2020年 10月 21日

American Health アメリカ健康ノート

ライム病 Lyme Disease(2013.9.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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ライム病
Lyme Disease

       
       

ライム病は、果物のライムとは何の関係もないマダニによる感染症です。

1970年代半ば、コネチカット州のライムという場所で、最初に同定されたのでこの名前が付いています。

その後、コネチカット州以外のアメリカ北東部や中北部、西部にもライム病が存在することが分かっています。

アメリカ以外にもヨーロッパ、日本でもライム病の報告があります。
 

 

 

ライム病とは?
 

ライム病はボレリア・ブルグドルフェリ (Borrelia burgdorferi) という細菌によって起こり、鹿ダニであるマダニによって媒介され、鹿、野鼠、野鳥が保菌者となって感染が広がります。
 

人間への感染は、ほとんどがマダニの若虫で起こることが多いのですが、若虫は2mm以下の大きさで肉眼で認識するのは困難です。

成虫も感染を起こしますが若虫よりはずっと大きく、発見されやすく、除去されやすいのです。
 

妊娠中に感染すると胎盤に感染が広がり、死産を起こす可能性はありますが、母親が適当な治療を受ければ胎児に影響を及ぼすことはありません。

また、授乳中の母親が感染しても、母乳を通じて乳児が感染することはありません。
 

犬猫もライム病に感染しますが、それによって人間が感染することはありません。

ただし、感染したマダニを家や裏庭に運んでくる可能性はあります。
 

 

 

ライム病の症状
 

ライム病の症状は、その病期によって大きく変わってきますので、ここでは病期に従って説明します。

 

◎早期限局期(マダニに咬まれて3〜30日後)
 

この時期の症状は、遊走性紅斑 (erythema migrans=EM) という特徴的な赤い皮疹と、疲労、寒気、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、リンパ節の腫脹 (しゅちょう) などのインフルエンザ様の症状です。

ただし、遊走性紅斑に気が付かなかったり、存在しない場合もあります。

マダニに刺されても局所的に腫れるだけで、他の症状が現れない場合はライム病に感染したとは言えないですが、ライム病以外の感染を起こす可能性はあります。
 

特徴的な皮疹である遊走性紅斑は、ライム病に感染した人のうち7〜8割の人に起こり、マダニに咬まれて3日から30日 (平均7日) 以内に出現します。

紅斑は数日かけて徐々に大きくなっていきます (約30cmくらいまで)。

そして、中心部と周りだけが赤く、それ以外は赤くないので、ちょうど牛の目 (bull’s eye) のような形になります。

皮疹は痒 (かゆ) くも痛くもありません。

体中のどこでも出現します。

遊走性紅斑はこれまで、ライム病に特有だと思われていたライム病以外にも出現することが報告されています。

 

◎早期播種期(マダニに咬まれてから数日から数週間後)
 

ライム病に感染した後も治療しなかった場合、感染は全身に広がります。

遊走性紅斑が体の他の部分にも出現したり、顔面麻痺、髄膜炎による強い頭痛と首の硬直、膝などの大きな関節の痛みと腫れ、不整脈などの症状が出ます。
 

これらの症状は、無治療でも数週間から数か月すると自然に治りますが、治療のない場合、更なる合併症の危機にさらされることになります。
 

・    筋骨格系症状 ―― 関節炎、筋肉痛、ベイカー嚢胞 (のうほう)
・    神経症状 ―― 顔面麻痺、髄膜炎、神経炎
・    循環器系症状 ―― 不整脈、房室ブロック
・    他の症状 ―― 結膜炎、角膜炎、ブドウ膜炎、軽度の肝炎

 

◎晩期播種期(マダニに咬まれた後、数か月から数年後)

治療を受けなかった人のうち、約6割の人は間欠性関節炎 (関節の痛みと腫れ) が起こり、約20人に1人は慢性的な神経学的異常を起こします。

走るような痛み、手足のしびれや感覚異常、短期間の記憶の異常などです。

 

◎治療後の長引く症状
 

抗生物質の治療を受けた後も、数か月から数年症状が続く人が1〜2割います。

筋肉や関節痛、睡眠障害、認知障害、疲労など。

こうした症状はライム病治療後症候群=PTLDSと呼ばれます。

これは感染が継続していることではなく、感染を契機にした免疫関係の異常 (自己免疫疾患) ではないかと考えられています。

従って、抗生物質を継続しても改善はありません。
 

 

 

ライム病の診断
 

早期の場合は、遊走性紅斑の有無が診断には重要です。

遊走性紅斑が存在し、インフルエンザ様症状があればほぼ診断は確実ですが、遊走性紅斑のない場合は診断は困難です。

血液検査による抗体検査は、感染後最初の数週間は陰性のことがあるので、早期にはあまり信頼性がありません。
 

血液中にライム病の抗体が出現する時期になると血液検査による診断が可能になってきます。

この血液検査による診断は、2段階の検査によって行います。

まず、第1段階は EIA という酵素を用いた免疫法か、IFAという間接的免疫蛍光検査法のどちらかを行います。

これらの検査が陰性の場合は、これ以上の検査は必要ありません。

もし、検査が陽性であれば次の検査に進みます。

第2段階の検査は免疫ブロット法 (ウェスタンブロット法) と呼ばれています。
 

この2段階法による検査法で両方の検査が陽性の時のみ、ライム病と診断できます。

第1段階を飛ばして第2段階の検査だけをすることはできません。

この2段階検査法により、擬陽性 (実際には感染していないのに検査上陽性になること) を避けることができます。
 

ライム病の場合は、他の血液検査結果として、血沈の亢進、肝機能の軽度異常、血尿や蛋白 (たんぱく) 尿などが認められます。

検体から直接原因菌を同定する方法もあります。
 

 

 

ライム病の治療

ライム病の治療には抗生物質を使います。

早期はドキシサイクリン100mgを1日2回14日間、セフロキシン500mgを1日2回14日間、アモキシシリン500mgを1日3回14日間のいずれかを選択しますが、21日間続けることもあります。

長期抗生物質を使用しても臨床の経過は変わりません。
 

小児の場合は同じ抗生物質を使いますが、体重当たりで量を換算します。

アモキシシリン=体重キロ当たり50mg/日を3回に分けて14日間、ドキシサイクリン (8才以上)=体重キロ当たり4mg/日を2回に分けて14日間、セフロキシン=体重キロ当たり30MG/日を2回に分けて14日間のいずれかです。
 

 

 

ライム病の予防
 

ライム病が流行 (はや) っている地域の野山に行くときは、長袖、長ズボンを着用します。

虫除けスプレーを利用する方法もあります。

自分の家の庭にマダニが住む環境を作らないようにします。

また、野山に行った後は、体表にマダニが付いてないかをチェックします。

マダニは体表にいても、実際に咬むまでは数時間かかる場合があります。

もし、皮膚に咬んでいるマダニを見つけたら、指で取らないで、ピンセットや毛抜きで皮膚に近い所から挟んで真っ直ぐ上に引き抜きます。

マダニを取り除いた後は消毒をしましょう。


 

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2013年9月1日号掲載)

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