▽母はスイカを知らなかった。別のスイカは知っている。入院中の親戚を訪ねるため、仙台駅に降りた母は「スイカ発売中」という横断幕を目にした。夏の見舞い品にふさわしい。JRとJA (全農) が提携してスイカを売っていると早合点し、駅員さんに売場を尋ねると「券売機で買えますよ」。最初に引換券を買い、それを渡したら持ってきてくれるのね。引換券の購入ボタンが見当たらない。同じ駅員さんに「代金をここで払います。小ぶりでもいいわ。1個運んできてもらえません?」とお願いする母。全てを理解した駅員さん。「ICカードのことです。申し訳ございません」と深々と頭を下げていたが、肩がユサユサと揺れていた。母は「(横断幕に) Suicaと書いてくださる? カタカナにはアクセント記号が必要ね。スイカとスイカは違うのよ」と憤慨していた。▽東京生活を高校から始めた2年目の冬。私は上京した同郷の3人を得意気に案内していた。中野サンプラザを目指して中央線特快に乗り込ませたら、新宿駅始発は中野駅に停車しなかった! 知らなかった! 慌てて逆方向の電車に飛び乗ったものの、M男の提案で彼らの貴重品を入れていたボックスを棚に忘れる。ドタバタ騒動は誰の責任か、という無益な審議が始まり、“東京人” を鼻にかけた私のチョンボが元凶とされた。 (SS)