▽グルメとは縁遠く、優れた味覚の持ち主でもない私が、これぞ美味!と思える一品 —— それは「雪虎」(ゆきとら)。希代の食通、北大路魯山人 (きたおおじ・ろさんじん) の小著『夏日小味』に出てくる簡単な夏料理。豆腐半丁を油で揚げ、火で炙りながら焼き網で筋を入れ (虎の縞模様)、大根おろし (雪) を乗せる。私は冷やして醤油をかけて食べる。ネギを乗せると「竹虎」(たけとら) と呼び名が変わる。早い話が “揚げ豆腐の冷奴”。160年続く庶民の味も、魯山人が創作した小皿に盛ると、高級食材でなくても美食の絶品となる。「豆腐の美味は京都に極まる」と言う。その底力は豊富な地下水脈だとか。豆腐が大好物の自分としては京都でも味わってみたい。▽七味唐辛子やメキシコの香辛料ハバネロを豆腐にかけていたが、冷奴と最高の相性と思えるクロアチアの調味料「ベゲタ」を見つけた! 脂分を使わず野菜やハーブを凝縮した、東欧料理に欠かせない万能スパイス。驚くなかれ、大豆の上質な甘みを引き立たせ、冷奴の旨味が数段アップする。▽死ぬほど不味 (マズ) かった記憶 —— それは「脱脂粉乳」。終戦後〜1964年までアメリカとUNICEFの食糧援助を受け、私が小学1年生の時だけ学校給食に出された粉ミルク。栄養価が高くても、臭みが強烈で一度も飲めなかった。この話ができるのは60歳代以上。 (SS)