窒息時の応急処置(その1) Choking and Heimlich Maneuver =ハイムリッヒ法= (2017.5.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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窒息時の応急処置(その1) 

Choking and Heimlich Maneuver =ハイムリッヒ法=

       
       

食べ物がのどに詰まって窒息した場合の応急処置であるハイムリッヒ法は、1974年、胸部外科医だったハイムリッヒによって考案・発表され、以来、世界中で多くの人命を救ってきました。

当のハイムリッヒ医師はというと、昨年96歳になるまで、実際の人にこのハイムリッヒ法を使ったことがなかったそうです。

昨年5月、住んでいた高齢者用住居施設で、食事中に隣り合わせた87歳の女性がハンバーガーを食べている時に突然窒息しました。

ハイムリッヒ氏はすぐさま椅子から立ち上がり、自分の名前の付いたハイムリッヒ法でその女性を救ったのでした。

その後のインタビューでハイムリッヒは、「その女の子を救うことができて幸せな気分だ」とおどけて答えています。

私の知人は、自分の母親がパンケーキを食べている時に窒息し、ハイムリッヒ法で救ったそうです。

このように、ハイムリッヒ法 (最近では、腹部突き上げ法とも呼ばれます) を知っていると、食べ物をのどに詰まられて窒息している一般の人を助けられるだけでなく、自分の家族や自分自身が窒息した時も対応できるようになるのです。

 

 

食べ物による窒息

 

窒息は、物がのどや気管支に詰まり、呼吸ができなくなる状態ですが、大人の場合、その原因の大半が食べ物によるものです。

幼児では、食べ物以外の小さな物がよく原因になります。

窒息すると脳に酸素が行かなくなるので、応急処置をなるべく早く行うのが重要になってきます。

 

 

窒息の徴候

 

窒息している人がよく行う動作は、のどの辺りを両手でつかむようにします(図1)。

もし、そうした動作が見られない場合は、他の徴候を見ることになります。

例えば、しゃべることができない、呼吸ができない、咳をすることができない、皮膚・唇、爪が青くなったり土色になる、意識をなくす、などです。

 

 

窒息した人を見たらまず行うこと

 

食べ物をのどに詰まらせた人を見たら、まず行うことは「食べ物をのどに詰まらせましたか?」あるいは「声を出すことができますか?」と聞きます。

もし、その人が咳をすることができたり、しゃべることができる場合は、応急処置は必要ありません。

強く咳をすることで、のどに詰まらせた食べ物を除去できることがあるからです。

 

 

窒息をした人に対する応急処置

 

意識のある1歳以上の人には、以下の応急処置を行います。

アメリカの赤十字では、窒息に対する応急処置として「5 and 5」を勧めています。

これは、背中をたたく方法を5回、ハイムリッヒ法を5回、交互に行う方法です。

 

◎  背中を5回たたく

手のひらで背中 (左右の肩甲骨の間) を5回たたきます。それで効果のない時は、次のハイムリッヒ法を行います。

 

◎   腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法) 

窒息した人が座っていたり立っている場合は、次にこの方法を行います。これはハイムリッヒ法と呼ばれている方法ですが、やり方は次のようになります。

① まず窒息している人の背後に立って、後ろから両手をその人のお腹に回します。(図2参照)

② それから片手を握り、親指の側をへそとみぞおちの間くらいに置き、反対の手をその上に重ねます。(図3参照)

③ それでお腹を持ち上げるように強く早く圧迫します。(図3参照)

 

窒息している人が仰向けになっている場合は、その人にまたがってこぶしを作って、へその上辺りを奥深く上に押し上げます。

前述の方法を5回ずつ行うのがこの「5 and 5」法です。背中をたたくという方法を省略することもできます。米国心臓協会のやり方では、背中をたたく方法は含まれていません。

自分一人しかいない時は、上記の応急処置を行った上で救急車を呼びます。他の人がいる時は、その人に救急車を呼ぶように頼みます。

 

 

窒息した人に意識がない場合

 

まず、口やのどの中に食べ物がないか調べ、見えればそれを除去します。

この時、それを奥に押し込まないようにします。

そして通常のCPR (心肺蘇生法) を開始します。

まず、2回息を吹き込み、続いて30回心臓マッサージを行います。その後、口の中を調べます。

心臓マッサージで詰まっていた食べ物が口の中まで上がってくることがあります。その後、また心臓マッサージを続けます。

 

(次回は、乳幼児に対する窒息の対処法を説明します)

 

 
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(2017年5月1日号掲載)