Saturday, 22 February 2025

紛争、格差・・・課題山積の2024年大統領選 テクノロジー進化、求められる情報見極める力

2024年1月15日

大統領選まで約300日

結果は紛争や格差など課題が山積する国際社会に大きな影響を与えるため、再選を目指す民主党現職のバイデン大統領と共和党候補指名争いで優位に立つトランプ前大統領の一挙一動が耳目を集める。

論壇各誌では米国の現状を分析する論考が目についた。


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九州大名誉教授の菅英輝 (かん・ひでき) は「『ふたつの戦争』と米国の世界戦略」 (『世界』
2024年1月号) で、ロシアのウクライナ侵攻 (2.24戦争) と、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配
するイスラム組織ハマスの、イスラエルに対する奇襲攻撃 (10.7戦争) を「ふたつの戦争」と位置
づけた。


2.24戦争では対ロシア制裁を、10.7戦争ではイスラエル支持を表明している米国

菅はこれに米中対立も加えて「三正面」という表現を用い、「米国の資源には限りがある」「三正面に対処する能力があるか否かが問われる
事態
」とする。


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バイデン政権下では日本への「さらなる役割分担要求が強まる」一方、大統領選でトランプ氏が再選された場合「米国第一主義」の復活で日米同盟などを揺るがすディール外交が展開され、日本は「『見捨てられ』の危険にも対処しなければならない」とし、日本が取るべき姿勢を問う。


『表現者クライテリオン』 (2024年1月号) の特集「政治と宗教を問う」ではトランプ前大統領を支持する白人プロテスタント信者である福音派について、関西大客員教授の会田弘継 (あいだ・ひろつぐ) が論考「福音派はなぜ政治を動かせるのか」を寄せて歴史を辿 (たど) り、その理由を分析。


「『クリスチャンナショナリズム (Christian Nationalism)』の名を付され、主要メディアから厳しい非難を浴びている」が、ハーバード大教授 (国際政治学) のサミュエルハンティントンらの言葉を用いながら「現在起きている福音派の右派的動きの背後から、革命的進歩が生み出されないとは言い切れない」とまとめた。


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『中央公論』 (2024年1月号) で上智大教授の前嶋和弘 (まえしま・かずひろ) は「分断とフェイクに揺れるアメリカ大統領選挙」と題し、「2024年は選挙広告に生成AIが初めて本格的に利用される『生成AI選挙元年』となる」と予測。

2016年大統領選よりもさらに激しい情報戦』が繰り広げられるだろう」とみる。


前嶋によると、2021年1月に、バイデン勝利の結果確定を阻止しようとしたトランプ支持者が連邦議会議事堂に乱入した事件後、米国では偽情報対策に着手してきたが、その規制は後退を続けている

「SNS規制そのものに対し、トランプや支持者は『保守派への言論弾圧』と徹底的に否定する」からだという。


前嶋は「情報が正しくなければ、民主主義そのものが揺らいでいく」と警告する。

テクノロジーの進化は果たして社会の安定に寄与しているのか

発信側、受け手側が共に情報を見極める力が重要になる。

複雑化する世界情勢の中、米国の舵 (かじ) 取りの担い手が誰になるのか、国際社会が固唾 (かたず) を呑 (の) んで推移を見守っている。


(文中敬称略)



(2024年2月1日号掲載)