2020年 10月 26日

American Health アメリカ健康ノート

前立腺がん Prostate Cancer (2013.3.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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前立腺がん
Prostate Cancer

       
       

前立腺がんは欧米人に多くみられますが、最近は日本人の間でも前立腺がんの罹患率、死亡率が増えてきています。

アメリカでは6人に1人の男性が一生の間に前立腺がんになり、36人に1人の男性が前立腺がんで亡くなっています。

75歳以上の男性のがん死亡の第1の原因で、75歳以下でも肺がんに次いで2位になっています。

日系米人の前立腺がんの罹患率が日本人よりも高いので、食事などの環境要因による影響が示唆されています。

 

 

前立腺

前立腺は男性の膀胱 (ぼうこう) の真下にあって、膀胱から出る尿道を取り巻くようにして存在しています。

クルミくらいの大きさで男性の生殖器官の一部を成しています。

前立腺の役割は完全に理解されているわけではないですが、性交時に前立腺液を分泌し、精液として精子を運び、精子に栄養を与え、活動を盛んにします。

また、酸性に傾いた女性の膣内をより中性化させ、受精しやすくします。

 

 

前立腺がんの増加

前立腺がんによる死亡率は、日本では50年代後半から90年代前半まで増加し、その後横ばい状態ですが、PSA検査による診断法の普及により、早期発見、早期治療ができた結果だと考えられています。

前立腺がんは年齢が上がるとともに罹患率が高くなりますが、中には比較的ゆっくり進行するがんがあり、高齢者の場合、寿命に影響しないのではないかと考えられています。

前立腺がん以外で死亡した日本人のうち、70歳以上で2〜3割、80歳以上で3〜4割に前立腺がんが発見されています。

従って、高齢者に発生する前立腺がんの多くは寿命に影響しないのではないかとも考えられているのです。

 

 

前立腺がんの原因とリスク因子

原因についてはいくつかの仮説がありますが、リスク要因としては、年齢 (高齢者) = 60歳以上、家族歴 (父親や兄弟に前立腺がんの既往がある)、アルコールの過剰摂取、農業従事、脂肪の多量摂取、タイヤ工場での労働歴、ペンキ塗り職人、カドミウムに接触のある人、IGF-1、乳製品の過剰摂取などが考えられています。

 

 


前立腺がんの症状

早期の前立腺がんの場合は症状がほとんどなく、症状が出るとがんはかなり進行しています。

ただ、症状のほとんどは前立腺肥大症と変わらず、前立腺がん特有の症状というのはあまりありません。

起こり得る症状としては、排尿困難、頻尿、尿の出が悪い、排尿後の尿漏れ、残尿感、夜間多尿、尿意切迫、血尿、腰痛、下腹部不快感などがあります。

また、前立腺がんは骨に転移しやすいので、進行すると腰痛や骨盤痛を起こします。

 

 

前立腺がんの診断

前立腺がんの診断で最も重要なのは前立腺特異抗原 (PSA) と呼ばれる腫瘍マーカーです。

非常に敏感な腫瘍マーカーですが、前立腺がん以外にも前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇します。

一応 4 (ng/ml) 以下が正常で、10以上で前立腺がんが強く疑われますが、PSAが4〜10のグレーゾーンの場合でも前立腺がんの可能性はあります。

PSAが10以上であれば、5割以上の確率で前立腺がんが認められます。

4〜10の場合は約25%の確率で、4以下の場合でも15%の確率で前立腺がんが認められます。

PSAが10以上の場合は生検が行われるわけですが、4〜10の場合はフリーPSAの値によって生検を行うかどうかを決めます。

血液中のPSAは血中のタンパク質と結合したものと結合しないもの (フリーPSA) と区別され、このフリーPSAが低くなると前立腺がんの確率は高くなります。

フリーPSAがPSA全体の10%以内の場合は生検が薦められますが、10%〜25%の場合でもPSAの値などで生検が薦められることがあります。

直腸診は肛門から指を入れて前立腺の触診をするものですが、前立腺が固くなっていたり、表面が不整な場合は前立腺がんの可能性があります。

前立腺がんの可能性の疑いのある場合は、前立腺の生検が行われます。

細い針で前立腺を刺し、12程度の組織を採取するのです。

組織検査の結果、前立腺がんの悪性度をグリーソンスコアによって10段階で表示します。

スコアが2〜5の場合は悪性度が低く、6〜7の場合は中程度で、8〜10の場合は悪性度が高いということになります。

前立腺がんと診断された場合、アイソトープによる骨シンチグラムで骨転移や、CT や MRI でリンパ節転移や他の臓器への転移の有無を調べます。

 

 

病期(ステージ)の分類

前立腺がんの診断の次には、病期の決定が行われます。

これは TNM 分類によって行われるのが一般的です。

Tは腫瘍、Nはリンパ節への転移、Mは遠隔転移を表します。

T分類では以下のように定義されます。

・    T1は触知不能、または画像では診断不可能な臨床的に明らかでない腫瘍
・    T2は前立腺に限局する腫瘍
・    T3は前立腺被膜を超えて進展する腫瘍
・    T4は精嚢 (せいのう) 以外の隣接組織 (膀胱頸部、外括約筋、直腸、挙筋、および/または骨盤壁) に固定、または浸潤する腫瘍

 

その病期のそれぞれには a、b、c などの細かい分類もあります。

日本では A〜 D の分類がよく使われます。

Aは前立腺がんを疑わずに前立腺肥大症の手術をして、偶然に発見された場合。

前立腺がんを疑い、そのために検査をして前立腺がんがあった場合は、早期がんであるBになります。

 

 

前立腺がんの治療

治療には、手術療法、放射線療法、内分泌療法、治療をしない待機療法があります。

PSA値、腫瘍の悪性度、病期診断、本人の年齢などを考慮して治療法が決められます。

 

●待機療法

生検の結果、比較的おとなしいがんがごく少量のみ認められる時。

 

●手術療法

前立腺、精嚢を摘出する方法です。下腹部を切開する方法、腹腔鏡 (ふくくうきょう) を利用する方法、肛門の近くを切開する方法 (会陰式前立腺全摘除術) があります。尿失禁と性機能障害という後遺症が出る場合があります。

 

●放射線治療

放射線を使ってがん細胞の分裂を阻止する方法。体の外から放射線を照射する外照射法と前立腺に直接埋め込む密封小線源療法があります。後者は、前立腺に高濃度の放射線を照射することが可能で、副作用も軽度です。副作用としては、頻便、排便痛、出血、頻尿、排尿痛などがあります。

 

●内分泌療法

男性ホルモンを遮断してがんの勢いをなくします。精巣を除去するか LH_RH アナログと呼ばれる注射をします。抗男性ホルモン剤も使われます。長期治療で効果が低くなる、病状がぶり返すなどの欠点があります。

 

●化学療法

内分泌治療が有効でない場合や、内分泌治療の効果が低下した時に行います。

 

 

前立腺がんの予後

がんの進行度、治療内容、患者さんの年齢や全身症状、副作用の有無などに左右され、がんが前立腺に限局的で手術療法を行った場合、10年生存率はほぼ100%近くなります。

 

 

前立腺がんの予防

前立腺がんは食事との関係が示唆されているので、オメガ3脂肪酸の摂取、脂質を食事から下げる、伝統的な日本食に似た食事、菜食などが勧められています。

50歳以上の男性は、PSAの血液検査や直腸診などを受けて早期発見することが大切です。

PSA値が3以下の場合、フィナステライド=finasteride (Proscar) やデュタステライド=dutasteride (Avodart) などの前立腺肥大症の薬を服用することを提唱する専門医もいます。

 
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(2013年3月1日号掲載)

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