▽森下仁丹が1960年代に売り出した、口の中に強烈な「仁丹」の香りが広がる、その名も「仁丹ガム」は子供にも大人気だった。小学校低学年の私は、薬局で買える異質さと相まって、ガム1枚と同サイズの「おまけカード」の魅力に取り憑かれた。新車を写真で紹介するカードが欲しくてたまらない。小遣いを注ぎ込んで集めたカードを毎日のように眺めながら、クルマへの興味を募らせていく。そして、子供には難しすぎるジープのプラモデル製作に挑んだ。説明書を読み込んで、無数のパーツを丹念に組み立てて、接着と塗装に細心の注意を払いながら完成。雨の日で湿度が高く、塗料を乾かそうと、電気コンロの前に放置していたら溶け始め、気が付けば、私の労作は無意味なオブジェに変化していた。あの日を境に、車への興味と知識は消えた。▽私の印象は人によって全く違うらしい。真面目な人、面白い人、怖い人、飄々 (ひょうひょう) としている人・・。同時多発的に変化する、私という男の “人物描写”。酷いものになると「地獄から這い出てきたような人」というのもあった。(若い頃はガリガリに痩せていて、ムンクの有名な絵画『叫び』 の顔真似が得意だった) 「人格を一元化する必要はない」とウソぶく私を尻目に、「史上最強のマイペース男」という一言で、私の人物評が一致しない謎を解いたのは妻だった。 (SS)