高校時代の夏休みに帰省した私を待ち受けていたのは、旅行中の叔父家族が飼っている犬を散歩させる役目だった。犬種はラフコリー。名前はラッシー。見た目はTVドラマの主役犬そのもの。散歩初日。ある家から小犬が唸り声を上げながら、歯をむき出しにしてラッシー目がけて突進してきた。大きな図体とは裏腹に、ビビッて逃げ惑うヘタレな “迷犬ラッシー”。パワーに引っ張られて転倒した私は右ヒザを擦りむいた。振り返ると、飼い主らしき夫婦 (?) が笑いながら謝っている (笑うか?)。難を逃れた私とラッシーは公園で休息を取っていた。道端に落ちていた古いテニスボール。私が何の気なしに蹴り飛ばしたら、それに反応して脱兎 (だっと) のごとく猛ダッシュ! 後を追いかけた私は、再び転んで左ヒザも擦りむく。翌日、同じ轍 (てつ) を踏むまいと散歩コースを変えたら、他犬とのトラブルもなく、愛犬を連れた若い女性と出会ってを挨拶を交わす。このルートは 「天国」 だった。母に聞いたら、彼女は近所に住む◆◆さんの娘で女子高生だという。「向こうはヨークシャーテリアを連れていた。名前は何?」「マリだよ」と母。翌朝、彼女の愛犬に向かって「マリ、マリ!」と手招きしたら、本人が驚いた顔で「私に、何かご用ですか?」 (母さん、私は犬の名前を聞いたんだ) (SS)