米国生活を始めた頃、不思議な世界に足を踏み入れた。ワシントン州の小都市で夢中になったボールルームダンス。コンペティション (競技) とナイトクラブ (社交) のコースがあり、私は競技ダンスを習い始めていた。ご高齢の裕福な貴婦人たちが集まるナイトクラブは「高級サロン」の雰囲気があった。富豪No.1は自動車業界BIG 3の一角を占めたC社の重鎮を夫に持ち、未亡人となってミシガン州から来たミセスP。街の最高級ホテルで催される Xmas Dinner Dance では、ダンススタジオの社長が運転手となり、ミセスPを丁重に扱う。会話がスゴい。“What kind of store is Taco Bell?” “It's a Mexican diner where the general public likes to gather, ma'am.” 男手が足りず、私たち競技組もタキシードと蝶ネクタイで駆り出される。難関はワルツとフォックストロットのフォーメーションダンス。ビッグバンドの生演奏で踊る豪華フィナーレなのに、ご婦人方の体が硬すぎて、男のリードをフォローできないばかりか、逆方向に行こうとする。リハビリの現場だ。前衛舞踊?のようなバラバラな動きに驚き、口を開けている観客。男たちはメチャクチャな動きを必死に封じ、最後にピタリと止めた。会場は拍手の嵐。涙ぐむ客も。3年続いたクリスマスの試練。(SS)