ノミ刺され(Flea bite) (2011.12.1)

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dr_kim_new.png     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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ノミ刺され(Flea bite)

       
       

アメリカでは、家やアパートで犬や猫を飼っていることが多く、ノミに刺されることがよくあります。

自分で犬や猫を飼っていなくても、隣近所が飼っていればノミに刺される可能性があります。

ノミに刺されると、刺された皮膚の部分に皮疹 (ひしん) を起こすだけでなく、二次的なアレルギー反応を起こして、痒みが長く続いたり、感染を合併して膿瘍 (のうよう) になり、切開・排膿が必要になることもあります。
 

 

 

ノミの特徴
 

ノミは 1.5〜3.0mm 程度の濃色 (濃赤茶色など) の昆虫で、動物の血を吸って生きています。

翅 (はね) がない代わりに、強力な脚力があり、垂直には自分の身長の70〜80倍の高さ (18cm 程度) を、水平には130倍以上の距離 (30cm 程度) をジャンプすることができます。

これは、身長170cm の人間に例えると、122m の垂直ジャンプ、224m の水平ジャンプということになります。

人間を宿主とするヒトノミは現在あまり見られないですが、犬や猫を飼っていると、イヌノミ、ネコノミが存在し、時々人間を刺す時があります。

特に、普段の宿主である犬や猫がいない時は、人間が刺される対象になります。

ノミは、動物が出す二酸化炭素、熱、振動、音などを頼りに、動物の身体まで到着して、体表から血を吸います。
 

 

 

ノミの生活史
 

ノミの成虫は1回に15〜20程度の卵を宿主の皮膚上に産みますが、そのまま地面や床に落ちてしまうものも多くあります。

そのため、宿主が休んだり、寝たりしているところに卵が多く存在します。

卵は2日から2週間で孵化 (ふか) し、幼虫になります。

幼虫は日光を避け、カーペットの下、家具やベッドの割れ目やくぼみなどの暗い場所を好みます。

幼虫は、成虫の糞、死んだ昆虫、野菜のかすなどの有機物を食べて成長します。

幼虫は、まゆを経て、数週間すると成虫になります。まゆのまま長時間、宿主が現れるまで待っていたり、幼虫やさなぎのまま越冬することもあります。

成虫になると1週間以内に血を吸わないといけないのですが、1回血を吸うと、2か月から1年も次に血を吸わなくても生存できるのです。

メスの成虫は一生の間に500個以上の卵を生む能力があります。

ノミは、卵の状態が50%、幼虫が35%、まゆが10%、成虫が5%の割合で存在します。
 

 

 

ノミ刺されの症状
 

ノミに刺されると、赤く盛り上がって、真ん中に1か所咬まれた痕のある皮疹ができ痒くなりますが、ノミの唾液に対するアレルギー反応で、二次的なアレルギー性皮疹も出てきます。

痒みは数週間以上続くこともありますが、時には非常な痒みを起こします。

ノミに刺されるのは、下腿 (かたい)、足首に多いのですが、腰、腋 (わき) の下、肘なども刺されます。

また、二次的な皮疹は身体のいろいろな部分に広がります。

乳房の下やソケイ部にも皮疹が見られることがあります。

痒みで皮膚を掻いていると、皮膚に小さな傷ができ、そこから細菌が侵入し、皮膚の感染症を起こします。

皮膚の常在菌であるブドウ球菌は、皮膚の傷から皮下に侵入し、膿瘍を形成することがあります。

膿瘍は膿 (うみ) の塊で、大きく赤く腫れて痛みを起こします。
 

 

 

ノミ刺されの治療

ノミに刺されて痒い時は、刺された場所に市販のカラマインローション (calamine lotion) やワセリン (Vaseline) をまず使用します。

それで改善しない時は、ステロイドクリームを使います。

痒みが広範囲の時は、抗ヒスタミン剤 (アレグラ、ジルテックなど) を服用します。

皮膚の感染には、抗生物質の服用、膿瘍は自然に破れて治ることもありますが、切開排膿するのが治療です。
 

 

 

ノミ刺されの予防
 

ノミ刺されの手っ取り早い予防としては、虫除けスプレーやクリームなどを使います。

この方法は、短期間ノミ刺されから解放され、皮疹が虫刺されによるものかどうかを判断する方法にはなりますが、長期的な予防にはなりません。

長期的にはノミを駆除する方法を取ります。

ノミの駆除はペットのノミ駆除と家のノミ駆除とを同時に行います。

ペットのノミだけを駆除しても、ペットのよく休むカーペットや、近くの家具の割れ目などにもノミが存在するので、少し時間が経つと、ペットにノミが戻ってきます。

家の中だけでなく、家の外の芝生にもノミが存在することがあるので、ノミの駆除は広範囲に行います。
 

 

 

ペットのノミの駆除
 

犬や猫はよくブラシをかけますが、定期的にブラシを替えます。

ペットにパウダー状の駆除薬を付ける時は、ゴム手袋を付けて行います。

獣医の処方する駆除薬としては、成虫には効果はないがノミの成長を阻害する Program、1か月1回使用する Frontline や Advantage などの外用駆除薬、犬の血液中に出て、それを吸ったノミを殺す Proban などの経口液体の駆除薬などがあります。

卵、幼虫、さなぎを経て、成虫になるノミの、いずれの段階のノミも駆除しなくてはいけません。
 

 

 

家のノミの駆除

家の中のノミ駆除の基本は掃除です。

犬や猫がよく行く場所、休んだり食べたり寝ている所や家族と一緒に過ごしている場所を中心に行います。

猫では、冷蔵庫の上やキャビネット、本棚の上、高い所も要注意です。

掃除機でよく隅々まで掃除をします。

ベッドの下、クロゼットの中、家具の下、カーペット、ペット用マット、最低1日おきに掃除をします。

掃除機で吸引した後は、ゴミを大きなゴミ袋 (ビニール袋) に入れ、野外のゴミ箱に速やかに捨てます。

掃除機をかけると95%のノミの卵を除去できますが、幼虫 (20%程度) と成虫は完全には除去できません。

ペットの寝るマットなどは頻繁に洗います。

他に、殺虫剤を使わないでノミをコントロールするには、室温を摂氏20度以下に下げる (ノミは21〜32度の温度を好む)、湿度を50%以下に下げる (ノミは、幼虫は湿度50%、卵が孵化するには70〜75%の湿度を必要とする) などを試みます。
 

 

 

殺虫剤を使ったノミの駆除
 

家の中は、バルサンのような噴霧剤 (fogger) やスプレーで殺虫をします。
 

▽昆虫成長抑制剤 (IGR)

 ピリプロキシフェン pyriproxyfen (商品名:Nylor、Archerなど) やメトプレンmethoprene  (商品名:Precor など) で卵や幼虫を殺します。前者はカーペット上に何か月も存在し、ノミを退治します。後者は幼虫を2週間で95%も少なくします。ただし、この IGR はまゆや成虫は殺しません。人間やペットにはほとんど害がありません。
 

 

▽植物系殺虫剤

ピレトリン (pyrethrins 除虫菊の成分)、ロテノン (rotenone、植物の根由来) は効果的な植物系殺虫剤です。柑橘類の皮の成分であるリナルール (linalool = Demize) も効果的な殺虫剤です。他にもいくつもの植物系殺虫剤があります。
 

 

▽他の殺虫剤

Diatomaceous earth  珪藻土 (けいそうど) や Borax (sodium tetraborate = 四ホウ酸ナトリウム) などがありますが、使用には注意書をよく読んでください。
 

 

 

その他のノミの駆除

他に、ノミ取り器 (flea trap) を使う方法もあります。

基本的には緑色ライトと粘着パットがセットになり、いろいろな製品がありますので、オンラインで購入してください。

自分でノミ取り器を作ることもできます。

浅い入れ物 (洗面器など) に水を張り、それに少し食器洗剤を入れて床に置きます。

卓上ランプをそばに置き、水の表面から 12〜15cm くらい上の所にランプが来るようにセットします。

夜中にノミの成虫はライト目がけて跳び、水面に落下して溺れて死んでしまうのです。

ただし、この方法は犬や猫がその水を飲むかもしれないので要注意です。
 

 

 

家の外のノミの駆除
 

芝生を短くし、雑草を除去し、乾燥気味にして、ノミの幼虫にとって生存しにくい条件を作ります。

家の周りに砂や砂利 (じゃり) の山を長期間作っておかない。

犬を家の敷地内から自由に外へ出入りするのを避け、小動物が家の近くに棲んだり、敷地内に入ってこないようにします。
 

 

 

他の注意点

家を長期間空けて帰宅した時は、ノミの駆除がまず必要です。

その間、犬や猫がいないので、ノミの卵は孵化し、幼虫はさなぎになります。

さなぎの中ではほぼ成虫になったノミは宿主が帰ってくるのを待っているのです。

家族が帰ってくるや否や、お腹のすいたノミたちの餌食になるのです。

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。過去の「アメリカ健康ノート」の記事は、私のウェブサイトwww.usjapanmed.com またはwww.dockim.com で読むことができます。
 
(2011年12月1日号掲載)

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