科学と文明の発展に貢献した人物に授与される京都賞。稲盛財団(理事長・稲盛和夫京セラ名誉会長)が主催する同賞の第28回授与式が昨年11月に京都市内で行われ、基礎科学部門は東京工業大の大隅良典特任教授(67)が受賞した。大隅博士は栄養不足の環境における細胞のオートファジー(自食作用)のメカニズム解明への貢献が高く評価された。先端技術部門はコンピュータ・グラフィックスの基礎技術を確立した米国のアイバン・エドワード・サザランド氏(74)、思想・芸術部門ではグローバル化が生んだ新たな“植民地主義”を批判する言論活動が評価され、インド人として初の受賞を果たしたコロンビア大のガヤトリ・スピバク教授(70)がそれぞれ栄誉に浴した。
2013年「京都賞シンポジウム」が3月12日から14日までサンディエゴ市内の4大学で開催され、受賞3氏の講演も行われている。基礎科学部門で受賞した大隅博士に、人生の転機、研究成果の意義、今後の展望などを聞いた。
幼い頃の家庭環境
4 人兄妹の末弟として終戦の6か月前に生まれました。食糧事情が悪く、無事に育つだろうかと両親は心配していたようです。父は九州大工学部に勤務。母は結核 の病床にありました。母が元気になってからは家族でマージャンをしていましたね (笑)。自分が一番強かった (笑)。ひらめきに長けていたので、やはり科学者タイプなのでしょう。
少年時代の夢
体が弱く、スポーツも得意でなく、昆虫採集に夢中になるような少年でした。両親は私に学者になるよう期待をかけていて、自分でも子供の頃から研究者を目指していました。
酵母研究者への道
1970年代は大腸菌のタンパク質合成制御の研究が花盛りでしたが、ロックフェラー大学院研究員時代にリーランド・ハートウェル(ノーベル生理医学賞受賞の生物学者)の出芽酵母による細胞増殖についての研究に触発され、体の細胞を理解するというテーマが自分に向いていると思い、酵母の研究を始めました。
情熱の源
分からないことを理解したいという意欲。今後の研究課題は山ほどあります。
オートファジーの働き
飢餓状態における細胞の自食作用のことです。栄養不足になると、自分の細胞組織を壊して必要なアミノ酸を取り込んでいきます。山で遭難しても、体内のタンパク質を取り込むことで1週間は水だけで生存できるのです。オートファジーには細菌を食べる機能もあります。
研究成果
オートファジーは半世紀前にベルギーの学者が名付けた現象。私が発見したわけではありません。それに関わる遺伝子やタンパク質の作用については長く不明のままでした。遺伝子解析でオートファジーに必要な遺伝子を特定し、その働きを証明することができました。
医学的展望
オートファジーはディフェンス・メカニズム(生体防御機能)なのでバランスが必要です。“オートファジー病”は確認されていませんが、食べ過ぎれば細胞死も考えられます。細胞が完全欠損すると人は死にます。遺伝子の働きによる病気にはオートファジーが関係しています。バランス良く細胞の中を掃除することで老化の進行を遅らせたり、がん細胞のオートファジーをブロックすることでがんを防止できる可能性もあります。
夢を抱く若者へ
流行(はや)りに飛びつかないでほしい。若い研究者は注目されている分野に行きたがりますが、それは正しい選択とは言えません。学者であれば未知の分野を目指すべきです。
(2013年4月1日号に掲載)