—— ワイマックスとは何ですか。 World Interoperability for Microwave Access の略で、ブロードバンド無線アクセスの規格を記述するために作られた用語です。さまざまな可能性を秘めたワイマックスには固定式通信と移動体通信があり、どちらも IEEE ( アメリカ電気電子技術者協会 ) や ETSI ( 欧州電気通信標準化機構 ) などの組織によって作り出された業界規格に基づいています。明確に言えば、IEEEの 802.16 規格や、ETSIのHIPERMAN (High Performance Radio Metropolitan Area Network) など、高いスループットのブロードバンド無線アクセス網 「Wireless MAN (Metropoli-tan Area Network)」に準拠しています。これらの規格は都市圏やそれを越えた広域に無線通信を供給し、メタル回線や光通信などの敷設や移動体通信利用が困難な地域においても、オフィスや住宅の建物を結ぶ高速インターネットなどのブロードバンドサービスを提供します。また、携帯電話タイプのアプリケーションに人々が期待する、どこでも接続可能なブロードバンドアクセスを可能にします。 —— スターバックスの接続サービスでも知られる無線LANとの違いは何ですか。 無線LANはワイヤー無しでイーサネットにアクセスできる技術です。本来はオフィス利用のために設計されましたが、そこから大きく発展してきました。無線LANが特定の人々にイーサネットをサポートするのに対し、ワイマックスはより広大な地域と人々を対象に設計されています。無線LANは当初のオフィス利用の枠を越えて、東京、ヨーロッパ、アメリカの各地で利用者が増大し、今日では市域内でアクセスできます。私たちはここに確かなマーケットの需要を見たのです。特定の建物による制限や境界の無い、シンプルで広域なネットワークが必要とされているのです。ワイマックスはそれを提供します。無線LANがオフィスなどで利用されるのに対し、ワイマックスは直径30マイルの広い地域に無線ブロードバンドを供給するのです。 —— それはローカルエリアネットワーク(LAN)とメトロポリタンネットワーク(MAN)の違いですか。 その通りです。しかし、大都市を意味するメトロポリタンの「M」に紛らわされないようにしなければなりません。ワイマックスを利用するために密集した都市圏に住む必要はないからです。ワイマックスは発展した都市に限定されず、低開発地域を含めた世界のあらゆる場所で利用可能です。さらに言えば、DSLや光ファイバーなどの巨大なブロードバンドのインフラが存在しない地域に適しているのです。その地には巨額投資の回収に見合う収入を生み出す顧客ベースが無いということですが、ここにワイマックスのような無線アクセスが大きな意味を持ってくるのです。無線の重要な特徴の一つは機能を迅速に提供できるということです。電話で明日からのサービス開始の依頼を受けても、それが実現可能なのです。一方で、DSLや光ファイバーにおいては基盤となる配線の構築に時間と経費が掛かってしまいます。このように、ワイマックスはサービスの早急な実現をサポートするために開発されました。 —— 州や国の主導でワイヤレス化を推奨するケースがますます増えているようですが、やはりワイマックスのような技術を利用しているのでしょうか。 第一に、ワイマックスはエンドユーザーが使用する接続ではありません。今日では無線LANのような技術が広く普及しています。無線LANは携帯デバイス、ラップトップ、アダプターなどに組み込まれ、エンドユーザーに向けて最先端のネットワークを提供しています。現時点ではワイマックスは設定されていませんが、やがてそうなる予定です。ワイマックスは当初、建物の屋上や街角の無線LANアクセスポイントへの接続、無線LANネットワークと事業者の接続方法として考えられていました。 —— ワイマックスと無線LANのような技術は併存できますか。 もちろんです。新技術が誕生すると「これは何に取って代わるのか」あるいは「どんな利点があるのか」という疑問が出るのは一般的です。ワイマックスは、特に市全体の接続を要する無線LANなどの無線技術と連結することで共存が可能でしょう。と言っても、それは今日の家庭での使用形態と何ら変わりはありません。ブロードバンドケーブル、DSL、無線LANが広く利用される中、固定式ワイマックスはDSLやケーブルのような定められた場所に広域な接続を提供し、移動体ワイマックスが無線LANと同じタイプのデバイスに統合されます。早くも、インテルはハードウェアプラットフォームのブランド「セントリーノ」にワイマックスを搭載すると発表していますが、これは彼らが無線LANを導入したのと同じ方法です。また、どこへでも持ち歩けるモバイルデバイス、ラップトップ、PDA、携帯電話デバイスなどへの導入も行われようとしています。事実、韓国では既にこの技術が商業化されており、携帯電話やスマートフォンにサービスが運用されています。 —— 携帯デバイスにワイマックスを搭載するということは、ブロードバンド接続をどこへでも持ち歩くことが可能ということですか。 その通りです。今日、人々はWi-Fiや携帯電話を通してインターネットやLANに無線アクセスしています。ワイマックスはこれらとは全く異なる利用法をもたらします。それは今の携帯電話とラップトップの違いに似ています。現在、一般人の多くは、自宅やコーヒーショップなどの固定した場所からコンピュータで無線LANのネットワークにアクセスします。セットアップを済ませて、必要な情報を取り出し、全てを片づけて移動します。街を歩きながら、手にしたラップトップでインターネットに接続している姿は見かけません。これは遊動型使用法の一例です。今、我々は、このようにどこへ行っても携帯デバイスでブロードバンドにアクセスできるという完全なる可動性に向かって前進しています。 —— ワイマックスが携帯デバイスに組み込まれると、携帯電話にどのような影響を及ぼしますか。 ワイマックスは携帯電話技術やボイスサービスに取って代わるように意図されているわけではありません。これらは確立されたマーケットが存在していますが、ワイマックスは特にデータ送信の点で共存できます。利用者は自分がどのような技術を使っているかを知る必要はないのですから。ワイマックスは事業者や利用者のサービス範囲を拡大し、より効率的なネットワークを供給しつつ、どこにいても電話通話が可能で、不通や中断がないことを保証します。そして、このネットワークを通して、事業者は高いスループットをサポートしながら、より高レベルで高品質のサービスを提供することができるでしょう。携帯電話の発展動向と需要を見てみると、そこで成長を遂げているのはデータ送信であり、加入者の拡大ではありません。今でも通話の平均時間は増加していますが、3~5年前のように急速に伸びているわけではなく、テキストメッセージやインスタントメッセージ、eメールアクセス、ウェブアクセス、カメラ電話やビデオの人気が急上昇しているのです。問題は、これらがデータ容量を考慮していない携帯電話ネットワークを通して送られるということです。ワイマックスはそれを多少なりとも解決することができます。 —— ワイマックス・フォーラムについて教えて下さい。 ワイマックス・フォーラムは2001年6月に設立されました。その後、2003年4月に短期的展望から、より具体的な事項に焦点を当てて再発足しました。当時、私たちは加盟8社を抱えるのみでしたが、今日では400社までに拡大しました。私たちはこのフォーラムが業界全体の顔となるよう普及に努めています。現在、メンバーの半数はサービスプロバイダーとネットワーク事業者です。この事実は市場の行く先を明確に反映していると言えるでしょう。私たちは技術確立、契約体系、商品化という段階から、サービス、アプリケーション、コンテンツなどの開発や収益性のあるビジネスの創造という過程を経て今日に至っています。 —— ワイマックス・フォーラムはその過程をどのように推進しているのですか。 ワイマックス・フォーラムはWi-Fi Allianceなどの数ある業界団体と類似したコンセプトを持っています。私たちは規格、検査、サービス、市場への売り込みなどを行う無線ブロードバンドに関する唯一の業界組織です。この分野には異なる企業が存在しますが、広範囲に渡る業界全体を取りまとめ、規格を統一させることのできる業界団体が必要になっているのです。それにより、技術の導入を一層早めることになります。メンバーの中には強敵のライバル会社も存在しています。彼らは利益のために、互いの相違を忘れて共通のゴールに向かって動いてきました。その結果、単独の能力限界をはるかに超えた技術開発が可能となったのです。 —— 共通のワイマックス規格は、互換性を保証するワイマックス・フォーラムの認可を受けているのですね。 その通りです。私たちが発行する承認証は認可を証明するものです。私たちのロゴはその製品に互換性があることを保証しています。ワイマックス・フォーラムはこの認可プロセスを確立する目的で存在しています。どのような過程が必要で、規格準拠への条件も文書化し、明確にするのです。例え、共通の技術規格を持っていても、その書類は非常に長くて専門的です。そのため、私たちは認可を受けるために必要な仕様書を概略化したのです。それはいつも同じ品質を保証する料理のレシピと考えることができるでしょう。 —— ワイマックスの可能性は業界大手に少なからず脅威を与えているでしょう。 混乱を招くテクノロジーという指摘だと思いますが、そこにはポジティブな意味とネガティブな意味が含まれています。ワイマックスはポジティブな側面での混乱を招くと考えられます。業界全体に対して、いかに前進するかという挑戦を求め続けているのですから。それは、一般の人々の注目を集めることにもなります。携帯電話タイプの市場を見ると、技術の進歩は次第にスピードを落とし、成熟局面に入っています。人々は3G (第3世代携帯電話)について語り、そして未来の4Gビジョンについて話しますが、それはとても漠然としていて誰も定義づけることができません。ワイマックスはネットワークと業界の動向という両面からこの課題に取り組んでいます。確かに、私たちの存在は伝統的な遠距離通信会社に警戒感を与えることになりましたが、それは彼らの携帯音声技術に対する巨大な投資に起因するものです。常に“逆張り投資家”の視点は存在するもので、私はこれは健康的なことだと思います。会社に相当な収入を生み出す技術があれば、それをできる限り長く保持したいと思うのは自然なことです。その意味でも、ワイマックス技術を所有するグループの中で、特定の会社が支配的な立場にないことはとても重要です。この技術は規格に基づいて公開されており、業界全体を通して多くの新規加盟社に収益をもたらす機会を与えます。特に、ブロードバンドや携帯電話の十分なサービスが受けられない未開発地域の市場においてワイマックスの技術は勝者となり得るもので、それがなぜ優れた投資であるか、私たちは利点を証明することができます。 —— KDDIのワイマックスに対する見解について教えて下さい。 ワイマックスは一夜にして他と取って代わるような技術ではありません。新しいチャンスを提供する技術なのです。携帯電話や3G事業者が直面している課題の一つは収益を生み出すことです。彼らは新しいアプリケーション、新しいサービス、新加入者に対して巨額の投資を行っているので、そこから利益を得なければなりません。より多くのサービスを提供するためには、それに応じた周波数を必要としています。ワイマックスは彼らの移動体ブロードバンド技術を可能にするのです。KDDIを始めとする企業がそれを認識しています。必要な周波数は利用可能となり、多くの地域で実現しようとしています。この状況は日本にも当てはまります。事業者はこの画期的な技術を通して、新しい価値を見出し、広範なサービスで利益を生む方法論を模索しているのです。 —— 今日のワイマックスはどのレベルにありますか。 ワイマックス・フォーラムに早期に参加した関係者らは技術開発、製品開発、設計に尽力してきました。一方で、新メンバーである多くのサービスプロバイダーや事業者の興味はコンテンツにあるようです。これはとても興味深いことです。彼らは消費者向けのアプリケーションや電気デバイス、そしてあらゆるエンターテイメントに関わるコンテンツに注目しています。 基盤が確立した今後の課題は、いかにしてビデオサービスや新しいコンテンツを誕生させるかということです。メンバーには新しいコンテンツプロバイダーから既存のコンテンツプロバイダーまで含まれ、各自がレベルアップできるこの技術を理解し、それを利用したコンテンツの作成を学ぼうとしています。 —— ワイマックス製品とサービスの市場展開は。 既にワイマックス・フォーラムの認可を受けた製品があります。実際、確定したロケーションへ接続する固定式アプリケーション向けに23種類の認可を受けた無線通信が存在します。移動体ワイマックスの認可については2007年初めには開始する予定です。先ほど述べた韓国での市場展開においては移動体ワイマックスも含まれており、移動体ワイマックスの誕生については疑いの余地がありません。韓国は認可前に行動を起こすほどの深い関心を示してWiBroというサービスを誕生させました。これは、規格に沿った設計での認可が受けられる見通しがあるのに、市場がそれを待てなかったということです。このように、ワイマックスの製品やサービスを求める声が市場で聞かれているのです。今後も企業環境の中で、個々のブロードバンドアクセスを提供するワイマックス・フォーラム認可によるシステム展開や、都市レベルでの無線LAN配置のサポートが実現していくことでしょう。そこに収益が生まれます。これが、今日サービスを展開する企業の着目点です。ワイマックスは既に存在していますが、現時点ではスポットライトを浴びていないため、人々はそのサービスにまだ気づいていません。世間に認識される製品は後で登場します。なぜなら、最初にネットワークが必要だからです。移動体ワイマックスが使用可能なラップトップや携帯デバイスを購入して使い始めた時に、人々は自動的にサービスメンバーとなるのです。 私たちはこうした時代が到来することを確信しています。今日、デバイス製造業者はシステムにワイマックスを埋め込むことで高レベルの統合へ飛躍しようとしています。移動体ワイマックスのもう一つの特徴は、携帯電話サービスと類似した周波数帯を操作することです。移動体ワイマックスの基地局タイプと距離範囲は携帯電話のそれと似ており、企業は新しい敷地の獲得や基地局の増設を必要とせず、 それ以上のものを手にすることができるのです。 —— それが事業者とユーザーのワイマックス移動体デバイスへの移行を容易にするのですね。 その通りです。アプリケーションに関して言えば、例えば私がスマートフォンもしくはPDAを持っており、スポーツ、天気、交通渋滞などのビデオ情報が欲しい場合は、その最新情報を送ってくれるようリクエストすることが可能になります。映像はそのデバイスにリアルタイムで流れるでしょう。これはボイスネットワークには適さないかもしれませんが、ネットワーク事業者は要求に応じて、インターネット、ワイマックス、音声などの最適なネットワークの経路を賢く選ぶことができるのです。消費者は機能増加と多様モードをサポートする携帯デバイスを手にすることで、その変化と斬新さを感じるでしょう。今日においても、携帯電話サービスは異なる周波数バンドをサポートし、国内のサービスプロバイダー間、さらに別の帯域での国際的なローミングが可能です。同じような互換性はワイマックスにも起こるでしょう。それがワイマックスが称賛されるべき大きなポイントにもなります。ユーザーの形態が変化しないように、互いにコミュニケーションを図ることが必要なのです。 —— ワイマックスは携帯電話や携帯デバイスの使用法に変化をもたらしますか。 確実にそう言えるでしょう。コンセプトに全く新しい概念を持ち込みます。韓国における展開については既に述べました。また、似たような仕様にSprintとNextelのツーウェイ無線システムがあります。これは並行した無線システムでリアルタイムのコミュニケーションが取ることができます。また、高められたスループットにより、同時にテキスト、画像、映像をシェアすることもできるのです。例えば、私が「サンディエゴの今日の天気は素晴らしい」と言葉にしたり、メッセージを送る間に、リアルタイムで携帯デバイスから天候を映したビデオを送ることも可能なのです。このようなネットワークの仕様やトラフィック(通信回路の中を行き交うデータの交通量)は今日の事情とは全く異なります。ダイナミックなマルチメディアの情報を作り出しているわけですから。その時代がいつ到来するのか予測することはできませんが、これはボイスネットワークの延長線上で実現できるものでもありません。インターネットやその能力を備えた技術を利用することで達成できるものであり、ワイマックスはそれに値します。そこには必ず、最初に発せられる「より速いコンピュータがなぜ必要なのか」「どれほど速ければ十分なのか」といった感情的な反応がありますが、これは極めて自然な進歩なのです。今日、ワイマックスの移動体無線ブロードバンドシステムを最大限に利用した新しいアプリケーションやコンテンツの開発に大きな関心が集まっているのです。 (2006年11月16日号に掲載) |