アメリカで生活する日本人家族の姿をコミカルに描く長編映画『White On Rice(ホワイト・オン・ライス)』が2009年11月6日よりサンディエゴで公開されます。 日本語ペラペラのデイヴ・ボイル 監督が自身の経験を元に、主演の渡辺広 (『硫黄島からの手紙』) をイメージして書き上げたという本作は、『男はつらいよ』シリーズを彷彿とさせる、笑いあり、ホロリと涙ありのストーリーです。 主役を演じる渡辺広さんにお話を伺いました。 なお、この作品は「サンディエゴ・アジア映画祭 」で「観客賞=Audience Award for Best Feature Film」を受賞しまし た。 —— 俳優になったきっかけ 母の勧めで7歳のとき、子供演劇サークルに入りました。脇役しかやったことがありませんでしたが、 気が付いたら、自分ではない誰かを演じることが面白くなっていました。役を理解し演じることは、自分の人間性を高めることにもつながるのです。本格的に俳優を目指したのは高校を卒業してからです。 —— 渡米の契機 26歳で 渡米。アメリカの一流俳優が習ったのと同じ演技テクニックを学びたいと思ったからです。演技指導では名門と言われているニューヨークにある学校に入学しました。けれど、英語力のなさにすぐに挫折して日本に戻りました。 この時は本当に情けなかったですね。2年後、一念発起して再度アメリカへ。今度はロサンゼルス・シティ・カレッジで演技を勉強しました。卒業後、オーディションを受けましたが、なかなか受からない。アメリカ人と同じ土俵に立つのは厳しいですよ。「急がば回れ」と思いました。英語を勉強しつつ、一演技者の立場を離れ、劇団の大道具係としてボランティアで働いて人脈を作りました。生活するために、ビデオ屋やスーパーマーケットでアルバイトをしたこともあります。 —— 英語の克服法 未だに英語は勉強中です。会話が苦手なんですよ。だから上手くならなかった。昔はよくラジオのDr.ローラの人生相談を聴いていました。 最近はニューズウィークなどのマガジンを声に出して読むようにしています。 —— アメリカの演技メソッド アメリカには誰でも俳優になれる演劇メソッドがあります。素人でも段階を踏んでいけば上手くなるんですよ。よく言えば合理的。英語のエッセイの組み立て方とも似ています。 アメリカの学校では、アイデアの出し方、構成方法、論旨の展開などを具体的に教えてくれます。考えてみれば、日本では作文を上手に書く方法を習ったことがなかった。本を読んで感想文を書く。先生が赤ペンでコメントを入れて返してくれる。それで終わり。 書き直したり、いい作文を書くための方法はあまり習わなかったと記憶しています。 加えて、アメリカの演技メソッドでは、この場面ではどのように人が動くかというサイコロジーに基づく行動も習うのです。 —— 「White on Rice」について この作品は、日本語ペラペラで日本文化にも精通しているデイヴ・ボイル監督が自分の経験を元に書き上げました。笑いあり、ホロリと涙ありのストーリーです。 僕が演じた主人公のハジメは失敗を繰り返しているけど、諦めずに前向きに生きている。 どこか憎めず友達になってみたい人っていますよね。 映画「男はつらいよ」の寅さんっぽい男。 観客がそんなハジメに好感を抱いて、ひいては日本人に好意的になってもらえれば最高です。 この映画のタイトル 「White on Rice」の意味ですが、「コメ」から「白」は切り離すことはできないですよね。 妹のアイコもハジメから離れることができないでいる。せつない愛情が伝わってきます。 そういう意味で、監督はタイトルを付けたようです。 —— 初めての主演映画 当然ですが、セリフがたくさんあり苦労しました。 「ラストサムライ」に脇役で出演したときに大よろこびしていた母が、今回は心配しています。 監督のデイヴ・ボイルにたまたま電話をする機会があって「チョイ役でいいから次回の映画にも使って」と軽い気持ちでお願いしたら、すぐさま「次は主役だから」って言われて。 もうビックリ仰天しましたよ。 学芸会だって主役をやったことがないのに。 「僕なんかでいいんですか?」と喜びよりも驚きの方が強かった。 監督の前作の映画「ビッグ・ドリームズ・リトル・トウキョウ」に端役で出演したことがあり、監督はその撮影時から「次は渡辺をメインに使うぞ」と決めていたようです。 その後、映画「硫黄島からの手紙」で、僕が演じた藤田中尉役をイメージして脚本を書いていたようです。 —— 撮影中のエピソード 初めての撮影はユタ州でのロケでした。好きな女性にボロクソにふられるシーンでした。 ホテルに帰って独りになると、なぜだかガックリ、情けなくなっちゃって。日本にも帰りたくなってしまいました。ハジメ役になりきったあまりに、彼の惨めな気分に感情移入してしまったんでしょうね。 —— アメリカで成功するために 自分の好きなことを職業にして成功する秘訣は「Consider Source」。その道の成功者の意見が大切だと思います。 たくさんの人の話を聞いて、勝利のパターンを見つけること。そして強い意志を持つことです。 僕はまだ階段の途中。 それを前提にしたアドバイスと受け取ってください。 —— 将来の夢 殺陣 (たて) を勉強して、時代劇に出てみたい。それから日米両方の作品、特に日本人をテーマにしたハリウッド映画に出演したいですね。ハリウッド映画は世界中の人が観る可能性が高い。僕の演技を通して、日本への興味を持ってくれれば嬉しいです。 『White On Rice』 あらすじ: 妹アイコの家に居候中の40歳でバツイチのハジメは、何をやっても長続きせず、また、さまざまなことで常識はずれのヘマを繰り返す、完全なる“ルーザー”。予想以上に長く家に居座る彼に、アイコの夫タクはイライラを募らせていた。そんなある日、タクの姪ラモナと再会したハジメは、 美しく成長した彼女にすっかり心を奪われる。 アイコの一人息子で小学生のボブの力を借りて、何 とか彼女のハートをつかもうとするハジメだったが……。 ポイント: 日本語ペラペラのデイヴ・ボイル監督 (『Big Dreams Little Tokyo』) が放つ、日系映画第2弾。主人公ハジメの妹でしっかり者のアイコを演じるのは、日米の映画界で活躍する裕木奈江。アイコの夫タクには、ウディ・アレンの映画音楽でバイオリン奏者として活躍後、俳優に転身した高田澪。 ハジメの同僚で友人のティムには、『Heroes/ヒーローズ』でヒロ・ナカムラの親友アンドウ君役でブレイクしたジェームズ・カイソン・リーが扮しています。 アイコとタクの愛息子ボブを演じたジャスティン・クウォングは、デビュー作となる本作でロサンゼルス・アジアン・パシフィック映画祭新人賞を受賞しました。 家庭内では母国語と母国文化で暮らす在米日本人の生活をリアルに切り取りつつ、登場人物それぞれが抱える悩みは世界共通と実感させられる本作は、上述の映画祭で脚本賞を受賞しています。 監督・脚本:デイヴ・ボイル 出演:渡辺広 (わたなべ ひろし) 出演:裕木奈江(ゆうき なえ) 出演:高田澪(たかだ みお) 出演:ジェームズ・カイソン・リーほか レーティング:PG-13 上映時間:85分 上映劇場:Gaslamp 15 上映劇場:701 5th Ave・San Diego チケット:大人 $11.00、昼 $8.50、子供 $7.50 シニア $8.00、学生 $10.00、ミリタリー $9.00
Photo by Amos James ©Variance Films, 2009 White On Rice, LLC.
(2009年11月1日号に掲載)