2020年 10月 23日

American Health アメリカ健康ノート

心不全(Heart Failure)(2013.8.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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心不全(Heart Failure)

       
       

心不全は心臓のポンプ機能が低下し、全身に血液を十分送れなくなった状態です。別名、うっ血性心不全 (CHF) ともいいます。

虚血性心疾患、高血圧が主な原因です。


 

 

心不全の原因
 

心不全は通常、長期間の変化によってもたらされますが、突然、心不全の状態になることもあります。

右心室が主な右心不全と左心室が主な左心不全がありますが、たいていは両方の心室が関与している心不全です。
 

 

心不全は、心筋 (心臓の筋肉) による収縮機能が低下して十分な量の血液を送り出せなくなった収縮性心不全と、心筋の柔軟性が低下して心室が十分拡張せず、血液を充満できなくなった結果として機能が落ちる拡張性心不全に区別されます。
 

 

いずれにせよ、心臓が充分な血液量を全身に送れなくなると、送られなくなった余分の血液が体のあちこちに溜まってしまうことになります。肺、肝臓、消化管、腕、脚などに血液が溜まり、これをうっ血性心不全といいます。
 

 

心不全の最も多い原因は虚血性心疾患 (心筋梗塞や狭心症のこと) で、心筋に血液を送る冠動脈が狭くなって心筋に充分血液が供給されない結果、心臓のポンプ機能が低下します。

心筋梗塞の場合は、冠動脈の一部が血栓で詰まり、その血管が栄養する心筋が死んでしまう結果、心機能が落ちます。

高血圧があると、心臓はその血圧に打ち勝って血液を全身に送ることになり、より仕事量が増えます。長時間の間に心筋は厚くなり、そして硬直するか弱くなって効果的なポンプ機能が低下します。
 

 

虚血性心疾患と高血圧以外の原因としては、先天性心疾患 (生まれた時からある心臓の病気)、心臓弁膜症 (弁の狭窄症または逆流症)、心筋の感染症、不整脈、糖尿病、アルコール中毒、コカイン中毒、化学療法の副作用などです。

稀な原因としては、アミロイド-シス、肺気腫 (肺性心という肺の病気が原因の心不全を起こす)、甲状腺機能亢進症、サルコイドーシス、重度の貧血、鉄分の過剰、甲状腺機能低下症などがあります。
 

 

他に、心不全を悪化させる可能性のある薬としては、イブプロフェン (商品名:Advil、Motrin) や ナプロキセン (Aleve、Naprosyn)、バイアグラ、サイアリス (Cialis)、レビトラ (Leveitra) などがあります。

 

 


心不全の症状

 
初期の症状は、体を動かしている時 (労作時) だけに発現しますが、進行すると体を動かしていなくても症状が出るようになります。

症状は長期間の間に進行していきますが、心筋梗塞の時のように突然症状が始まる場合もあります。

一般的な症状としては、咳、呼吸苦、息切れ、疲れやすさ、食欲低下、喘鳴 (ぜんめい)、腹水、動悸、頻尿、足や足首のむくみ、息苦しさで夜中に起きる、体重増加などです。

 

 

 

心不全の診断と検査


診断にはまず問診と診察が重要です。

診察では、頻呼吸 (早い呼吸)、手足の浮腫、首の静脈の腫れ、心音や肺音の異常、肝臓や腹部の腫れ、不整脈などの有無を評価します。

血液検査では電解質や腎機能検査以外にも BNP (Brain natriuretic peptide) という値が上昇しているかをチェックします。

胸部X線で心肥大や肺水腫の所見の有無、心電図では心室肥大、心筋へのダメージ、不整脈の有無を確認します。
 

 

心エコーでは心臓の機能評価と弁の異常の評価を行います。特に駆出率 (1回拍出量/拡張終期容量) は心不全の診断、評価、モニターをするのには大切です。

これが50%以上あれば正常ということになります。つまり、心室を満たす血液の50%以上は心臓のポンプ機能によって押し出されているということです。  
 

 

心臓の負荷試験は心臓や血管が運動 (労作) に対してどのように反応するかを調べます。

トレッドミルの上を歩いたり、歩けない人は薬によって運動状態をつくり心臓を評価します。冠動脈疾患の有無や運動機能を調べます。

心臓 CT や MRI では心不全の原因になる心臓の病気の評価をします。

心臓カテーテル検査 (アンギオ) では、そけい部や腕の動脈からカテーテルという細い管を挿入し、心臓の冠動脈が狭くなっていないかを調べます。

 

 


心不全の病期分類


心不全の病期分類にはいくつかありますが、ニューヨーク心臓協会 (NYHA) が定めた NYHA 分類がよく使われます。


・    NYHA1度:無症状で日常生活は制限されない。


・    NYHA2度:活動に軽度の制限がある。休息時や軽度の労作時は問題がない。日常生活のことは問題なく行えるが、運動をすると疲れる。


・    NYHA3度:かなり活動に制限がある。休息時だけが楽である。


・    NYHA4度:どんな労作でも症状が出る。休息時でも呼吸苦がある。
 

 

 

心不全の治療

 

 

<薬物療法>


♦    ACE 阻害薬(アンジオテンシン転換酵素阻害薬)

血管を拡張し、血圧を下げ、血流を改善し、心臓への負担を和らげます。

代表的な薬としてはエナラプリル (商品名:Vasotec)、リシノプリル (Prinivil、Zestril) 、カプトプリル (Capoten)、ラミプリル (Altace) などがあります。


♦    A2R阻害薬 アンジオテンシン2受容体阻害薬

作用はACE阻害薬と似ています。ACE阻害薬が服用できない人には代用になります。

ロサルタン (Cozaar)、バルサルタン(Diovan) などがあります。


♦    ジゴキシン (強心剤)

ジキタリスで心筋の収縮を助けます、それに心拍数を下げます。


♦    ベーター阻害薬

心拍数を下げ、血圧を下げます、心筋へのダメージを防ぎます。カルベディロール (Coreg)、メトプロロール (Lopressor)、ビソプロロール (Zebeta) などです。


♦    利尿剤 

ウォーターピル (water pills) と一般的に言われます。体内から尿として水分を体外に出す薬です。ブメタナイド (Bumex)、フロセマイド (Lasix) がよく使われます。肺の水分も減少させるので息苦しさが改善します。

ただし、利尿剤の使用で、体内のカリウムやマグネシウムが少なくなることがあるので、これらのミネラルを処方されることもあります。定期的にカリウム、マグネシウムの値を測定する必要があります。


♦    アルドステロン拮抗剤 

スピロノラクタン (Aldactone) やエプレレノン (Inspra) などですが、これらはカリウムをあまり排出させないので、血中のカリウムの低下の防止になります。

心臓の傷を改善したり、重症の心不全の人の寿命に貢献します。ただし副作用として、カリウムの値を非常に上げる危険性もあるので定期的なモニターが必要です。


♦    重症の心不全のある人は、自宅酸素療法が必要になることがあります。

 


<内科的な治療で改善しない人は>


♦    冠動脈バイパス手術

冠動脈疾患が原因の時は、冠動脈バイパス手術が適応になることがあります。脚、腕、胸の血管を一部取って、詰まったり狭くなった血管をバイパスした手術をします。


♦    心臓弁の修復や置換

心不全の原因が心臓弁にある場合、弁の修復や置換をします。
 

 

♦    体内埋め込み式除細動器

皮下に埋め込む除細動器で、心臓内までカテーテルが届いて、心臓のリズムをモニターして、重症の不整脈が起こったり、心臓が停止すると除細動が働き、元のリズムに戻します。
 

 

♦    両心室ペーシング (CRT) 

左右両方の心室を刺激して収縮させるペースメーカーです。

両心室をペーシングすることにより、より効果的に心臓を収縮させます。
 

 

♦    心臓ポンプ (LVADs)

これらの器械は胸部や腹部に埋め込まれ、弱った心臓の補助をします。

心臓移植を待つ間に使われることもあれば、心臓移植の対象にならない人に使われることもあります。
 

 

♦    心臓移植

薬物療法や外科的治療によっても改善しない重症の心不全に対しては心臓移植が対象になりますが、移植の機会がなかなかやって来ないことがあります。

 

 

 

生活改善

 

禁煙をする ―― 喫煙は血管に障害を与え、血圧を高め、血液の酸素運搬能力を低め、心拍数を高めます。

毎日体重を計る ―― 朝の排尿後、朝食前に計測します。もし、1日で3パウンド (1.4キロ) 体重が増加したら、体内の水分が貯留している可能性があります。

塩分摂取を制限する ―― 心不全のある人の1日の塩分は2g以下に制限されています。

適正体重を保つ ―― 体重がオーバーしている人は減量をする。
 

 毎日の脂肪やコレステロールの摂取を制限する。

アルコールと水分の摂取を制限する。

中程度の有酸素運動をする。

ストレスを少なくする。

寝るときは頭部を高めにすると呼吸が楽になり、寝やすくなる。

また、睡眠時無呼吸症候群のある可能性のある人はテストを受けます。

 
この記事に関するご質問は日本クリニック(858) 560-8910まで。
 
(2013年8月1日号掲載)

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