▽幼い頃、交番勤務の若い巡査さんに絶大な信頼を寄せていた。河原の泥濘 (ぬかるみ) にハマって動けない私を発見し、自転車から飛び降り、驚くべきスピードで救出してくれたことがある。お巡りさんこそ、世界一のスーパーヒーローだった。交番へ行くとチューインガムやキャラメルがもらえた。夏にはスイカまで出してくれる。「気が優しくて、正義感にあふれるお巡りさん」「警察官は現代の救世主」という、子供心に揺るぎない固定観念を持っていた。▽ “海水浴デビュー” を果たした6歳の夏。8月下旬の太平洋は荒れていた。容赦なく強風が吹きつける海岸。父と弟は海水浴へ。 隣りにいた母と叔母の姿がなく、心細くなった私は警察の救護テントに駆け込む! 大音響の拡声器で「お子さんを保護しています!」と呼び出された父が、息を切らして私を迎えにくる。2度目は母の帰りが遅くてパニックに陥り、またもテントに猛ダッシュ! 再びマイクロフォンで呼び出される家族。両手にかき氷を持った母が、遠くから必死に追いかけてきたのも知らずに・・。3度目はビーチパラソルが飛ばされ、もはやこの世の終わりとばかりに、お巡りさんを目がけて一目散! 弟を背負った叔母と両親が必死に追いかけるも、脱兎のごとき猛スピードで駆け抜ける少年を止めることはできなかった。(SS)