Saturday, 07 September 2024

初討論会は罵倒応酬、バイデン氏苦戦 4年ぶりの対決、トランプ氏勝利主張

2024年6月28日

11月の大統領選に向け、民主党のバイデン大統領 (81) と共和党のトランプ前大統領 (78) による初の討論会が6月27日、ジョージア州アトランタにあるCNN-TVのスタジオを会場として一般観衆なしで開かれた。

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大統領選の流れを左右するテレビ討論会でバイデン氏とトランプ氏は冒頭から対抗心を剥 (む) き出しにした。

握手せず、視線も合わせないまま演壇に着くと非難の応酬に。

大統領山荘で約1週間準備を重ねたバイデン氏はダークスーツに紺のネクタイ姿で登場。

トランプ氏が在任中、戦死した米兵を「負け犬」と呼んだとの報道に触れ「負け犬はおまえだ」と言い放った。

お馴染 (なじ) みの赤ネクタイをしたトランプ氏は、雇用創出やインフレ対策をアピールするバイデン氏に対し、
経済が上向いている実感がないと指摘して「史上最悪の政権」と反撃。

不倫口止めに絡む事件での有罪評決は「政敵の追い落としを図ったものだ」と非難した。


威勢良く話すトランプ氏に比べて、バイデン氏の声は枯れて小さく張りがなかった

バイデン氏は言葉に詰まるなど精彩を欠き、苦戦を強いられた。

トランプ陣営は「歴史的勝利」と主張。

両氏の直接対決は2020年の前回大統領選以来約4年ぶりだが、相手の発言を「ウソだ」と否定し、互いを史上最悪の大統領」と罵倒し合った

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民主、共和両党が大統領候補を正式指名する前に行われる討論会開催異例

バイデン氏の高齢不安に拍車がかかり、民主党内から今後の選挙戦を懸念する声が上がり、9月の第2回討論会に向けた挽回が急務となった。

一方のトランプ氏も、大統領経験者として初めて有罪評決を受けたことを口汚く非難して分断を煽 (あお) り、無党派層の取り込みに課題を残した。

CNNが実施した世論調査によると、67%トランプ氏勝利したと答え、バイデン氏33%を大きく上回った。

CNNは民主党関係者がバイデン氏の討論ぶりを「酷 (ひど) かった」と評したと報じた。

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討論は経済人工妊娠中絶不法移民などでも応酬になった。

トランプ氏は、バイデン政権下で物価が高騰し「インフレが我々を殺している」と批判、多くの不法移民が流入して治安も悪化していると訴えた。

バイデン氏に対し認知機能検査を受けるべきだとして大統領職の遂行能力に疑問を呈した。


バイデン氏は、多くの雇用を創出して経済を立て直したと反論し、在任中に最高裁を保守化させたトランプ氏が返り咲けば、全米で人工妊娠中絶が禁止される恐れがあると語った。

トランプ氏を「重罪人」と糾弾し「この男には米国の民主主義という感覚が欠けている」とも指摘した。


力強い表情や身ぶりのトランプ氏だったが「誰が勝っても、選挙結果を受け入れるか」と聞かれると、回答を避けた。

同じ質問が3回繰り返された後にようやく「公正で合法な選挙なら受け入れる」と答えた。


トランプ氏は在任時の国境政策やテロ対策での成果誇張虚偽説明も目立った。

バイデン氏は「事実ではない」とトランプ氏を睨 (にら) みつけ、次男ハンター氏が批判されると「ウソだ」と気色ばむ場面もあった。

ただ、時折言葉に支 (つか) え、虚 (うつ) ろな表情も見せた。


体力を誇示したトランプ氏に、バイデン氏はゴルフで勝負してもいいと述べ、ハンディキャップをめぐって言い争いとなった。

トランプ氏が「子供みたいな振る舞いはやめろ」と言うと、バイデン氏は「子供なのはおまえだ」とやり返した。


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▪︎ 前嶋和弘 (まえしま・かずひろ) 上智大教授 (米現代政治) の話:政策論争だけを見れば互角の戦いだったが、トランプ氏はウソや独自の見解で攻め込んでバイデン氏を戸惑わせ、視聴者が「衰え」と受け止めるような言動を引き出した。放送終了後にバイデン氏の高齢を懸念する声が報じられた余波を考慮すれば、トランプ氏が僅かに戦略勝ちしたと言えるだろう。両氏とも互いに目を合わせず、それぞれの支持者が喜ぶことだけを主張した。特に、トランプ氏にその傾向が顕著で米国の分断社会を象徴した。今後、トランプ陣営が勢いをどのように広げていくのかが注目される。負の印象が独り歩きした場合、バイデン陣営の失点は小さくない。第2回討論会に向けてイメージの立て直しが必要となる。


*Illustration:© Fabrizio Canneti / shutterstock.com


(2024年7月16日号掲載)