、麻疹に対する免疫のない人には、2回のMMRの接種が勧められています。

 

成人で麻疹に対する免疫のない人は少なくとも1回のMMR接種が勧められています。

 

1957年以前にアメリカで生まれた人はMMRを受ける必要がありません。

 

アメリカ国外に旅行を予定している人は、生後6~12か月の小児は1回のMMRの接種を、12か月以上の小児は2回のMMRの接種を、それ以上の小児と成人は2度のMMR接種が勧められています。

 

 

 

麻疹感染者との接触後の発症予防

 

麻疹感染者と接触しても、まだ発症していない潜伏期間中だと対処法があります。

 

感染者接触後72時間以内に麻疹ワクチンを接種するか、6日以内に免疫グロブリンの注射を受けると、ある程度発症を抑えたり、症状が緩和できる可能性があります。

 

感染者接触後も必ず発症するとは限らないので、72時間過ぎてもMMRワクチンは将来の予防のために受けてください。

 

麻疹が流行していれば、生後半年から1歳未満の小児はMMRワクチンを一度接種します。

 

ただしその場合、1歳から1歳3か月の間に2回目を、4~6歳で3回目を接種します。

 

医療機関で働いている人を除いて、感染者接触後72時間以内にMMRワクチンを接種した人は、職場や学校に戻ることができます。

 

麻疹に罹患すると症状が重症化したり、合併症のリスクの高い人、例えば1歳未満の小児、妊婦で麻疹の抗体のない人、免疫の著しく低下した人は免疫グロブリン治療を受けます。

 

1歳未満の小児はすべて免疫グロブリンの注射 (筋肉注射) の対象になりますが、感染者接触後72時間以内であれば、6か月以上1歳未満の小児はMMRワクチンでも代用できます。

 

免疫の著しく低下している人は、MMRワクチンを接種している人でも、ワクチンによる予防が期待できないので、やはり免疫グロブリン治療の対象になります。

 

他に、感染者との接触が濃厚だった人も対象になります。

 

例えば、家庭内、デイケア、教室内などでの接触です。

 

免疫グロブリン治療の後は、医療関係者を除いて、ケースバイケースで職場や学校に戻ることが可能です。(発症する可能性がかなり高い人を除いて)

 

感染者と接触した医療関係者で麻疹抗体のない人は、感染者接触後5日目から21日目までは職場に復帰することはできません。

 

 

 

麻疹に対して免疫があるということ

 

以下のうち、いずれかに該当すると、麻疹に対し免疫があることになります。

  • 学童期前小児、リスクの低い成人は、1歳以降に最低1度の麻疹ワクチンを受けている。
  • 学童期の小児、それにリスクの高い成人 (学生、医療関係者、外国に旅行する人など) は、2度のワクチン接種を受けている。
  • 血液検査で麻疹抗体 (IgG)  が存在する。
  • アメリカで1967年以前に生まれた人

 

 

 

麻疹感染者の隔離

 

麻疹感染者は、発疹出現後4日間の隔離が必要です。

 

何らかの理由で麻疹ワクチンを受けていない人か、受ける意思のない人、麻疹に対する免疫がなく感染者接触後の予防治療も受けていない人は、麻疹流行地の職場や学校から離れる必要があります。

 

その期間は、流行地最後の感染者に発疹が出現して21日を経過するまでです。

 

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2015年3月1日号掲載)

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