9/21/2025トランプ大統領は9月20日、外国人技能労働者向けのH-1Bビザ申請に対し、年間10万ドル (約1,480万円) の高額な手数料を課す大統領令に署名した。発効は9月21日からで、新規申請者が対象。米商務長官ハワード・ルトニック氏は「企業はその人材に毎年10万ドル払う価値があるか判断する必要がある」と述べ、大手企業は賛同しているとした。
ホワイトハウスのカロリン・クレア・レビット報道官は大統領令が署名された20日、Xへの投稿で、手数料10万ドルは新規申請者を対象とする初回限りの手数料であり、既存ビザ保持者、ビザ更新希望者には適用されないと説明しており、現在米国外にいる同ビザ保持者の再入国時に10万ドルを請求されることもないという。また、ホワイトハウスの通達によると「国益にかなう」場合は新規申請者でも手数料10万ドルが免除されるケースもあるとしているが、突然にH-1Bビザ申請の制度変更を知らされたビザ保有者や企業の多くは困惑している。
▪️背景と論争
H-1Bビザは高度人材の受け入れに用いられ、年間発給枠は85,000件。これまでの行政手数料は約1,500ドル (約22万円) に過ぎなかったが、新制度では負担が飛躍的に増す。批判派は「米国人労働者の賃金を押し下げる」と主張し、擁護派は「世界の優秀人材を呼び込む手段」と位置付ける。イーロン・マスク氏も支持派に名を連ねる。
トランプ氏は同時に、100万ドル (約1億4,800万円) からの費用で特定移民のビザを迅速化する「ゴールドカード」制度創設も発表した。
▪️影響と反応
今回の措置はアマゾン、タタ、マイクロソフト、メタ、アップル、グーグルなど、多数のH-1B人材を抱える大手企業に大きな影響を与える。アマゾンは社内通達で、米国外にいるH-1B保有社員に「期限前に帰国せよ、できなければ再入国を控えよ」と警告した。
インドは申請全体の71%を占める最大の受益国であり、業界団体ナスコムは「わずか1日の猶予では世界中の企業・専門職・学生に甚大な混乱を招く」と懸念を表明。中国は11.7%で続く。移民弁護士タヒミナ・ワトソン氏は「多くの中小企業やスタートアップが価格的に排除される。人材不足解消の道が断たれる」と強調している。
移民法専門家のホルヘ・ロペス氏も「米国の競争力にブレーキをかける」と警告し、一部企業が拠点を海外移転する可能性に言及した。
▪️トランプ氏の姿勢変遷
H-1B議論はトランプ陣営内でも割れてきた。元主席戦略官スティーブ・バノン氏らは反対派だが、トランプ氏自身は「双方の主張を理解する」と述べていた。選挙戦ではテック業界への支持を求め「大学卒業者にグリーンカードを」と打ち出したこともある。しかし、大統領就任後は申請審査を強化し、不正防止を名目に却下率を2018年度には24%に引き上げた。オバマ政権期の5〜8%、バイデン政権下の2〜4%と比べて異例の高さであり、テック企業の強い反発を招いた経緯がある。
H-1Bビザに年間10万ドルという巨額の新手数料を課す今回の措置は、世界中の人材流動に直撃し、米企業の採用戦略を揺さぶる。支持派は「米人雇用を守る」と歓迎する一方、批判派は「競争力を失い、中小企業が壊滅的打撃を受ける」と危惧しており、移民政策をめぐる論争は一層激化しそうだ。