40年ほど昔、仲間に無類の釣りバカがいた。魚釣りに全く関心がない私に、その男は「磯釣り」の醍醐味を熱っぽく話し始める。① 海景色が素晴らしい。② 魚との知恵比べ (潮流と波を計算しないと釣果なし)。③ 釣り上げた魚をそこで食べる幸福感。3つの魅力が太公望への扉を開くと得意気に話す。聞いているうちに興味が湧いた。「道具は俺が全部用意する」と言うので一緒に行くことにした。目指す漁場は南三陸の離れ小島。「♪村の渡しの船頭さんは♪」の童謡に出てきそうな小船で移動。「夕方に迎えに来るよ」と言い残して船頭さんが帰った後で、ヤツが青ざめた。持ってきたリュックに道具と餌が入ってない! 当時は携帯電話がなく、非常時の連絡も取れない。早朝から何もできない青年2人。仕方なく、訥々 (とつとつ) と身の上話を始める。相手の話に耳を傾け、自分の考えも聞かせながら互いに親睦を深めたが、暇つぶしも限界がある。水飴 (みずあめ) のようにデレ〜っと長く伸びた不毛な時間。沖を行く船や空を横切るセスナ機に手を振ったり (SOS!!)、無言で「ラジオ体操第1」を始めたり、小学校で覚えた唱歌『静かな湖畔』を輪唱したり、足元を横歩きしているカニ、岩場で休んでいるカモメに話しかけたりしていた。(SS)