米国年金給付、電子送金へ一本化 大統領令により9月30日から
6/30/2025社会保障庁 (The Social Security Administration=SSA) は今年、数十年続いた紙の年金小切手サービスを終了し、2025年9月30日から給付を完全電子化する。
トランプ大統領が3月に署名した大統領令「Modernizing Payments To and From America’s Bank Account」により、財務省は全連邦支払いを電子送金へ一本化する。紙媒体を維持する物理インフラと専用スキャナーの運用には2024年だけで6億5,700万ドル (約947億円) を要し、効率化が急務と判断された。
▪️紛失・改竄 (ざん) 防止と行政コスト削減
同令は、政府小切手は電子送金に比べて紛失・盗難・宛先不明・改竄の報告が16倍に上ると指摘。SSAのフランク・ビジニャーノ長官は「SSAを効率性のモデル機関へ刷新する」と強調し、紙チェック廃止で年間数億ドル規模の節約と安全性向上を狙う。
▪️影響を受ける494,000人の高齢受給者
今年6月時点で紙小切手を受け取る受給者は約494,000人。大半が80歳超の高齢者、インターネット環境が乏しい農村部住民、障害を抱える人々など。市場調査によれば、全米世帯の4.2%は銀行口座を持たず、こうした「アンバンクト (unbanked)」層も影響を免れない。
▪️デジタル弱者に潜むリスク
専門家は「給付停止の恐れは低いが、移行遅延で支払いが遅れる可能性があり、年金依存度の高い高齢者の不安が増大する」と警告。高齢単身者はオンライン手続きに不慣れで、財務管理を支援する若年層が近くにいないケースも多い。
▪️救済策と例外規定
銀行口座を持たない受給者向けには政府系プリペイドカード「Direct Express」への切替えが推奨され、極めて限定的ながら紙支払い継続の免除申請も認められる。それでも申請自体がデジタル手続き中心であるため、支援体制の拡充が課題だ。
▪️迫る「2034年問題」
今回の電子化は歳出削減策の一部だが、制度財政の根本的改善には至らない。最新の公的報告では老齢・遺族・障害保険 (OASI+DI) 信託基金の枯渇時期が2034年に前倒しされ、給付は81%に減額される見込みだ。独立した老齢・遺族基金も2033年枯渇予測は変わらず、75年間の精算不足率は課税賃金の3.82%へ拡大した。
▪️議会への圧力と今後の展望
AARP (旧 American Association of Retired Persons) のマイセリア・ミンター=ジョーダンCEOは「約7,000万人の現受給者と1億8,500万人の現役労働者のために議会は制度を守り強化すべきだ」と声明。紙小切手廃止は安全と効率を高める一手だが、高齢・低所得層のデジタル格差是正と、制度の長期的持続性確保という二重の課題が今後の焦点となる。