Friday, 29 March 2024

ゆうゆうインタビュー アレン・P・ジャド

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( *注: このインタビューは、サンヨー・ライトシップ (Sanyo が宣伝用に運航している飛行船) でサンディエゴ上空を飛行中に行われました)

お早うございます。 サンヨー・ライトシップにご搭乗頂きまして、有り難うございます。


お招き有り難うございます。今日の予定を教えて下さい。

ブラウン・フィールドから往復で約1時間の飛行になる予定です。現在、フリーウェイ905号線に沿って、地上約1,000フィート (約300メートル) の高さを飛行しています。間もなく、インペリアルビーチ上空を通過します。そこで管制塔は私たちに周波数の変更を許可することになります。そこからは海で戯れているアザラシ、イルカ、海鳥の姿を目にすることができます。途中で、サーフィンに興じている人たちの様子も見られるでしょう。その後、コロナド砂州に沿って進み、帰りは海塩を製造している塩類平原を渡ってブラウン・フィールドまで戻ってきます。


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High above the Toronto Skydome for a baseball game and capturing Chicago’s cityscape.
——今乗っているサンヨー・ライトシップについて説明して下さい。

先ず、飛行船についての入門講座から始めましょう。飛行船はプカプカと浮遊して、海に浮かぶ船に似ていることが分かると思います。この飛行船を巨大なバースデイ用の風船と考えて下さい。これらの飛行船は他の飛行機と違って、堅固な枠組みを内部に持っていません。ヘリウムで膨らませるまではパンケーキのようにぺちゃんこです。膨らみながらヘリウムが空気を横に押しやるのですが、空気の方が重く、また空気も他の物体と同様に重さがあるので地面に寄せ付けられるのです。この風船の中のヘリウムは空気よりも軽いため、水中の気泡のように上昇しようとします。この飛行船を膨らませると8,000パウンドの空気を移動させるので、その空気によって生じる8,000パウンド、つまり約4トンにも及ぶ上昇浮力が生じます。その結果、これが反重力装置となり、大気中で浮かぶことができるのです。


——
1台の飛行船を膨らませるのに、実際に要する時間は。

57_1.jpg ハンガーに懸けて膨らませるのですが、完了するのに平均で10日掛かります。茶色のシリンダーが見えますよね。一つ一つにヘリウムが入っているのですが、全長165フィート (約50メートル)、高さ55フィート (約17メートル)、幅46フィート (約14メートル) の飛行船を完全に膨らませるには約500ものシリンダーが必要です。


—— 現在の飛行速度は。

巡航用のスピード、つまり平均的な巡航飛行の速度にセットしてあり、時速約35マイルです。最高速度はおよそ時速55マイル。ロサンゼルスへ行くとしたら、大体6時間の飛行になります。覚えておいて頂きたいのは、飛行船だけでなく、地上整備員も遅れずにそこに待機していなければならないことです。ここで解体した停泊場を新たに組み立てるためです。燃料の供給や組み立ても含めて、彼らの平均速度も時速約35マイルです。飛行の際に、私は2つ目の無線で地上整備員と連絡を取り続けます。でも、先に行き過ぎて彼らとコンタクトを失った場合は空中ディスプレイを利用しながら少し待ちます。『ウサギとカメ』の話を覚えていますか。私たちがカメで地上整備員がウサギなんです。


——高度が上昇するにつれて、多少浮き沈みがあることに気付きましたが、その理由は。

このような飛行機は他に類を見ません。空気より軽い… だから、極端に風に弱いのです。今、何が起こっているかというと、不意に顔を出した太陽が地面を暖めていて、それが結果として接している空気の温度を上げています。その空気は周りの空気より軽くなり、さらに冷えた空気が入り込んで暖かい空気を押しやります。その結果、暖かい空気の泡が生じて大気に上昇するのです。実際、午後3時になると太陽は大気の一部を極端に熱くしますが、その時間に乗船させることはありません。通常、乗客を伴う飛行は午前または午後の遅い時間に行われます。今は海に向かっていますが、そこに行く頃には飛行がスムーズになるでしょう。地面が空気を暖める一方、海はそのような作用をしません。ガスレンジの火を止めるようなものです。


—— 私たちは今、水中のコルクのように浮かんでいるのですか。

実際、今の私たちは水族館の魚以上の何者でもありません。魚が泳ぎ回っているのを見たことがありますか。彼らは上へ下へと泳ぎますが、スピードを落としもしないし、速めることもしません。一定の速度を保ち、行きたい所へ自由自在に向かうのです。飛行船も同じです。速度はむしろ一定の状態です。私たちは空気の「海」の底にいるようなものです。気泡の中で単にプカプカ浮いているだけなのです。じきに海上を飛行しますが、それこそ順風満帆になるでしょう。


—— 飛行できる高度に制限がありますか。

都市部の上空では建物から1,000フィート離れて飛行しなければなりません。でも、一旦カントリーサイドや海上に出れば、下降したり、海にロープを下ろすことさえも可能なのです。そこでは、人々や物体から500フィート (約150メートル) 遠ざかってさえいればよいのです。この飛行船は山脈を越えるために10,000フィート (約3,000メートル) の高度まで飛ぶことができます。でも、今日は気圧高度の3,500フィート (1,067メートル) より上には行きません。

これから桟橋の上空をやや左に曲がります。イルカなどの生き物が海中で戯れているのが見えますか。


—— 「blimp」「zeppelin」「airship」という名の飛行船を知っていますが、これが「lightship (灯台船)」と呼ばれる理由は。

空気より軽いから…という理由ではありません。夜にイルミネーションが光るからです。気嚢 (きのう) の中には飛行船をライトアップする1,000ワットのライトが2個入っています。サンヨーのロゴは昼間は4マイル離れた所から見ることができます。夜もライトのお陰で約2マイル先から見えます。 多くの人々はこの飛行船を見て、中に人が乗っているとは思いもしないのですが、実は9人まで乗船することが可能です。
UFOと間違われることもあるのです!


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Sanyo and the Lightship Group work with “Believe in Tomorrow” making kids dreams come true in every city they visit.
—— サンディエゴの至る所でこの飛行船を見かけますが、サンヨー・ライトシップの主要目的は。

主に広告塔です。特に、この飛行船はサンヨーの親善大使として、大西洋岸から太平洋岸、北から南、東から西へと全米を隈なく旅します。今年末までには東はトロント、北はバンクーバーに及ぶ66箇所に停泊する予定です。サンヨーは飛行船をリースしています。ライトシップグループが他の飛行船も所有して運航しており、サンヨーのような企業と提携することによって、私たちは財政的に運営していけるのです。森林管理、警察、運輸省などの公共事業のために仕事をするだけでは飛行船運営は資金的に不十分なのです。広告主と提携する理由がそこにあります。この船のクルーをご覧になりましたよね。16人のうちの10人だけですが、私たちが行く先々で彼らはサポートのために付いてきます。そういう費用が全て必要になるのです。サンヨーのオフィスは飛行船が停泊するブラウン・フィールドから近い所にあるので助かります。乗客を連れての遊覧飛行を終えると、私たちは残った時間で空中ディスプレイをしてその日を終えます。誰もが飛行船を見ることが好きなのですが、人が乗っていることに気が付いて皆が驚きます。

私はよく祖母に「低く遅く飛ぶのはおよしなさい」と言われていたものです。今、海岸から150フィートの高度です。最低の高度を飛び続けたので、今度は補助気嚢から完全に空気を抜いて気圧高度の3,500フィートまで上昇します。


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Alan capturing a self-portrait in the Lightship’s gondola.
——それを体感してます。高度を上げるにつれて耳に異変が生じています。よく聞こえません。

海面における全大気の重量で圧迫されているからです。さらに、周りの全ての空気にのし掛かり、可能な限り自然に圧縮していきます。大気中で高度を上げるにつれて、私たちは圧縮された空気より上へ向かって行きます。すると、空気に掛かる重量が少なくなって広がるのです。耳の中に溜まっている空気も鼓膜を伸ばしながら広がっていきます。そして最終的には、空気を喉に吹き込みながら耳管を開き、そこへ入り込んでいくわけです。


——毎日のことなので、船長は体が慣れているのでしょうか。

そうです。空気の通り道は非常に小さな動きで自動的に開閉します。高度を下げると耳の中の空気は収縮します。耳はもう一度膨らむ必要性が出てきます。海上の霧の層を越えると、空気がいかに澄み切って美しいかに気付くはずです。


——飛行に興味を持つようになった理由は。

そうですね、子供は誰でもピーター・パンになりたいものですよね。それが理由の一つ。もう一つの理由は父が41年間 TWA のパイロットだったということ。父は、チャールズ・リンドバーグの後に、自動操縦装置を持たない単発小型機で大西洋の単独飛行を果たした最初の人でした。ですから、私は父の冒険精神を幾分か受け継いでいるのだと思います。16歳の時に飛行を始めたのですが、レッスンを受けるために自転車で空港まで通っていました。17歳の時にニュージャージー州でパイロットのライセンスを取得し、翌年に運転免許を取りました。結構、自分ではイケてると思いました。暫くの間、私は会社に所属しないパイロットでしたが、フロリダの海洋学校に籍を置きながら、沖合いの地震関係の仕事を得て海上で働いていました。その仕事を3、4年間続けて、最終的にはオーストラリアへ向かいました。それは、私が飛行インストラクターと商用パイロットとして歩み出した約21年前のことです。


——飛行船に興味を持った経緯は。

3、4年間に亙って飛行機の操縦を教えた後の話なのですが、オーストラリアのパースで開催されたヨットレースのアメリカズカップを担当するために1機の飛行船がバンクスタウンに到着したのです。願ってもないことでしたが、偶然にもその日は私の誕生日だったことから乗せてもらえたのです! その時でした。飛行船の梯子 (はしご) を登った瞬間、私は覚醒させられたのです。自分が何をしたいのかを自覚し、今まで続けてきたことの意味が明確になったのです。海洋学、飛行経験などの全てがこの飛行機にフィットしたのです。私は毎日ピーター・パンになれると思いました。


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Crew members in front of their mobile command center at San Diego’s Brown Field.
——飛行船が他種類の航空機と比較して異なる点は。

飛行船は浮力船舶で、空気より重い飛行機とは比較すべくもありません。エンジンを切っても浮遊しています。他の飛行機は全て墜落してしまいます。ヘリコプターは飛行船と同じ機能を多少有していますが、騒音がひどく、もっと振動があります。一定の時間、カメラのレンズを開いておきたい場合、ヘリコプターからブレの無い写真を撮ることはできませんが、この飛行船では可能です。ですから、飛行船はシャッターを押す際に非常に安定した土台を必要とするパノラマ写真の撮影に最適です。飛行機ではこのように低速で飛ぶことができません。実際、この速度なら何でも観察することができます。飛行機から眺めると全ての物が景色になってしまい、一つ一つを凝視する時間がありません。車でフリーウェイを走る場合もそうですが、全て通り過ぎていく速度が速すぎるのです。ヘリコプターの騒音に邪魔されたり、煩わしすぎるような場合、獲物を数えたり、異なる種類の動物の数を追跡・記録するために飛行船が使用されます。さらに、飛行機やヘリコプターと比べて、飛行船は非常に費用効率が良いのです。例えば、この飛行船が2週間で使用する燃料は、ボーイング 747型機が滑走路を徐行する際に使う量より少ないのです。


——サンヨー・ライトシップが担当する特別イベントを幾つか教えて下さい。

これまでに様々なイベントを担当してきました。PGAトーナメント、NFLや大学フットボール、MLB、ドラッグレースなどです。飛行船は素晴らしい展望台になるので、今までに諸分野の科学者、クジラ見物アトラクション関係者、さらに米海軍特殊部隊と一緒に仕事をしました。数年前、5機の飛行船がサンディエゴで第32回スーパーボウルを報道したのですが、サンヨー・ライトシップはその中の1機でした。当日、スミソニアン誌が全5機をスーパーボウル会場の上空で1枚の写真に撮影したがっていることを知りました。でも、どうすれば同じ写真に全てを入れることができるのか。そう、ヘリコプターに乗ってフォーメーションを形成しながら飛行し、全機を写真に収めるようにするのです。問題は、キックオフの直後に登場する予定になっていたカメラマンが現れず、ハーフタイム終了後にようやく姿を見せたことでした。結局、全く違った形での撮影になりましたが、結果的にスミソニアン誌の表紙を飾ることができました。

この飛行船でテレビネットワークやケーブルのスポーツイベントを報道する際には、ゴンドラの外にカメラを搭載し、カメラマンも乗せます。ゴルフの報道では2,000フィート (約600メートル) の上空からゴルフボールを追うことができます。計器板にはレコーダーとリモコンが付いた12インチのカラーモニターがあります。小型の鏡でカメラの方向をチェックできるので、最良の写真を撮るための位置に飛行船を動かすことができます。私がサンヨー・ライトシップを操縦する上で、とても気に入っている仕事の一つはドラッグレースです。私たちは数多くのドラッグレースを報道しています。

NHRAやESPN 2は飛行船から報道するために私たちのカメラを使用します。ドラッグレース用の車は時速330マイル。4.5秒で4分の1マイルを走ります。飛行船では43秒かかる距離です。飛行船はせいぜい時速43マイル程度しか出せません。


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Alan in a rare moment on the ground, alongside former crew member Steve Tomlin and current Crew Chief, Cesar Mendez
——イベントに加えて、親善という要素も使命にあると思うのですが。

そうですね。行く先々で私たちは「Believe in Tomorrow (ビリーブ・イン・トゥモロー)」という名の特別キャンペーンに参加しています。これは生死に関わる病気に苦しむ子供をサポートするグループです。行く先々の都市で、そのような子供たちと家族に乗船してもらう特別な日を設けています。それは私たちにとってハイライトであり、大いに意気に感じるイベントでもあります。私は1人の幼い女の子のことを決して忘れません。その子がバンから降りてきた時、まるで私はお人形さんを見ているようでした。彼女は7歳で、背丈は1フィート半。飛行船に案内すると、彼女は立ち上がり、飛行船へ向かって歩き出したのです。彼女は実に素晴らしい子供で、とにかく美しく、信じられないくらいスピリットに満ち溢れていました。他に乗せた子供たち… 退院したばかりの男の子を覚えています。その子が飛行船に乗った時、私は「君が指揮官だよ」と告げました。彼の指示に従ってあちらこちらを飛び回ることになりましたが、非常に楽しい時間を過ごすことができました。


——そんな子供たちはライトシップより明るく輝くのでしょうね。

親御さんたちも明るく輝いています。親は、子供たちが楽しんでいるのを見ることで幸せになれるのです。子供たちの笑顔を見て、親御さんたちは抱き合っていました。苦しみに耐える日々を送っている子供たちが楽しんでいる様子を目の当たりにして、涙を流す親御さんの気持が分かるでしょう。微力ながらも人の助けになるというのは素晴らしい感覚です。子供たちにとって、短い時間であろうとも、全ての悩みを忘れて普通の子供になれる機会なのです。それは親御さんにとっても同じこと。私にとっては素晴らしい仕事です。


——空を飛んでいる時の思いとは。

荘厳で、非常にポジティブという感じです。自分はここに存在しているという、私には遊びの時間です。地上に戻ると、日常の仕事に再び取り掛かります。飛行中は本当に素晴らしいの一言に尽きます。大地と海洋と大空の接点にいることがこの上なく好きなのです。私たちが飛行する全米の各所にも美しい景観が数多く存在しますが、ここでの接点は格別です。まさに、この空中と海の上での爽快感こそが最高なのです。



アレン・P・ジャド ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1952年スイスのジュネーブで TWA 機長だったウィリアム・F・ジャドとコレット・シリオンの間に生まれる。16歳で飛行機の操縦を学び、ニュージャージー州運転免許取得の前年、17歳で個 人用飛行機操縦のライセンスを取得。バーミューダで船上またはウォーターフロントで暮らしながら海洋について学び、フロリダ在住中に海洋学の学位を取得。 オーストラリアへ移住後、飛行インストラクターとして働き、商用パイロットのライセンスを取得。21年ほど前にオーストラリアで初めて飛行船に乗り、将来 は飛行船を操縦することを決心する。現在、ライトシップグループの飛行船であるサンヨー・ライトシップの主任パイロット。サンヨー・ライトシップは CNN、HBO、「ジェイ・レノ・ショー」、テクTV、ディスカバリー・チャンネルに登場。また、Parade や Maxim などの雑誌、ウォールストリート・ジャーナル紙やニューヨーク・タイムズ紙などの新聞に特集され、Smithsonian 誌の表紙も飾る。


(2005年2月1日号に掲載)