11/1/2024
スウェーデン・アカデミーは10月10日、2024年のノーベル文学賞を韓国の女性作家、韓江 (ハン・ガン) さん (53) に授与すると発表した。
韓国人の同賞受賞は初めてで、ノーベル賞全体では2000年に平和賞を受賞した金大中 (キム・デジュン=当時大統領) 氏以来2人目。
女性の文学賞受賞は通算18人目で、アジア人女性としては初となる。
授賞理由として「歴史的トラウマに立ち向かい、人間の命のはかなさを露わにした強烈な詩的散文」を挙げた。
ノーベル賞の公式ウェブサイトによると、ハンさんは受賞決定を受け「とても驚いた。
光栄だ」と述べた。
韓国で1987年の民主化後の文壇をリードする「次世代の旗手」。
代表作『菜食主義者』は日本や欧米でも翻訳され、世界的な支持を集めた。
1993年発表の詩を機に文壇デビュー。
1994年に短編小説で韓国の文学賞を受賞し、作家として本格的な活動を始めた。
囁 (ささや) くような詩的文体と、緻密な文章構成が早くから注目を集め、2005年に韓国で最も権威がある李箱 (イサン) 文学賞 (日本の芥川賞に相当) を受賞した。
『菜食主義者』は2016年に英ブッカー国際賞を受賞し、世界にハンさんの名前が知られる機縁になった。
同作は、ある日突然、肉食を絶った妻の変貌ぶりによって、韓国社会の女性に対する抑圧と抵抗を暗示的に描き出したと評価される。
2014年に発表した小説『少年が来る』では、自身が9歳だった1980年5月、故郷の光州 (クァンジュ) で軍が民主化運動を弾圧した「光州事件」を扱った。
革新系の文在寅 (ムン・ジェイン) 前大統領の愛読書でもある。
一方、保守系の朴槿恵 (パク・クネ) 元政権下では、政権に批判的な芸術家として「ブラックリスト」にハンさんの名前が記載された。
『少年が来る』などは邦訳が出され、日本で知名度が高い韓国人作家の一人。
父の韓勝源 (ハン・スンウォン) 氏も李箱文学賞を受賞した著名作家。
ノーベル文学賞の賞金は1,100万クローナ (約1億5,000万円)。
授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。
日本のファンも受賞に喜び、翻訳書完売
ノーベル文学賞に選ばれた韓国の女性作家ハンさん。
日本国内のファンからも称賛や喜びの声が上がり、書店や出版社では対応に追われた。
受賞発表から一夜明けた10月11日午前、紀伊国屋書店新宿本店 (東京) では、約40冊確保していたハンさんの邦訳書がオンライン販売分を含め全て売り切れた。
同店の吉野裕司副店長 (46) は「お隣の韓国の作家で、邦訳書の数も多い。
海外文学の面白さを知る入り口になるとうれしい」と話す。
前夜の発表時にはライブビューイングを開催。
偶然訪れていた翻訳会社勤務、水口ひとみさん (56) は小説『少年が来る』を読んでからのファン。
「ハンさんの故郷の光州に韓国語の勉強をしに行き、物語の舞台も訪れた。
人の痛みを丁寧に描く作家だと思う」と語った。
「韓国文学のノーベル賞受賞を待ちわびていた」と興奮気味なのは、東京・神保町の韓国関連書籍専門店「チェッコリ」のスタッフ金之英さん (37)。
「ハンさんの小説があるからこそ、韓国の『痛ましい歴史』を伝えることができる。
重いテーマを強調するだけでなく、読者への配慮も感じられる表現が魅力」 ハンさんの著書『別れを告げない』などの邦訳書を刊行する白水社 (東京都千代田区) は受賞決定を受け、増刷を即座に決めた。
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過去のノーベル文学賞受賞者 (敬称略、肩書は当時)
1968年 川端康成、1994 大江健三郎、2012 莫言 (ばくげん/中国の作家)、2013 アリス・マンロー (カナダの女性作家)、2014 パトリック・モディアノ(フランスの作家)、2015 スベトラーナ・アレクシエービッチ (ベラルーシの女性作家兼ジャーナリスト)、2016 ボブ・ディラン (米国のシンガー・ソングライター)、2017 カズオ・イシグロ (英国の作家、長崎市生まれ)、2018 オルガ・トカルチュク (ポーランドの女性作家。
2019年に一括発表)、2019 ペーター・ハントケ (オーストリアの作家・劇作家)、2020 ルイーズ・グリュック (米国の女性詩人)、2021 アブドゥルラザク・グルナ (タンザニア出身の作家)、2022 アニー・エルノー (フランスの女性作家)、2023 ヨン・フォッセ (ノルウェーの劇作家)。
(2024年11月16日号掲載)