2024年8月11日
共和党のトランプ前大統領に近いシンクタンクがまとめた政府再編構想「プロジェクト2025」が物議を醸している。
「影の共和党綱領」とも呼ばれ、大統領権限の強化と官僚機構の弱体化を提唱。
民主党はトランプ氏が復権して導入すれば独裁色が強まると批判、無党派や共和党穏健派の支持離れを懸念するトランプ氏は距離を
置くのに躍起だ。
▽青写真
エリート官僚が幅を利かせる行政国家を解体し、主権を国民の手に取り戻す。
官僚を解雇し、無駄が多く腐敗した部局や事務所を閉鎖。
教育省は廃止する。
性的指向・性自認 (Sexual Orientation and Gender Identity=SOGI・ソジ) や多様性・公平性・包括性 (Diversity, Equity & Inclusion=DEI) に配慮する用語を規則や法律から削除し、トランスジェンダーの入隊禁止。
国境への軍隊派遣で不法移民の流入を防ぐ――。
保守系シンクタンク、ヘリテージ財団 (Heritage Foundation) が、構想の一環として昨年4月に公表した政策文書は約900ページに及ぶ。
CNN-TVによると、元閣僚を含めて、トランプ政権で働いた少なくとも140人が作成に関与。
トランプ政権が再来した場合に政策指針の青写真になるとみられる。
民主党のハリス副大統領は、再選を断念したバイデン大統領に代わって立候補を表明した7月21日に「トランプ氏と彼の過激なプロジェクト2025を倒す」と早速攻撃した。
各州での遊説でも「トランプ氏と彼の仲間によって書かれた政策集だ」と批判している。
トランプ氏自身は「私は知らない。何の関係もない」と繋がりを否定する。
ヘリテージ財団も7月、プロジェクト2025の責任者が辞任すると明らかにし、沈静化を図った。
だが、「無能な公務員たちを排除する」と繰り返すトランプ氏の主張は、文書に盛り込まれた内容と見事に重なる。
▽身構える日本
文書は、第2次トランプ政権が発足すれば官僚の多くが、トランプ氏に従順な「MAGA (マガ)」運動の支持者と入れ替わることを示唆している。
第1次政権のようにトランプ氏を諌 (いさ) める者がいなければ、政府が混乱し機能不全になる恐れがある。
同盟国の日本も他人事 (ひとごと) ではない。
プロジェクト2025は、中国やロシア、イラン、北朝鮮の脅威を前に「米国の同盟国は自国防衛ではるかに大きな責任を負わなければならない」とし、「負担の分担を米国の防衛戦略の中心に据える」とも明記した。
日本政府関係者は「外交や通商で米国は内向き傾向が進み、様々な局面で日本への注文が増えかねない」と身構える。
日本が十分に負担を共有していると理解させるため、日本政府は米側の関係者への働きかけを強めていると話す。
政治資金監視団体オープン・シークレッツによると、日本政府関連の米国におけるロビー活動の支出額は昨年、約6,633万ドル (約97億2,000万円) に上り、一昨年の約4,350万ドルから52%増えた。
*Picture:© bella1105 / shutterstock.com
(2024年9月1日号掲載)