Monday, 29 April 2024

レガシー/ラリー・フリードマン所蔵作品展

 高名医師の現代写真コレクション 志鎌猛「森の襞」シリーズなど

 

Legacy: Larry Friedman Collection
2022/9/11 (日) まで
Museum of Photographic Arts
https://bit.ly/3j839gh

ラリー・フリードマン博士がまとめた写真集は、感情的で親密なアプローチを反映している。

彼は、自分の心に響く作品、自分に深く語りかけてくる作品を集めた。

彼は、写真とは何かという概念に挑戦する現代作品に興味を持つ、大胆不敵なコレクターだった。

レガシーに展示されている画像は オランダ人アーティストRuud van Empelの芸術的なフォトショップ作品や、日本人アーティストTakeshi Shikamaのプラチナ/パラジウムイメージのように、様々なプロセスを表現している。

ラリー・フリードマンについて

ローレンス・S・フリードマン博士は、高名な医師であり、人権擁護者、芸術のパトロン、そして写真美術館の長年の評議員という、非凡な人物だった。

優秀な医師である彼は、HIVに感染した10代と20代の若者のための包括的なプログラムを監督し、HIV陽性患者の予防とプライマリーケアに努めた。

さらに、移動販売車を共同設立し、避難所や家出中の若者に無料で医療を提供し続けている。


志鎌猛(Takeshi Shikama)

1948年、東京生まれ。

1968年-1970年、青山学院大学在籍。

デザインの世界を経て写真家となる。2002年より、日本各地の深い森に分け入り、目に見えている風景の、その奥にある目に見えない世界を写真に焼きつけたいと、「森の襞-Silent Respiration of Forests」シリーズの制作に取り組む。

2007年、写真集「森の襞-Silent Respiration of Forests」(冬青社)を出版。

2008年、新たなシリーズ「うつろいーEvanescence」を、「森」「野」「蓮」「庭園」の4部作として展開。すべての制作過程を手作業で行うプラチナ・パラジウムプリントへの取り組みをはじめる。翌2009年、「うつろい-Evanescence」の5部作目として「Landscape」に着手し、2010年よりプラチナ・パラジウムプリントの制作に手漉きの雁皮紙を用いる。

2009年、FotoTriennale.dk (デンマーク) に招待作家として参加、Johannes Larsen Museetにて個展。また、FotoFest International Discoveries II(アメリカ,ヒューストン)に、世界9人の作家の1人として招聘される。

2010年、アメリカの典型的風景の取材に着手。ヨセミテ国立公園に取材した作品を「森の襞-Silent Respiration of Forests」に加える。

2011年、ニューヨーク・セントラルパークを、新シリーズ 「Urban Forest」としてまとめる。また、夏の北海道、及び秋のアメリカ・パシフィックノースウェスト・温帯雨林での一期一会を、「森の襞-Silent Respiration of Forests」新シリーズとして制作。

2012年、オランダThe Noorderlicht Photo Festival に招待作家として参加。オランダ各地に取材した「The Netherland」を制作。また、「Urban Forest」シリーズに、パリ・リュクサンブール公園、及び、ニューヨーク・セントラルパークvol.2を加える。北海度とヨセミテ国立公園を再訪。それぞれ「森の襞-Silent Respiration of Forests」シリーズのvol.2を制作。

2013年、第1回Jon Schueler Scholarship受賞(ソールモールオステイグ大学、国立ゲール語文化芸術センター)、スコットランド・スカイ島・にて、ビジュアル・アーティスト・イン・レジデンス。清里フォトアートミュジアム「森ヲ思フ:宮崎学、志鎌猛、ウイン・バロックの写真」展(山梨県北杜市)にて、「森の襞-Silent Respiration of Forests」シリーズを発表。イングランド、スコットランド各地、及び、スペイン・ガリシア地方、フランス・フォンテーヌブロー、ノルマンディー地方に取材した新シリーズ ”観照 Contemplation” を制作。

2014年、アコルーニャ現代美術館(スペイン)にて、個展 “Los Murmullos Del Bosque(森のざわめき)”開催。スペイン・ガリシア地方、及びスコットランド・スカイ島などでの撮りおろし50点を含むプラチナプリント100点を展示。新作“記憶の庭園 Garden of Memory" Animals 及びPlantsシリーズを制作。また、スペイン、イタリア、フランス各地に取材した ”美の谷 Valley of Beauty” シリーズの制作に着手する。


森の襞 - Silent Respiration of Forests

私は、森のなにげないたたずまいに強く惹かれる。

森に呼びかけられているような、手招きされているような、不思議な感覚。森との交歓、とでもいえばいいのか。

「森の襞-Silent Respiration of Forests」は、なにかそういうものによって撮り続けている写真だ。

その原点は、おそらく私が、国土の70%を山と森に囲まれた日本に暮らす、日本人だということにある。

山の国・森の国の風土の中で、日本人は自然の恩恵を受け、それゆえ大切にし、敬う長い歴史と伝統を連綿と受け継いできた。

とはいえ、現代、特に都市では、急激な高度成長の陰で自然と人との共生の連鎖は断たれて久しく、私自身、40年近く東京の中だけで生きていた頃は、森への親密感を抱くことなどなかった。

が、その後10年間、自分の手で森の中に家を建てた経験によって、自然に対する意識が覚醒する。

時計が刻む音よりゆっくり流れる森の時間は心地よく、自らの身体を使った家造りを通して、私は結果的に先人たちの生き方を踏襲した。

そうする間に、日本人としての遺伝子に潜んでいた自然への憧憬、感謝、畏怖の念が、魂の襞に刻み込まれていったのだと思う。

そして私は、写真に開眼した。

私にとって森の写真は、自然から与えられる大いなる恵みのひとつにほかならない。

環境破壊の広がりが、私の写真を困難にしているのは確かで、1日10時間以上歩いても徒労に終わり、地図上にはあるはずの森がダムの工事現場だったこともある。

しかし、そこで諦めなかったおかげで、森の巨人たちにも出会ってきた。

たとえば、曲がっていて役に立たないという理由で、伐られる難を逃れて成長し続け、数百年生き続けている巨樹。

そういう樹々が語りかけてくれる声に気持ちを集中させ、私は1度だけシャッターをきる。

一期一会の写真。私の写真は自然にそうなった。

自分が撮っているのではなくて森に撮らせてもらっている写真。

それが、自然へのレクイエムにならないことを祈りたい。

志鎌猛 『森の襞 - Silent Respiration of Forests』より

本シリーズは、志鎌猛が「これまでの原点」と話す代表作『森の襞 - Silent Respiration of Forests』をはじめ、『うつろい - Evanescence』、『Urban Forest』シリーズからセレクトした12点のイメージからなる。

豊かな色調を誇るプラチナプリントからは、志鎌がライフワークとして撮影し続けてきた森の息遣いをも聞こえてきそうだ。

 

◼︎ 入場料:無料。*ドネーションを奨励。随意の金額を寄付することで入館できる。