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—— 相撲に興味を抱いた理由は。 日本で暮らしていた時のことです。当時、市川 (千葉県) に住んでいた私は長時間かけて電車通勤をしていました。私は仕事以外では特別なこともせず、あまり社交的でもありませんでした。日本での滞在が終りに近づいてきた頃、ここでの思い出を残すために何かをしようと考えるようになりました。そこで、私は 『東京ジャーナル』 誌を開いて、東京周辺で面白いことを捜し始めたのです。何度か1日ハイキングを行い、その後で相撲の広告を見つけました。両国国技館は地理的にもそう遠くはないので、私は観戦に行くことにしました。当日、何も知らない私は 「開始時間:午前9時~午後6時」 とあったので、午前9時に行って、チケットを買って中に入りました。ところが、9時半から3時まで、幕下の力士たちの取組を観戦する観客はほとんど居ません。私は独りで土俵から遠く離れた席に座り、同じことを何度も繰り返す力士の取組を数時間近く見つめていました。自分でも私は何をしてるのだろうと思うほどでした。漸く人々が入り始め、メインの取組が始まりました。これが、私の最初の相撲体験です。私は空手や柔道などの格闘技を勉強し、日本文化にも興味を抱いていましたが、相撲に関しては特に気に留めていませんでした。そして、初めて相撲を観たこの日、あれなら私も出来るだろうと思ったものです。未来に待ち構えていたものを予感していたのでしょうか。 ——カリフォルニア相撲協会と日本の相撲では大きな違いがありますか。 ![]() が、相撲に対する文化的な考えは違います。日本では相撲はただのスポーツではなく、歴史的伝統を含めた深い意味を持ちます。ところが、日本の外では相撲は伝統よりもスポーツなのです。日本のプロ力士は毎日律された生活を送り、人生の全てを相撲に捧げますが、日本以外では相撲は週末に挑戦するような趣味であり、アクティビティです。ほんの一握りの人たちだけが本物のプロ力士になって、規律の厳しい世界で生きたいと思っています。しかし、様々な障害を乗り越えられず、ほとんどの人はその機会に恵まれません。 —— 相撲に対する多くの誤解を克服する必要性は。 ![]() Akebono squares off against US Sumo Open champion Barnabas Toth. Photo by Chieko Hayashi.
優れた力士になるためには、迅速さ、強靱さ、柔軟性が必要です。千代の富士のような何人かのトップ力士は、50mや100mの短距離走を本物のスプリンターを負かすくらいに速く走ることが出来ますし、測定不可能なほどの強靱さも兼ね備えています。勿論、彼らは飛び抜けた柔軟性も備えていますし、全ての力士は完全な開脚が出来ます。体操選手だけが相撲の強靱さと柔軟性を合わせ持っているのです。相撲に必要な3つのコンビネーションは同調することが難しいのです。 —— カリフォルニア相撲協会が発足した経緯は。 日本からアメリカへ戻ってきた後、私は相撲に対して深く興味を持ち始めました。帰国後、ロスアンジェルスで教師として働き始めた私はダウンタウンで開催される 「ジャパン・エキスポ」 のチケットを生徒からもらい、昔を懐かしむべく、訪日経験のある友人を誘って出掛けたのです。そこでは、相撲のデモンストレーションも行われていました。私たちは観戦するうちに次第に熱中し、会場で挑戦者を募り始めた時、私が逞しい体格をした友達に強く促すと、彼が意を決して 「よし、お前もやるならオレもやる!」 と —。そして、私たちは相撲に初めて挑戦し、すっかり気に入ってしまったのです。これが機縁となって、私たちは何人かの友人を誘って小さな相撲クラブを結成しました。効果的な運動でしかも“実用的”という側面から、多くの人々が相撲に傾倒していきました。UCLAで始まった私たちの小団体は、1998年頃からUCLAのレクリエーション・プログラムのクラスを提供するようになりました。 ——小団体から国際的トーナメント 「US相撲オープン」 を主催するまでに発展した過程は。 ![]() Female sumo dig in at the US Sumo Open. Photo by Chieko Hayashi
—— 「US相撲オープン」 では何人かの有名力士を登場させたそうですが、その時の様子は。 とても素晴らしい出来事でした。私たちは幸運なことに相撲界の伝説とも言える元大関・小錦関と元横綱・曙関を迎えることが出来たのです。スポーツを愛する2人は「US 相撲オープン」 のプロモーション活動に快く同意してくれました。私はどちらか一方が何らかの理由で来れない場合もあるだろうと思っていました。特に、メディアに対してスケジュールや資料を提供した後では、それは悲惨な事態を招くことになってしまいます。ところが、全てが予定通りに進んだのです。在日時代は個性的に振る舞えなかったようですが、両力士は思いやりのある社交的な人柄でした。日本では彼らの言動が全て監視されているので、ここアメリカでは気楽だったと思います。小錦関と一緒に過ごした後で、私は彼が日本相撲協会の厳格な伝統の環境には合わなかっただろうと推察したものです。一方、曙関はインタビューで相撲の発展に貢献するため、親方として留まると述べていました。彼は若い貴乃花関らと力を合わせて協会の内部から多くの仕事が出来ると思っていたのでしょう。でも、現在は考えが変わったようですね。(昨年、曙は格闘技界への転向を表明) —— 「US相撲オープン」 の歴史の中で特筆すべき思い出はありますか。 ![]() Akebono towers over Hawaiian amateur champion, Kena Heffernan, as referee, two-time amateur world champion, Svetoslav Binev looks on.Photo by Chieko Hayashi.
—— 「US相撲オープン」 の準備以外に CSAが行っている活動は。 ![]() —— 初めて相撲に挑戦する場合、1日目には何をするのでしょう。 私たちのコーチ、スヴェトスラヴの指導法を説明します。先ず、まわしを着けることから始まります。そして、他の格闘技やスポーツと同様に全員が20~30分程度の基本的なストレッチを行います。これらの準備は正しい姿勢を保持し、ケガを回避するために必要です。そして、フットワークやエクササイズを行い、20~30mの短距離走やジャンプ運動に移ります。四股はこの後で踏むこともありますし、ストレッチに含まれる場合もあります。第一に、立ち合い前のしゃがんだ姿勢を皆ができるようになってほしいと願っています。その後、対戦前の両手を叩いて腕を広げる一連の動きを練習することもあります。私たちは日本で教えている80種類の全技ではなく、基本的な技術だけを習得します。素早い腕の押しと振り、低く重心を保つこと、脇を締める練習などです。相撲は誰もが何かを学び取れるスポーツです。基本的に入りやすいですし、さらに学びたい人には深く豊かな世界が待ち受けています。カリフォルニア相撲協会ではレベルと体型を問わず、いつも誰もが相撲を楽しんでいます。 (2004年1月16日号に掲載) |