2024年1月1日
米国民の間で、堅調な景気への実感が広がっていない。
今年11月の大統領選で再選を目指す民主党の バイデン大統領 (81) は、統計の数字を示しながら
経済回復をアピールするが、生活苦に喘 (あえ) ぐ市民は「ウソだ」と冷淡な反応を示す。
楽観的な展望を語る共和党のトランプ前大統領 (77) が返り咲くことへの待望論も根強い。
▽再三の訪問
「私はマイノリティーのビジネスを最優先にする」。
年末の12月20日、激戦が予想される中西部ウィスコンシン州の最大都市ミルウォーキーの黒人商工会議所。
人種差別的な言動が目立つトランプ氏との違いを熱弁するバイデン氏に、百数十人の聴衆が拍手を送った。
傍 (かたわ) らには中間層重視の経済政策「バイデノミクス (Bidenomics)」の看板。
物価上昇率は新型コロナウイルス禍後のピークの9%台から3%台まで縮小し、失業率も低水準が続いている。
バイデン氏の同州訪問は今年3回目。
実績を訴え、支持層である黒人などの票固めを狙う。
「前向きな変化の兆しが出てきた」。
黒人で不動産業を営む30歳の男性は人種格差の是正を掲げ、黒人経営の小規模事業者向けの融資を推進するバイデン氏の姿勢を歓迎する。
▽日々凌 (しの) げず
ただ、ラストベルト (Rust Belt=錆びた工業地帯) の一角を占め、中南米系を除く白人が約8割を占めるウィスコンシン州の有権者に、バイデン氏の主張を額面通りに受け取る声は少ない。
「全部でたらめだ。何もかもが悪化している」。
73歳になる元製鉄工場員の白人は憤る。
額に汗して長年働いたが、物価高騰の煽 (あお) りで毎月の年金はすぐ生活費に消える。
中南米からの不法移民が自身の生活を圧迫している気もしてならない。
経済・外交両面で「米国第一」を唱え、共和党候補指名争いを独走するトランプ氏に票を投じると言い切った。
▽決定打
ウィスコンシン州は民主党と共和党の勢力が拮抗 (きっこう) するスイングステート (swing state=揺れる州) と呼ばれ、2016年にはトランプ氏が民主党候補のクリントン元国務長官に0.77ポイント差で辛勝。
2020年はバイデン氏がトランプ氏に0.63ポイント差で競り勝った。
バイデン氏にとっては死守したい土地だ。
政治サイト、リアル・クリア・ポリティクス (RealClearPolitics=RCP) の調査によると、トランプ氏とバイデン氏の直接対決になった場合、同州での平均支持率は45.8%で並んだ。
共和党は今年7月にミルウォーキーで党大会を開く。
票の掘り起こしが進む可能性もある。
「社会正義や世界平和も大事だけれど、まずは自分のことだ」。
無党派で今回はトランプ氏に靡 (なび) いている自動車修理工の35歳の白人は、暮らしに直結する景気動向が投票の決定打だと語った。
*写真は、ラストベルトの一部ペンシルベニア州で開催されたアメリカ労働総同盟・産業別組合会議 (AFL-CIO) の「トライステート・レイバー・デー・パレード (Tri-State Labor Day Parade)」でスピーチするバイデン大統領 (2023年9月4日=フィラデルフィア)
*Picture:© OoogImages / shutterstock.com
(2024年1月16日号掲載)