2024年3月15日
ロサンゼルスで開かれた第96回アカデミー賞は、原爆開発者の半生を描いた『オッペンハイマー(Oppenheimer)』が作品賞など7冠に輝いた。
計13部門の候補に選ばれていた注目作の圧勝に見えるが、昨年実施された俳優と脚本家のストライキや、ハリウッドで進む多様化を背景に、世界の記者の目には「稀 (まれ) に見る激戦の年」と映っていた。
米映画サイトと契約するベテランの男性記者は「予想が難しかった」と振り返った。
「ストの影響で大作が少なく、年齢制限がある映画や芸術性の高い作品が台頭して、審査基準が読みにくかった」
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主演、助演の両女優賞の予想は、各メディアで特に困難を極めた。
主演賞は『哀れなるものたち (Poor Things)』のエマ・ストーン、助演賞は『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ (The Holdovers)』のダバイン・ジョイ・ランドルフが獲得したが、記者からは「米先住民の血を引くリリー・グラッドストーン (『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン (Killers of the Flower Moon)』) が主演賞を取るべきだった」と不満の声も上がった。
「米国外の作品が多かったのもカオスの理由」と解説するのは、スペイン大手紙のパブロ・スカルペリーニ記者。
国際長編映画賞に輝いた英国の『関心領域 (The Zone of Interest)』は作品賞などにも候補入り。
長編アニメーション賞と国際長編映画賞には日本の作品だけでなく、合作を含めスペインの作品もノミネートされた。
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「長編アニメ賞は子ども向け作品が多いが、(同賞を受賞した) 宮崎駿 (みやざき・はやお) 監督の『君たちはどう生きるか (The Boy and the Heron)』は大人も納得の芸術作品。こんな高度な作品が並べば、選ぶ方も困るだろう」
『君たちはどう生きるか』について、イタリアの通信社のルチア・マッジ記者は「正しい子どもばかり出てくるディズニー作品と違い、描くのは悪意や狡 (ずる) さを含む少年の内面の葛藤と成長。
ナンニ・モレッティらイタリアの名監督の作風にも通じ、舞台は日本だけど親しみすら感じる」と話した。
視覚効果賞を受賞した山崎貴 (やまざき・たかし) 監督の『ゴジラ-1.0 (Godzilla Minus One)』も大人気だった。
米国では公開後約2か月で上映が打ち切られたため、街には「見たかったのに見逃した」と話す人も少なくなかった。
「受賞したのだから、もう一度劇場で上映して」との声も。
『ゴジラ-1.0』は海外の大作に比べて、限られた予算の中で製作された。
山崎監督は「最新のデジタル技術と日本の映画界が培ってきた古典的な手法を組み合わせ、手作りの温かみを生み出した」と語る。
『ゴジラ』シリーズをはじめ、日本の怪獣映画を支えてきたのが「特撮」と呼ばれる、合成映像やミニチュア模型を使って表現するアナログ手法だ。
『ゴジラ-1.0』は最新技術に加えて、この伝統的な手法を積極的に用いた。
地元ロサンゼルスのスペイン語紙の記者は「今回の『ゴジラ』は本当に怖かった」と話しかけてきた。
『オッペンハイマー』には被爆地の惨状が描かれていないことを挙げ「(『ゴジラ』は) 1等賞の映画が避けた悲惨な景色と向き合い、私たちに戦争や核兵器の恐怖を見せてくれた。
山崎監督は本当のサムライだ」と話し、深く頷 (うなず) いた。
Picture:© Peace-loving (“The Boy and the Heron” winner for best animated film)
(2024年4月1日号掲載)