Tuesday, 16 April 2024

不整脈 (Arrhythmias) (2012.12.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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不整脈 (Arrhythmias)

       
       

心臓の鼓動が速くなったり、遅くなったり、あるいは不規則になる不整脈は多くの人が経験しますが、不整脈が存在しても症状のないこともあります。

不整脈の多くは治療が要らないのですが、すぐに治療が必要な不整脈や、命にかかわる不整脈もありますので、必ず医師に相談してください。

 

 

心臓の鼓動のメカニズム

心臓の収縮は、右心房にある洞房結節から発生した電気的刺激によって始まります。

洞房結節を出た電気的刺激は両心房に伝わり、心房を収縮させます。

そして、心房と心室の間にある房室結節を通過し、ヒス束を通じて両心室に伝わり、今度は両心室を収縮させます。

心室の収縮によって、血液は肺や全身に送られていくのです。

洞房結節は心臓のペースメーカーの役割を果たし、心臓が規則正しいリズムで、正常な心拍数 (毎分60回から100回の間) を打つように制御していますが、電気的刺激が伝わる伝導路に障害があったり、洞房結節以外の部位から電気的刺激が発生すると、本来の規則正しいリズムで心臓は収縮できなくなります。

これが不整脈ですが、1分間当たり100回より速い不整脈は頻脈、60回より遅い不整脈は徐脈と定義されています。 

 

 

不整脈の原因

日常生活の中でも、緊張したり運動をすると、心臓の鼓動が速くなりますが、これは病気ではなく、体の生理的な反応です。

運動している人や高齢者は健康な状態でも徐脈の傾向があり、これも病的とはいえません。

病的な不整脈の原因になるものとしては、心筋梗塞や他の虚血性心疾患による心臓の傷、先天的心疾患、心筋症などによる心臓の構造上の変化、高血圧、糖尿病、甲状腺の機能異常、血中電解質の異常、喫煙、アルコールやカフェインの過剰摂取、ストレス、薬物の副作用、サプリメントやハーブなどの摂取、違法ドラッグの使用、鼻づまりなどの風邪薬などがあります。

 

 

不整脈の症状

動悸と胸部苦悶感が最も多い症状ですが、他に、頻脈 (心臓の鼓動が速くなる)、徐脈 (心臓の鼓動が遅くなる)、胸痛、呼吸苦、ふらつき、めまい、失神などがあります。

症状が顕著でも重度の不整脈とは限りません。

逆に、症状は軽くても重症の場合もあります。

症状が続く場合や悪化する場合は、アージェントケア (Urgent Care) か救急室 (ER) に行ってください。

 

 

不整脈の種類

=心房の頻脈=

・ 心房細動 (Atrial fibrillation)

治療が必要な不整脈で最も多いもので、放置すると脳梗塞や心不全の原因になります。高血圧や他の心臓疾患のある人や60歳以上の高齢者に多く見られます。心房の様々な部位から発生する電気的刺激による速くて乱れた不整脈で、正常な収縮の代わりに振動状態になります。時々、心房細動の状態になる場合や長期に渡って心房細動状態のままの場合があります。

 

・ 心房粗動(Atrial flutter)

心房細動とよく似ていて、心房細動と心房粗動が交互に起こることがあります。心房粗動の方が心房細動より規則正しく心拍します。

 

・ 上室性頻拍(Supraventricular tachycardia=SVT)

通常は、数秒から数時間続く一過性の頻脈であり、余分の伝導路の存在で、心房から心室に伝わった電気的刺激が心室から再び心房に戻るために発生します。心拍数は1分当たり160〜200回程度です。SVTは心疾患のある人だけではなく、健康な若い人にも起こります。重篤になることはあまりないですが、症状は非常に不快です。

 

・ WPW 症候群(WPW syndrome)

SVTの原因の一つにWPW症候群という不整脈があります。

 

=心室の頻脈=

・ 心室頻拍(ventricular tachycardia=VT) 

心室内の異常な電気刺激によって起こる頻脈で、心筋梗塞後に多い不整脈です。通常1分当たり200回以上の規則的な頻脈です。30秒以上続くVTは、より重症の心室細動へと移行することが多いので緊急の治療が必要です。

 

・ 心室細動(ventricular fibrillation=Vfib)

心筋梗塞後に多く、心室が非常に速くそして不整に振動し、心臓のポンプ機能が麻痺してしまいます。心室細動になると、数秒で意識を失い、脈も触れなくなり心停止の状態になります。すぐに心肺蘇生 (CPR) を始めなければ死に至ります。自動体外除細動器 (AED) があれば、すぐに除細動 (電気ショック) を行います。

 

・ QT 延長症候群(Long QT syndrome) 

QT延長症候群は、それ自体で症状を起こすというよりは、より重篤な不整脈の原因になります。生まれつきQT延長症候群がある場合、先天的心疾患、薬の副作用などで見られます。

 

 

=徐脈を起こす不整脈=

・ 洞不全(Sick sinus) =病的洞結節

もし、洞結節が電気的刺激を適度に送らなければ、心拍が非常に遅くなったり、あるいは緩急交互してしまう可能性があります。洞不全症候群 (Sick sinus syndrome=洞結節症候群) は緊急の治療が必要です。

 

・ 伝導ブロック(Conduction block)

伝導路がブロックされると電気刺激が正しく心房から心室へと伝わりません。これを房室ブロック (AV block) といいます。心房内あるいは心室内でのブロックもあります。症状のないことも多いですが、ブロックの種類によって緊急にペースメーカーが必要になります。

 

 

=期外収縮(Premature contractions)=

自覚的には心拍が飛んだように感じますが、実際は余分な心拍のある不整脈です。期外収縮には心房性期外収縮 (PAC) と心室性期外収縮 (PVC) があります。

期外収縮はほとんどが無症状で、心臓に病気のない人では重篤な不整脈が起こることは稀 (まれ) です。カフェインや風邪薬に含まれている鼻づまりの薬、喘息 (ぜんそく) の気管支拡張薬で起こることが多いのです。

 

 

不整脈の診断

不整脈の診断には、まず通常の心電図検査 (ECG) を行います。

心電図検査時に不整脈がない場合は、ポータブル心電図装置を24時間以上装着して記録するホルター心電図を用います。

稀にしか不整脈が起こらない場合は、発作時に胸や腕に装着して記録するイベントモニターや、長期間装着して発作時にボタンを押して記録するループモニターを使います。

心エコー (心臓超音波) は、心臓の大きさ、構造上の異常、心臓や弁の動きを調べます。

CT、MRIは心エコーで発見できない心臓の構造上の異常を調べます。   

運動負荷試験は、運動によって起こる不整脈や虚血性心疾患の有無を調べます。

電気生理学的検査は、血管からカテーテルという細いチューブを心臓に挿入し、心臓の電気的刺激の広がり方を記録したり、逆に心臓を刺激して、不整脈をわざと発生させたり止めたりします。

他に、甲状腺の機能や電解質の異常を調べるために血液検査もします。

 

 

不整脈の治療

病的不整脈であっても、必ずしも治療が必要というわけでもありません。

症状で非常に不快になる時、あるいは放置するとより重度の不整脈を発生させたり、重篤な状態を引き起こす時に治療が必要になります。

頻脈の場合、例えば上室性頻拍の場合は、息をしばらくこらえたり、顔を冷たい水に浸けたり、咳をしたりして止める方法もあります。

それで効果のない時は薬物により治療を行います。心房細動は薬物療法以外にも、軽い電気ショックで治療することがあります。

電極のついたカテーテルを血管から心臓に挿入し、不整脈の原因になっている部位 (余分な伝導路など) を焼いたり、凍結したりして余分な伝導路をする方法があります。(電気灼熱法=電気カテーテル法)

房室ブロックなどで著しい徐脈がある場合はペースメーカーの対象になります。

心拍数が非常に低くなった時に自動的に作動して電気刺激を送り、心臓を収縮させます。埋め込み式除細動器 (ICD) は心室頻拍や心室細動の際に心臓に電気ショックを与えて治療します。

心房細動を治療する徐細動器もあります。

他に、外科的手術による方法もあります。

 

 

不整脈の予防

多くの不整脈が心臓の病気で起こるため、心臓をなるべく健康な状態で維持することにより、不整脈の起こる頻度を少なくしていきます。

健康的なバランスの良い食事をする、適度な運動をする、禁煙をする、カフェインとアルコールの摂取を控える、ストレスを和らげる、市販の風邪薬のうち特に鼻づまり (Stuffy nose) の薬を控える —— などを心掛けましょう。

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2012年12月1日号掲載)

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