20代初めの頃、普通車運転免許証を取得する「合宿コース」に申し込んだ。静岡県の小都市にある自動車学校で同室になったのは、私を含めて5名。考えてみれば、目的が同じとはいえ、年齢も職業も生活環境も異なる男たちが偶然にルームメイトとなり、2週間以上も寝起きを共にする機会など、生涯でそうあるものじゃない。私は単独行動を好む人間なので、合宿所での夕食後、街の中心部まで散歩するのを日課としていた。喫茶店で寛いだ後、門限には帰宿していたが、毎晩私が何をしているのか、ルームメイトから怪しまれた。夜遊びなどしていません。陽気な40代の自営業者は運動神経が鈍すぎると悩んでいた。「どうしても、方向指示器を逆に出しちゃうんだよ。教官から 『ふざけてんのか!』 と雷を落とされる」 と笑いながら話す。普通、右折の時は右に出すだろ? 運動神経の話じゃないだろ! 問題児は18歳のトビ職人。運転技術はピカイチで誰よりも上手い。路上教習でスピードを出しすぎて教官から怒鳴られまくっていた。その彼がテクニックに溺れたのか、教習所内で交通事故を起こした! 同乗していた教官が負傷して病院に搬送される。地元のTVニュースは「自動車学校内の事故で救急車が出動したのは、前代未聞の珍事」と報じた。(SS)