September 13, 2025

聞く/話す

 

40年ほど昔、仲間に無類の釣りバカがいた。魚釣りに全く関心がない私に、その男は「磯釣り」の醍醐味を熱っぽく話し始める。① 海景色が素晴らしい。② 魚との知恵比べ (潮流と波を計算しないと釣果なし)。③ 釣り上げた魚をそこで食べる幸福感。3つの魅力が太公望への扉を開くと得意気に話す。聞いているうちに興味が湧いた。「道具は俺が全部用意する」と言うので一緒に行くことにした。目指す漁場は南三陸の離れ小島。「♪村の渡しの船頭さんは♪」の童謡に出てきそうな小船で移動。「夕方に迎えに来るよ」と言い残して船頭さんが帰った後で、ヤツが青ざめた。持ってきたリュックに道具と餌が入ってない! 当時は携帯電話がなく、非常時の連絡も取れない。早朝から何もできない青年2人。仕方なく、訥々 (とつとつ) と身の上話を始める。相手の話に耳を傾け、自分の考えも聞かせながら互いに親睦を深めたが、暇つぶしも限界がある。水飴 (みずあめ) のようにデレ〜っと長く伸びた不毛な時間。沖を行く船や空を横切るセスナ機に手を振ったり (SOS!!)、無言で「ラジオ体操第1」を始めたり、小学校で覚えた唱歌『静かな湖畔』を輪唱したり、足元を横歩きしているカニ、岩場で休んでいるカモメに話しかけたりしていた。(SS)
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▽「受話器は左手、ペンは右手」「人の話を最後まで聞く」。新入社員時代、毎日のように先輩に怒られた。「自分の話にしない」「相づちを連発しない」「すぐに答えを返さない。2秒待つ」。 特に「聞く力」について、耳にタコができるほど注意された。でも、ちゃんと「聞く」のは意外に難しい。未だに教育係の先輩の声が聞こえてくる。▽世の中には「とても聞き上手な人」がいる。そして「聞き上手は、解決上手」。私の祖母もそんな魔法のような力を持っていた。働く両親に代わって家事をしてくれた祖母は、優しく包み込むように話を聞いてくれ、私の心をも変えてしまう不思議な力があった。▽FBIが人質ネゴシエーター向けに発表しているレポートによると、交渉で重要なのは、相手の話を聞く「傾聴」だとされている。口出しや反論や評価を一切せずに、短い質問を繰り返して、相手の話した内容をコンパクトにまとめ、合いの手を入れ、定期的に頷 (うなず) く。世界でも難易度の高い交渉に取り組んでいる彼らが使っているテクニックは、普段の私たちの会話にも役立つような気がする。▽人間が自分の話をするという行為は、美味しいご飯を食べている時や、現金をもらった時と同じくらいに癒されるとのこと。祖母やFBIを見習って「聞く力」を身につけ、温かいつながりを広げていきたい。(NS)
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yoko
今回のテーマは「話す/聞く」。初対面の人によく「大人しいね、静かだね」と言われてきた私は話し下手だ。あまり話さない人と一緒にいると、お互い無言になってしまう。母も静かなタイプだし、父はとても無口な人。妹も大人しいので、うちの家族はとても静かだった。なぜかおしゃべりな人と一緒になってしまった私。夫は電話で2時間、3時間と話し続けられる。本当によく喋 (しゃべ) る。ただ、夫の話を聞き続けるのは苦痛だ。くどい。同じ話を何回も繰り返す。だらだらと長すぎて、何が言いたいのか分かりにくいので、疲れてくる。私が話し下手なので、聞き上手になろうと思っているのだが、無理っぽい。適当に聞き流したり、長々と続く話の途中でいなくなったり (私は忙しい!)、または途中で口を挟んだりすると「人の話を聞かない!」と怒られる。最近は小学生になった子供たちが夫の話を聞かされている。まだ小さいので素直に聞いているが、そのうち、煩 (うるさ) がられるようになりそう。子供たちが独立して夫婦2人になったら、面倒かも。(YA)
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reiko-san
△日本に住む父と時々ビデオチャットで話をする。携帯電話をそばに置いていないのか、こちらからかけてもなかなか取ってくれない。やっとつながって画面に映る父の顔。すっかり白髪だが、まだトレードマークの天然クルクルパーマの髪は健在で、肌も艶やか。こちらに自分がどう映るかはお構いなしで、上を見上げて目をつむりながら、近況をあれやこれやと話してくれるのを聞くの好きだ。 私の方も、最近の我が家の様子やらを話す。父はふむふむと楽しそうに聞いている。取りとめのない話を1時間ほどして終了。月2回ほど話せたら良いほうかな。△これは父との会話に限ったことではないのだが、日本に暮らす人と話すとき、私は自分の日本語を話す力が退化している事実に愕然 (がくぜん) とすることがある。いろいろな単語やら表現がスムーズに出てこないのだ。適切な日本語の言葉があるはずなのに、なんというんだっけ? あれ? それとも、この英単語は日本でもう公認されて使った方が自然なのか、などなど。簡単なことを話しているだけなのに、疲れてしまうことしばし。英語もまだ見習い中なのに、日本語までおかしくなってしまったら、どうにもならない〜。頑張ってYouTubeで日本の動画を見て、日本語維持に励もう (笑)。(RN)
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suzuko-san
話し上手に聞き上手、が理想であるが、往往にしてそういう訳にはいかない。私もおしゃべりであるが、私の友人は私を遥かに超えていて、話し始めたら私に話すチャンスをほとんど与えない。放っておけば平気で1、2時間はしゃべり続ける。一つの話題が終わって、やっと私の番が来たかなと思うや否や、即座に別の話題を見つけては、すかさずしゃべり続ける。再びしゃべり始めた彼女に、またまた相槌 (あいづち) を打つのが精一杯。私も彼女に伝えたいことがあるのに、とにかくそのきっかけが捉えられないのだ。例えば、私が旅行から帰って来たとすると、普通は「旅行、どうだった」と聞いてくると思うのだが、そんなことより、自分の周りに起こったことをさっさとしゃべり続ける。それを彼女に訴えたことがあった。そうすると「〇〇さん (私のこと) だってしゃべっているよ」。「××ちゃん (相手のこと)、私はあなたへの相槌を打っているだけだよ、よ~く観察してみて」と、もちろん反論する。はたまた私もその傾向が強いが、人がまだ話し終わらない段階で、その人の話の結末を勝手に想像して言う人もいる。その結末は往々にして異なっている。すると「人の話を最後まで聞きなさいよ」ということになる。ああ、話上手、聞き上手への道は遠い。聞か猿、言わ猿がいいのか。(Belle)
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jinnno-san
今さらだけど、ネットで昔のドラマを見始めた 笑。以前は興味なかったけど、パンデミック以降、テレビっ子 (昭和すぎる? 笑) ならずネットっ子になった 笑。そこで出会ったのが2005年放送の「タイガー&ドラゴン」。ヤクザが落語家と兼業する話。落語のことは「笑点」だけが頼り 笑。寄席にも行ったことないし、古典落語って、なんで聞いたことのある演目を、もう一度聞きに行くの? 同じ演目を違う落語家がどーして話すの?と思っていた。例えば漫才。自分の好きな漫才コンビだとしても、同じ演目はもうお腹一杯じゃなーい? 10年後くらいなら話は別かもだけど。ましてや同じネタを違う漫才コンビが扱う? いやいやいやーー、普通にないでしょ 笑。でもドラマでは、ド素人のわたしには、十分すぎるくらい古典落語を堪能できるのさ。このドラマを見るまで「饅頭 (まんじゅう) こわい」を勝手に歌だと思っていた 笑 (別のドラマで ♪ 饅頭こわい ♪ って歌ってたので ← ヒドイ 笑)。 別の噺家が話すと、同じ演目でも聞き手は違った楽しみ方ができるのねってナットク。ニッポン人に生まれてきたんだから、伝統芸能をちゃんと把握して、演目の1つや2つくらい見ないとね~。と言いつつ、今日もYouTubeで 「ドリフ大爆笑」 を楽しんでいるわたし 笑 (← ダメだぁこりゃ 笑)。(りさ子と彩雲と那月と満星が姪)
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私の旦那は話すのが大好き。話したいと思うと我慢できず、以前は、私が用を足しているとバスルームのドアを3cmほど開けて話したり、シャワーを浴びている時は隣の便器に座って私に話しかけていた。そんなおしゃべりな旦那は、結構、話し上手。そのおかげで、得をすることも多々ある。① アバクロ:私がAbercrombie & Fitchで買い物をした時、定員に失礼なことをされた。家に戻り、旦那にそれを愚痴った。特に、何も求めていなかったけれど、旦那が報告のために店長に電話した。$100の商品券をもらった。② リーバイス:旦那が “1本” のジーンズを買った。自分のミスもあったけれど、洗ったら縮んでしまった。Levi'sのカスタマーサービスに電話して、どうしたら直せるのか聞いた。 数週間後、新しいジーンズが “2本” 届いた。③ ブレッドマシーン:1年ちょっと使ったブレッドマシーン。突然動かなくなった。レシートは残っていないけれど、旦那がCuisinartのカスタマーサービスに電話。数週間後、同じモデルの新しいブレッドマシーンが届いた。他にも多数。どんなマジックトークをしたんだろう? 毎日一緒にいて聞く方は大変だけれど、時々は使える旦那だ。(IE)
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私は話すことが得意とは言えない。子供の頃なら、それで問題なく過ごせてきたかもしれないが、年齢を重ねるにつれて、話すことは嫌いなどと言っている場合ではなくなる。「話す」「聞く」というコミュニケーション能力は仕事や生活に必要不可欠なものであり、 このどれかが欠けていると、人間関係もうまく構築できない (たぶん)。今では我が子の手前、良いところを見せないといけないので、 頑張って、学校関係の人や近所の人などとできるだけ話をすることを心がけているが、やっぱり苦手だ。最近、娘の学校で知り合った日本人の方が、同じ時期に同じ学区に来たばかりのはずなのに、スゴい数のママ友がいることに驚かされた。すでに学校中のママさんたちを知っているのではないかと思うくらいに。どうしてそんなに知り合いが多いのか、その人に聞いたら、ただ話しかけて仲良くなっただけだと言う。そして、話すことが得意なのだとか。羨ましいことだ。私は、まず自分から話しかけることは余程のことがない限りしないし、仲良くなるほど会話を弾ませることもできない。話すことが苦手なら、せめて聞き上手にとも思うが、気の利いた言葉を返してあげることが無理なので、結局、聞き上手にもなれないでいる。困ったもんだ。(SU)

(2021年11月1日号に掲載)