宇宙への扉を開いてくれたのは、父の手作りによる天体望遠鏡。父には悪いけれど、屈折式経緯台の簡易版とは言えたものの、ファインダーは付いてないし解像度も低かった。まあまあ月面観測はできても、土星のリングをキャッチするのは無理。「宝物」と呼べない望遠鏡は子供部屋の「飾り物」となり、悲惨な末路をたどる。相撲を取っていた私と弟が望遠鏡に激突し、真っぷたつに折れた。父の逆鱗 (げきりん) に触れて2人は家の外に出された。高校1年の秋、某光学機器メーカーの工場で購入した反射式赤道儀 (口径100mm)。これこそ「宝物」。ところが、架台に選んだ鉄柱の重量がハンパなく (キャスターなし)、マンションの屋上に固定したまま動かせない (今もそのまま)。やむなく野外用のカーボン三脚も買い、観測用具とテントを自転車に括り付け、郊外に出て組み立て作業を始める。暗がりではラーメン屋台の設営に見えたらしく、酔っ払いが何度も近寄ってきた。「天体観測です」と反応すると「気取ってんじゃねぇよ!」と絡まれることもしばしば。「すいません! 閉店なんで、またあした!」と煙に巻いて、次の日は場所を変えた。星空を眺めながら深夜放送も聞いた。当時の人気DJ落合恵子さんから頂いた自筆のイラスト入り返事。これも「宝物」の一つ。 (SS)