生前の父は滑稽 (こっけい) なほど頑固一徹で、いつもジレンマに陥っていた。人一倍プライドが高く、モノを尋ねたり、アドバイスを求めることを一切しない。見かねて進言しようものなら怒鳴られる。ヘビー級の時代遅れでもあり、家電音痴もいいところで、不便と知りながらも、旧式の生活から抜け出せない。▽VCR (懐かしい!) でTV録画をするにも、予約機能を無視し、猛ダッシュして Record ボタンを押しまくる。携帯電話がほぼ全家庭に普及しても、固定電話から離れられない。父に内緒で家の「固定」 を処分して「携帯」に替えたところ、子機をTVリモコンと間違えて怒りまくる始末——。ある日、落雷で携帯が故障してしまい、父の憤怒が頂点に達して一喝!「業者に電話して、すぐに来てもらえ!」▽ホテルのフロントでカードキーを手渡された父は、どうにかオートロックのドアを開けて入室できたものの、室内照明をONにする方法が分からない。部屋のカード受けに差し込む発想など出てこない。誰かに聞きたくもない。薄暗い中で憤然としていたら、別の要件でフロントから電話が来た。渡りに船とばかりに「ライトはつかないし、スイッチもない。どうなってるんだ?」と不愉快そうにクレーム。そんな父を相手に丁寧に説明してくれて、問題解決。困り果てて、近くのコンビニでロウソクを買いに行くつもりだったらしい。 (SS)