2024年9月1日
大統領選で民主、共和両党が最重要視するペンシルベニア州で、州経済を支えるシェールガスの掘削手法をめぐって攻防となっている。
民主党候補ハリス副大統領は、環境負荷が大きいとしてバイデン政権が禁じた手法の容認に転換。
共和党候補トランプ前大統領側はこの姿勢を槍玉 (やりだま) に挙げる。
分断を煽 (あお) るトランプ氏を嫌う無党派もおり、勢力は伯仲する。
▽突破口
気温30℃の8月24日、共和党の地元組織幹部トッド・マコラムさん (53) が額に汗して州西部の都市ピッツバーグの住宅街を
戸別訪問していた。
民主党支持者が多い都市部では、トランプ氏の名前を口にしない。
「有権者が耳を貸さなくなるのは避けたい」。
大統領選と同時実施の下院選を話題にし「民主党の現職議員が嫌なら別の選択もある」と切り出した。
現職は急進左派ロバート・E・リー議員で、シェールガス開発手法の「フラッキング (水圧破砕法)」は環境に悪影響があると反対する。
マコラムさんは経済を重視する住民の不満が突破口になると睨 (にら) む。
ペンシルベニアは勝敗を決める選挙人が激戦州で最も多い。
鉄鋼業が廃 (すた) れ、ラストベルト(錆びた工業地帯) と呼ばれた州西部ではシェールガスが経済復活の起爆剤になり、住民は好意的だ。
トランプ陣営は「ドリル・ベイビー・ドリル (“Drill, baby, drill.”=掘って、掘って、掘りまくれ)」を合言葉に推進をアピール。
2020年大統領選に向けた民主党候補選びでフラッキング禁止の立場だったハリス氏は、姿勢転換を迫られた。
▽死活問題
戸別訪問に参加したエネルギー企業勤務のデービッド・ゲーリングさん (37) はフラッキングを米経済の「死活問題」とみる。
石油、ガスだけでなくプラスチック原料のエタンも得られるため「禁止すれば米国はもたない」と危機感を示す。
エネルギー省によると、ペンシルベニアのシェールガス生産量は増え続け、2021年時点で全米第2位の2,136億立方メートル。
エネルギー安全保障の要の一つになっている。
訪問に眉をひそめる民主党支持者は多いが、看護師ルイス・オーシさん (60) のように「エネルギー自給は最優先だ」と賛同する人もいる。
▽拒否反応
民主党は2016年大統領選でクリントン元国務長官の陣営がペンシルベニアを「楽勝」と油断し、トランプ氏に敗北した苦い経験がある。
当時郊外の住宅ではクリントン氏のプラカードは見られなかったが、今回はハリス氏のものが並んでおり、地道な運動を窺 (うかが) わせる。
勝敗の鍵を握るとされる無党派のトランプ氏への拒否反応は強い。
共和党が優勢な州西部オイルシティーに住むダン・アトキンスさん (66) はハリス氏への投票を決めた。
「憎悪をまき散らすトランプ氏にはうんざりだ」
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▪︎ フラッキング (fracking=水圧破砕法):シェールガス開発のため、地下深くに化学物質を含む高圧の水を送り込んで岩石を破砕する採掘方法。従来の方法では掘削できなかった層にあるシェール (頁岩=けつがん) 層に割れ目を作り、層内の原油やガスを取り出すことができる。米国内の生産量が大幅に伸びた一方で、大量の水を使用するため水不足になる懸念や、化学物質による環境汚染が指摘されている。
(2024年9月16日号掲載)