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nagano_face.jpg 永野 文久

米国公認会計士

昭和17 年生まれ。  昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
昭和58 年米国公認会計士。

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「財政の崖(Fiscal Cliff)」と2013年増税の行方

オバマ大統領の再選後、ワシントンの政治家の関心はいわゆる財政の崖 (Fiscal cliff) に向けられています。

現在、年末に失効予定の減税について、オバマ政権と議会の間で延長策が交渉されています。

しかし、中間所得層を対象にした延長に限定したいオバマ政権と、富裕層を含むすべての所得層を対象にした延長を探る共和党との間では、対立は激しく、調整は難航しています。

もし、このまま何の手当もされない場合、一般納税者も含めて大きな増税の影響が出ると危惧されます。

今回は、まだ不確定な要素が多い中、このFiscal Cliff と言われる状況と2013年の税制がどのように影響を受けるかを概観したいと思います。

 

 

財政の崖とは

2000年代に始まった所得税などに対する大型減税策、いわゆる「ブッシュ減税」は2012年末に期限切れとなります。

これに伴い、2011年にアメリカの債務上限が問題になった際に決められた、2013年1月からの強制的な予算削減 (国防費を中心に10年間で最大1兆2000億ドルの歳出が強制削減) が実行されます。

減税が失効する 「実質的増税」 と 「強制的な歳出削減」 のダブルパンチにより、まさに「崖から落下する」ような急激な米国経済の引き締めが起こってしまう可能性が心配されます。

そのため、財政の崖 (Fiscal cliff) と呼ばれるようになりました。

この Fiscal Cliff を回避するため、オバマ政権としては以下の複数の具体的な増税対策が考案されています。

 

① オバマケアによる増税

ブッシュ減税の延長の可否に関わらず、2013年からは3.8%の Medicare contribution tax が一定の個人の不労所得に対して課税されます。これは “オバマケア” と言われるThe Patient Protection and Affordable Care Act  (PPACA) の一部分として施行され、キャピタルゲイン、利息、配当といった所得が対象になっています。

 

② Long-term capital gains (長期キャピタルゲイン)

現行では、通常所得の税率が10%と15%のタックスブラケット (所得区分) に入っている納税者関しては、長期キャピタルゲインに対する税率は0%であり、その他のブラケットの納税者は一律15%です (尚、この場合の長期と短期は日本の5年と異なり、1年を超えて保有していたか否かで区分される)。この減税政策は2012年末で終了する予定であり、その場合、通常所得の税率10%と15%のブラケットの納税者の長期キャピタルゲインに対しては10%、それ以外の納税者には20%の税率が適用になります。また、2000年以降に購入して、5年以上保有した適格資産の譲渡に関する長期キャピタルゲインも税率が15%から18%に変更となります。さらに、上記の3.8%の Medicare contribution tax がキャピタルゲイン、配当収入、利子収入等に対して掛かってくるため、ある一定以上の収入がある納税者は、長期キャピタルゲインに関して最大23.8%もの納税をしなければならなくなります。

 

③ Dividend income (配当所得)

ブッシュ減税は一定の要件を満たした配当所得 (適格配当) も対象にしており、適格配当所得に関しては、長期キャピタルゲインの税率が適用されていました。すなわち、大半の納税者は配当所得に関しては15%の税率で課税されていました。しかし、議会が特に何もアクションを起こさない場合、2013年の初めから通常所得と同様のレートが適用されることになります。2013年は、個人の最高税率が現行の35%から39.6%まで上がり、さらに3.8%の Medicare contribution tax が掛かってくるため、配当収入に対しては最大43.4%の税率が課されることになります。

 

④ Individual income tax (個人所得税)

ブッシュ減税は通常所得に関しても税率軽減措置を講じていました。それが2012年末に終了するのと同時に議会が対処しない限り、税率 (Marginal tax rate) は左上のようになります。

 

⑤ Payroll tax (給与税)

これはブッシュ減税ではなく、オバマ政権になって2011年から実施された減税で、Social security tax (社会保険税) の従業員負担分が6.2%から4.2%に2%軽減されていました。この減税も2012年末で期限切れになる予定です。議会でもこの減税に関しては、特に延長しようという動きが現時点ではありません。このため、2013年1月からは多くの人にとって2%の実質増税が実施される可能性が高いと考えられています。

 

 

2013年増税対策?

以上のように、2013年は正に米国にとっては「増税の年」 になる可能性があります。

各種減税の失効によって、一般納税者にも大きな影響が出ると想定されます。

そのため場合によっては、2012年中にキャピタルゲインや配当所得を発生させるという判断をした方が有利になるという考え方もあります。

いずれにしても、今後の議会の動きを注意深く見守る必要があります。


※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。
(2013年1月1日号掲載)

 

 

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