2024年3月1日
国際平和や協調の役割を期待される国連が、開始から2年を迎えたロシアのウクライナ侵攻に解決策を示せないままだ。
大国の米ロの対立が背景にあり、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突解決にも存在感を示せていない。
国連のアントニオ・グテレス事務総長は「時代遅れの組織」と限界を吐露し、改革を訴える。
▽無力感
「これほど大規模な悲しみを目にしても自分には止める力が無い」。
2月8日の記者会見でグテレス氏は、ウクライナやガザでの戦闘終結に向けた役割を国連が果たせていない状況に悔しさを
滲 (にじ) ませた。
記者からは国連への信頼が失われているという指摘まで上がった。
「機能不全に陥っており、改革が必要だ」。
グテレス氏は半ば開き直るように訴えた。
第二次大戦を防げなかった反省から、国連は国際平和と安全維持を目的に1945年に設立された。
加盟全193か国が参加する総会の勧告に強制力はない。
事実上の最高意思決定機関は戦勝国の米国、英国、フランス、ロシア、中国の5常任理事国と、任期2年の選挙で選ばれる10非常任理事国から構成される安全保障理事会だ。
安保理の決定には全ての加盟国が従わなければならない。
安保理では、1国でも反対すると決議案が否決される「拒否権」を持つ常任理事国が大きな影響力を持つ。
ウクライナ侵攻後、安保理は100回以上の関連会合を開催してきたが、非難決議すらロシアの拒否権で採択できていない。
ガザ衝突では、米国がイスラエルを擁護。
拒否権を手に、ウクライナ侵攻では米国がロシアを、ガザ衝突ではロシアが米国をそれぞれ糾弾し、非難の応酬が続く。
▽切り札
グテレス氏だけでなく、日本やアフリカ諸国など、各国から安保理改革や総会の影響力拡大を求める声は上がっている。
しかし、国連憲章の改正には、常任理事国を含む加盟国の3分の2の批准が必要で、実現の見通しは立たない。
「改革派」が切り札と期待するのは今年9月に国連本部で開催する「未来サミット」だ。
国連設立75周年の2020年から4年がかりで計画されている、世界の将来を左右する安全保障や地球規模の課題などを話し合うイベント。
2045年の設立100周年に向けた行動指針「未来のための協定」の採択を目指す。
このサミットは、ウェルビーイングを中心として「BeyondGDP」をキーワードに、経済の新しい枠組みであるWell-being Goals (WBGs) に焦点を当てることが特徴となっている。
協定作成に関わる外交筋は「安保理などの改革の交渉開始を具体的に協定に盛り込み、常任理事国も改革へ向き合わざるを得ない状況に追い込みたい」と期待を込めた。
* * * * *
▪︎ 国連未来サミット (Summit of the Future): 今年9月に開催される国連のイベント。2045年の国連100周年に向けて世界の重大課題とSDGsの次のステップについて協議する。このサミット経済の新しい枠組みである Well-being Goals (WBGs) に焦点を当てているのが特徴。2020年の国連75周年記念宣言と、それに基づく2021年の「私たちの共通のアジェンダ」報告書により提唱された。
*Picture: © lev radin / shutterstock.com
(2024年3月16日号掲載)