私は少年期から現在に至るまで、言動に派手さもなく、隠忍自重 (いんにんじちょう) という印象を周囲に与えてきたが、実は、強烈な自己顕示欲を隠し持っていた。渡米して間もなく、ボールルームダンス競技会に熱中し、ウルトラマンのようなスパンコール付きコスチュームに身を包み、平気で人前で踊る自分に驚いた。日本にいた20代の頃、友達から結婚式の司会を頼まれた。私の “表向き” の性格なら断るところを二つ返事で引き受ける。心の中で燃えるものがあった。司会進行の台本を綿密に作り上げ、一言一句を暗記して完璧を目指したが、本番で噛みまくってしどろもどろ。列席者の一人から「滑舌が良くなるよ」と酒を差し出される始末。捨て身の作戦に出た私は、台本と羞恥心をかなぐり捨て、アドリブで勝負をかけた。余興では 「素人のど自慢」の司会者のごとく、花束贈呈のクライマックスでは絶叫マシンよろしく、会場全体の感情を盛り上げることに成功し、拍手の嵐に包まれた。人は窮地に追い込まれると、奥に隠された大変身へのスイッチを押すらしい。友達のために一肌脱ごうとしたのは勿論だけど、どうしても「司会の下手なあいつ」という汚名だけは受けたくなかった。翌日には、私は友達の誰もが知っている、口数の少ない、内向的な人間に戻っていた。(SS)