金 一東
日本クリニック・サンディエゴ院長 |
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失神 Syncope |
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失神は一過性の意識の喪失です。 脳に行く血液の量が一時的に低下することによって生じます。 一時的な血圧の低下、心拍数の低下、体内血液量の低下などが原因になります。意識を失っても短時間で意識が回復しますが、少し混乱しているかもしれません。 失神は3〜3.5%くらいの人が一生の間に一度は経験します。 高齢になるにつれて頻度が高くなり、75歳以上の人は6%くらいの人が経験します。
失神の症状 失神は突然意識を失ってしまうことですが、失神が起こる前に、前駆症状という症状のあることがあります。 その前駆症状は、失神の前兆で、ふらふら感、めまい、もうろうとする、発汗、顔面蒼白、目の前に黒点が現れたり、トンネルのような狭い視界になる、頭痛、動悸などです。 この前駆症状の間に、座ったり寝たりして足を上げると失神にならないで済むことがあります。
失神の原因 失神の原因はいくつもあります。 失神のほとんどが、血管迷走神経反射によるもの、あるいは起立性低血圧によるもので心配のいらないことが多いですが、中には、心臓や脳の異常が原因で失神を起こすことがあります。 失神はその原因によって、いくつかの種類に分類されます。 以下は、代表的な失神です。
= 血管迷走神経性失神(神経心原性失神)= 血管迷走神経性失神は起立性低血圧と並んで最も一般的な失神で、突然の血圧低下で脳に行く血液量の低下が原因になります。 起立すると、重力で上半身の血液は下半身に移動し、脳への血液量は減少します。心臓と自律神経システムの働きでそれを防ぐようになっています。 起立した時に、下半身の血管が収縮して血液を上半身に押し上げ、脳に行く血液量が下がらないようにしますが、血管迷走神経性失神の場合、この機能が低下するのです。 きっかけになるのは、長時間の立位、暑さ、血液を見る、採血時、恐怖、排便、排尿、ストレス、痛み、恥ずかしさ、困難な状況、咳などです。 また、アルコールや睡眠薬の使用時は起こりやすくなります。
= 状況失神 = 血管迷走神経性失神の一種ですが、ある状況下でしか起こらない失神で、自律神経に影響して起こります。 脱水、過度なストレス、不安、恐怖、痛み、空腹、アルコールやドラッグ、過換気、激しい咳、首を回す、首回りのきつい衣類、排尿、排便時に起こります。
= 姿勢(体位性)失神 = 姿勢の急な変化で血圧が低下します。 横臥 (おうが) の姿勢から立位になった時 (起立性低血圧)。ある種の薬 (ベータ—阻害薬、他の抗高血圧薬、ニトログリセリンなど)、脱水、出血、高齢などが原因になります。 立位になると、収縮期血圧が20以上、拡張期血圧が10以上低下します (起立試験)。
= 心血管性失神 = 洞不全症候群、房室ブロック、上室性頻拍、心室頻拍、心室細動などの不整脈、肥大型心筋症、急性心筋梗塞、大動脈弁狭窄症、解離性大動脈瘤、肺塞栓、大動脈閉塞、血栓、心不全などが原因になります。 前駆症状のない意識消失、横臥位や労作時の発症、失神の前に胸痛、動悸、息切れが伴う、65歳以上、心疾患のリスクや心不全がある、突然死の家族歴、心電図異常などがあると疑います。
= 神経性失神 = けいれん、脳梗塞、一過性脳虚血、片頭痛、正常圧水頭症などの神経学的異常が原因になります。
= 体位起立性頻脈症候群(POTS) = POTSは座位や横臥位から起立した時に心拍数が非常に速くなることによって起こります (立位になってから10分以内に30以上心拍数が上昇)。
= 原因不明の失神 = 3分の1の失神は原因が分かりません。 薬の副作用、食事や水分を長時間取っていない、低血圧、低血糖、ストレス、睡眠不足、咳、飲酒、心因性などの原因が考えられます。
失神の診断 まず、問診と診察を行います。 疾患の既往、服用中の薬などをまず考慮します。 血液検査、心電図、負荷心電図、ホルター心電図、心エコー、体循環血液量検査、血行動態検査、自律神経反射検査などの検査を必要に応じて行います。 神経性失神の可能性がある場合は、脳波検査、脳の CT や MRI が必要になります。 Tilt テーブル検査は、失神の診断には重要で、よく行われる検査です。
失神の治療 失神の治療は、その原因によって異なります。 薬の副作用や原因疾患がある場合は、薬を代えたり、原因疾患の治療をまず行います。 不整脈が原因の場合はペースメーカーや除細動器の留置が必要になる時があります。 血管迷走神経性失神の場合は、血液の循環を良くするような着衣やストッキングを着る。水分や塩分をより多く摂取する。アルコールやカフェインは避ける。起立する時にゆっくり上がる。寝ている時は頭を上げる。急な体位の変化を避ける。 家族や身近な人に、失神の原因になるもの、その対処の仕方を知っておいてもらう。
失神が起こりそうになったら 血管神経性失神が起こりそうになったら、座るか横臥位になって足を上げます。 横臥位になれない時は、片手にゴムボールを持ってなるべく長く握りしめる。両手を胸の前でつかんでお互いの手を引っ張るようにする。両足をクロスして立って、足、おしり、お腹の筋肉を引き締めるようにする、などの方法が有効かもしれません。
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(2017年3月1日号掲載) |