2024年9月25日
日本人24人を含む約3,000人の命を奪った2001年の米中枢同時テロから23年が経過した。
国際テロ組織アルカイダのメンバーが旅客機4機をハイジャック。
2機が世界貿易センタービルに、1機がワシントン近郊の国防総省に突っ込んだ。
もう1機は乗客乗員が抵抗し、ペンシルベニア州シャンクスビルに墜落した。
その惨劇の記憶は今も生々しく残る。
主犯格とされる被告らは特別軍事法廷で公判前手続き中で、未だに裁かれないまま。
国防総省は一旦は司法取引で合意したが、直後に破棄した。
流転する状況に遺族の心は揺れる。
「テロとの戦い」と称して被告らを拷問した過去が影を落とし、公判に進んだとしても公訴棄却となる可能性も。
先行きには不透明感が漂う。
▽水責め
「死刑の可能性をなくす代わりに、3人は全ての罪を認めることに同意した」。
国防総省は7月末、遺族らへの書簡で、国際テロ組織アルカイダ幹部のハリド・シェイク・モハメド被告 (59) ら3人と司法取引が成立したと説明した。
「被告らは役割や動機に関する遺族の疑問に答えることにも同意した」と付け加えた。
テロで妹を亡くしたテリー・ロックフェラーさん (74) は「ものすごく安堵 (あんど) した」と振り返る。
キューバのグアンタナモ米海軍基地の特別軍事法廷に通い、遅々として進まない公判前手続きを傍聴してきた。
「公判が終わらない限り、全員無罪のままだ」との危機感が強い。
公判前手続きが長引く要因の一つは、米中央情報局 (CIA) がモハメド被告らを水責めなどで拷問したため、その後に連邦捜査局 (FBI) が作成した自白調書の証拠能力が争われているからだ。
ロックフェラーさんは「有罪にするには司法取引しかない」と強調した。
▽賭け
だが、ロイド・オースティン国防長官は8月2日、自ら指名した国防総省の検察チームによる司法取引を破棄すると発表。
「遺族や米国民には正式な公判を見る機会が与えられるべきだ」と語ったが、詳細な理由は明らかにしなかった。
大統領選を挟む中、重要な決断を避けたとの見方もある。
野党の共和党議員らからは「テロリストと取引した」との批判も出ていた。
破棄をめぐる遺族らの反応は割れた。
ロックフェラーさんが所属する家族会は「裏切り行為」だと批判。
一方で、別の遺族団体は歓迎し「モハメド被告らにいかなる慈悲も与えるべきではない」と、飽くまで死刑を追求すべきだと訴えた。
エール大法科大学院で軍法を教えるユージン・フィデル氏は「司法取引で弁護側は死刑を回避でき、検察側は政府の恥ずべき行為を公にしないで済む」と述べ、双方の利益に適 (かな) っていたと指摘。
正式な公判になれば、拷問の事実により公訴棄却や無罪の可能性もあり「政府にとって賭けだ」との見方を示した。
(ニューヨーク共同=稲葉俊之)
(2024年10月16日号掲載)