出血性疾患 Bleeding Disorders(2017.10.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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出血性疾患

Bleeding Disorders

       
       

怪我をした際や、歯を抜いた後に出血が止まりにくかったり、鼻血の回数が多く出血時間が長かったり、手足をぶつけてもいないのに青あざが多くできる人は、何らかの出血素因あるいは出血性疾患があるかもしれません。

体から出血がある場合、血液中の成分が液状の血液を固形状に変化させ、出血を止めます。

これが血液の凝固で、凝固因子と血小板が重要になります。

 

 

出血が止まるメカニズム

血管が損傷して、そこから出血が起こると、数秒以内に血液中の血小板が出血部位に集まり血栓を作り始めます。

さらに、数分以内に、肝臓で生成された凝固因子が集まり、血漿 (けっしょう) 中のフィブリノーゲンをフィブリンに代えて、血栓周囲の血を固まらせ、最終的に出血部位を塞ぎます。

このように、血小板と凝固因子の協働作用により血液が固まり出血を止めます。

 

 

出血性疾患の原因

血小板の数が少ない、その機能が障害されている、凝固因子に異常がある、あるいは血小板と凝固因子の両方に異常がある場合、出血が正常に止まらなくなります。

それ以外の原因としては、血管壁の異常、傷口の回復の異常があります。

出血の原因は以下のように分類されますが、遺伝性で一番多い原因はフォン・ビルブラント病と呼ばれるフォン・ビルブラント因子 (血小板が凝集して血管壁に付着するのを助ける) の不足によるものです。

後天的に起こるものの原因の多くは、薬剤の副作用またはビタミンK欠乏症によるものです。

 

こうした疾患の原因を簡単にまとめてみると以下のようになります。

  • 凝固因子の異常によるもの —— 各凝固因子の欠乏症、血友病AとB、肝硬変などの肝臓病、抗凝固剤、ビタミンK欠乏症によるものなど

  • 血小板の減少によるもの —— 特発性血小板減少性紫斑病 (ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP)、 薬剤性、全身性エリテマトーデス (SLE)、溶血性尿毒症症候群、急性白血病など

  • 血小板の機能障害によるもの —— 血小板無力症、薬剤性など

  • 血管壁の異常によるもの —— 遺伝性出血性血管拡張症など

  • 傷口の回復の異常によるもの —— クッシング症候群、ビタミンC欠乏症

 

また、原因を遺伝性と後天性に区別すると以下のようになります。

  • 遺伝性 —— 各凝固因子の欠乏症、血友病AとB、フォン・ビルブラント病など

  • 後天性 —— 抗凝固剤の使用 (ワーファリンなど)、肝機能障害、ビタミンK欠乏症、DIC (播種性=はしゅせい=血管内凝固症候群)、ガラガラ蛇などの咬傷 (こうしょう)、デング熱、白血病、消化管の消化吸収障害、薬の副作用

 

出血性疾患の症状

簡単に皮下出血やあざができる。生理量が多い。鼻血の量と回数が多い。傷口や歯ぐきからの出血がなかなか止まらない。関節内への出血 (血友病)、下血 (消化管出血)、脳内出血、血尿などです。

皮膚の出血は、点状出血 (小さな点状に出血) と班状出血や紫斑があり、青あざは後者です。

一般的に言うと、あざや皮下出血の場合は血小板の異常、関節や体内の出血の場合は凝固因子の異常、入院中の人で多発の出血のある人は、DIC (播種性血管内凝固症候群) かTTP (血小板減少性紫斑症) という重症の病気の可能性があります。

 

 

出血性疾患の診断

問診と診察、そして血球算定検査 (CBC) を行って、赤血球や血小板の数を調べます。

次にPT (プロトロンビン時間)、APTT (活性化トロンボプラスチン時間)、出血時間、血小板凝集機能検査、末梢血像検査などを行います。

血小板数、PT、PTT、出血時間だけでも多くの出血性疾患が鑑別できます。

例えば、PTが延長するもの — 肝硬変などの肝臓疾患、ビタミンK欠乏症、凝固因子のうちII、V、VII、X因子の欠乏症、フィブリノーゲンの欠乏、抗凝固薬ワーファリンの使用など。

APTTが延長するもの —— 凝固因子のうちII、V、VIII、IX、X、XI、XII因子の異常、ビタミンK欠乏、肝硬変、血友病など。PTとPTTの両方が延長するもの —— 肝硬変、ビタミンK欠乏症、第X、Ⅱ、Ⅰ因子欠乏症、ヘパリンの使用など。

PTとPTTに異常のある場合は、さらに詳しい検査を行います。

 

 

出血性疾患の治療

治療は出血性疾患の原因によって変わってきます。

治療によって原因は治癒できないかもしれませんが、症状を改善することはできます。

凝固因子欠乏症の場合は、欠乏している各凝固因子の補充を行います。

また、新鮮凍結血漿 (FFP) に凝固因子が含まれているので、その輸血を行うことがあります。

血小板の数が極端に低い時は血小板の輸血を行いますが、原因によってはステロイド治療などを行います。

薬剤によるものは、その薬剤を中止するか、他の薬剤に変更します。

皮膚の局所からの出血は、圧迫、鼻血であれば圧迫や鼻スプレーなどの対処を行います。

出血による貧血のある場合、軽度な時は鉄剤の服用を、重症の場合は輸血が行われます。

 

 
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(2017年10月1日号掲載)