一酸化炭素中毒 Carbon Monoxide Poisoning(2015.5.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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一酸化炭素中毒 

Carbon Monoxide Poisoning

       
       

一酸化炭素中毒で、アメリカでは毎年2,500人 以上が亡くなっています。

 

そのうち2,000人以上が自殺など意図的な中毒によるもので、残り400~500人が予期しない中毒事故によるものです。

 

年間15,000人以上の人が一酸化炭素中毒で救急室を訪れ、約4,000人が入院しています。

 

日本では年間2,000人以上が一酸化炭素中毒で亡くなっているので、人口当たりで計算すると、一酸化炭素中毒による死亡者はアメリカの倍近くになります。

 

日米とも、一酸化炭素中毒は中毒症による死亡原因で一番多く、誰でも対象になるので、一酸化炭素中毒の早期発見、治療、予防方法を知ることは大切です。

 

 

 

一酸化炭素中毒の原因

 

一酸化炭素 (CO) は、炭素や炭素を含む有機物が不完全燃焼すると発生しますが、発生源としては、石油ストーブなどの暖房機、自動車やボートなどの排気ガス、ガソリンを使う発電機、火災、職場などがあります。

 

特に、寒冷地での室内暖房機や、ガレージ内外での自動車の空 (から) ふかしなどが多い原因です。

 

たばこの煙の中にも多量の一酸化炭素が含まれますが、急性中毒の原因にはなりません。

 

 

 

一酸化炭素中毒のメカニズム

 

一酸化炭素が肺から体内に入ると、血液中のヘモグロビン (Hb) と結合し、COヘモグロビン (COHb) =カルボキシ・ヘモグロビンを形成します。

 

ヘモグロビンは本来、酸素と結合して全身に酸素を運搬する役目を持っていますが、一酸化炭素は酸素の200~250倍の親和性でヘモグロビンと結合するのです。

 

この結果、カルボキシ・ヘモグロビンが体内に存在すると、酸素はヘモグロビンと結合できなくなり、体内が低酸素状態になってしまいます。

 

一酸化炭素は、酸素の30~50倍もの親和性で、筋肉や心筋内でミオグロビンとも結合し、組織内の低酸素症を悪化させます。

 

その他、いろいろな反応を体内で起こし、神経障害の原因にもなります。

 

 

 

一酸化炭素中毒の症状

 

軽症の症状は、頭痛、めまい、疲れ、嘔気 (おうき)、嘔吐 (おうと)、息切れなどで、特有の症状がなく胃腸炎や風邪症状と類似し、約3割の一酸化炭素中毒は見逃されます。

 

中等症や重症の場合は、失神、頻脈、頻呼吸、痙攣 (けいれん)、錯乱、肺水腫、心筋梗塞、ショック、意識消失、そして死亡することもあります。また、一酸化炭素中毒になると、皮膚の色が赤くさくらんぼのようになると言われていますが、重症の中毒でもめったに赤くなることはないようです。

 

一酸化炭素中毒は上述の症状以外にも、認知障害、抑うつ、パーキンソン症候群など様々な神経障害を起こしますが、急性期から続く持続性神経障害以外に、一旦症状が改善した後、数週間から数か月経過した後に遅発性神経障害が出ることがあります。

 

 

 

一酸化炭素中毒の診断

 

診断には詳しい問診が必要です。

 

自殺目的だったのか、石油ストーブなどでの事故なのか、火事によるものなのか。事故によるものでは複数の犠牲者が存在する可能性があります。

 

また、一酸化炭素中毒の症状によく似た他の原因がないかも調べます。

 

診察では、神経学的検査、心肺などの診察も重要です。

 

カルボキシ・ヘモグロビンが存在すると、血中の酸素濃度を簡単に調べることのできるパルスオキシメーターでは正確に測定ができません。

 

一酸化炭素中毒の診断・評価には血中のカルボキシ・ヘモグロビンの濃度を測定するのが一番確実な方法です。

 

血液検査でカルボキシ・ヘモグロビンの値が非喫煙者で2%以上、喫煙者で9%以上あると、一酸化炭素中毒が診断されます。   

 

血液で測定するCOオキシメーター以外にも、指にはさんで簡単に測定できるパルスCOオキシメーターという器械もあります。

 

カルボキシ・ヘモグロビンの値は非常に重要なので、一酸化炭素中毒の疑いのある人が搬送されると速やかに測定されます。

 

ただし、カルボキシ・ヘモグロビンの値と重症度は必ずしも一致しないことがあるので、臨床症状の評価、一酸化炭素暴露の評価などが重要です。

 

一酸化炭素中毒以外の疾患、薬物中毒、アルコール中毒、頭部外傷などの外傷などがないか、血液検査、頭部CTなど、臨床症状に合わせ、他の検査も必要になります。

 

重症の場合は、心電図、心筋酵素の測定などを行い、心筋梗塞、心筋虚血などの除外を行います。

 

胸部X線、頭部CTやMRIなども必要です。

 

 

 

一酸化炭素中毒の治療

 

一酸化炭素中毒で一番大切なことは、一酸化炭素中毒を起こしたその場所から一刻も早く離れるということです。

 

他に人がいる場合は、その人もその場所から離れるように即応します。

 

そして、換気を良くし、一酸化炭素中毒の原因になるものを止めます。

 

医療機関では高濃度の酸素 (100%) 投与を開始し、症状が改善するまで継続します。

 

軽症の人は4~5時間の酸素吸入で改善しますが、カルボキシ・ヘモグロビンは正常範囲内になるまで継続します。

 

カルボキシ・ヘモグロビンが25~30%以上ある中等度ないし重症の人で、心臓に影響がある、血液が重度アシドーシス (酸性に傾く) になる、意識喪失、神経学的異常、精神的に異常が認められる、あるいは36歳以上の人は高圧酸素療法の対象になります。

 

カルボキシ・ヘモグロビンの値が25%以下でも、症状や暴露状況から判断して高圧酸素療法の適応になることがあります。

 

妊婦の場合は重症でなくても高圧酸素療法の対象になります。

 

高圧酸素療法がマスクによる酸素療法よりも優れている点としては、体内より一酸化炭素をより早く除去できる、組織内への酸素供給を改善できる、一酸化炭素中毒後の神経学的後遺症の率を下げることができる、などです。

 

ただ、高圧酸素療法はどの病院でもできるわけではないので、適応のある人は、マスクによる高濃度酸素治療を受けながら他の施設へ移ることになります。

 

4~5時間マスクによる高濃度酸素の治療を受けたにもかかわらず症状の残っている人も、高圧酸素療法の対象になります。

 

高圧酸素治療を受けても、18%の人に神経学的後遺症が残りますが、マスクだけによる酸素療法を受けた人では、その割合が33%になります。

 

軽症の人でマスクによる高濃度酸素治療を受けて改善した人も、2週間後に再診察を受けます。

 

 

 

一酸化炭素中毒の予防

 

室内や閉鎖された空間、あるいは野外であっても、石油ストーブ、ガソリンなどを使用した発電機、エンジンをかけたままで車やボートで寝たり、エンジンをかけたままの車やボートの近くにいたりしないようにしましょう。

 

室内で石油ストーブなどを使用している場合は、換気を十分に行います。ガスレンジやガスによる給湯器や集中暖房機などは換気が十分行われているか定期的に点検を受けます。

 

暖炉を使用する場合は、煙突が詰まっていないことを確かめます。

 

換気口やベントパイプなどはテープで修理しないようにして、専門家に修理してもらいましょう。

 

一酸化炭素探知機を家の中に設置し、毎年電池を交換します。

 

その他、ガレージの中で車のエンジンの空ふかし、他の車のすぐ後ろを走行、エンジンをかけている車のすぐ後ろに駐車 ―― などは避けましょう。

 

万が一、一酸化炭素中毒症状が出て、換気をしたり外気を吸っても2~3分で症状が改善しない時は、すぐに救急室に行ってください。 

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。過去の「アメリカ健康ノート」の記事は、私のウェブサイトwww.usjapanmed.com またはwww.dockim.com で読むことができます。
 
(2015年5月1日号掲載)

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