可視化されたイメージの裏切り 実在と観念が乖離 (かいり) する芸術
Everything You See Could Be a Lie
2021/9/27 (月) まで
San Diego Museum of Art
https://www.sdmart.org/exhibition/everything-you-see-could-be-a-lie-photorealistic-drawings-by-ana-de-alvear/
スペイン・マドリッド出身の学際的な芸術家アナ・デ・アルヴェア (1962-) の米国初個展。
まず、本展のタイトル「あなたが見ているものは全て嘘かもしれない。写真のような (photorealistic) デ・アルヴェアの絵画」が興味を引く。
色鉛筆で精巧に描かれた20点以上のドローイングには、限りなく写真に近い現実感と、不可解な幻想性が混在している。
その不調和こそが、実体と認識は別物という、デ・アルヴェア独自の哲学的な表現力となって鑑賞者を釘付けにする。
彼女の作品を注意深く見ていると、そこには幾重もの意味や欺瞞があることに気付く。
写真なら “現実” として見えるものを、色鉛筆という地味な素材を使い、驚くほどの超写実的 (hyperrealistic) なディテールを生み出そうとする意図がある。
そこには微妙なユーモアも感じさせる。
“イメージの魔術師” と呼ばれたシュルレアリスムの画家ルネ・マグリット (1898-1967) が「イメージの裏切り」について語っているように、古来より芸術家たちは絵画に「だまし絵」のテクニックなどを用いて、イメージのリアリティを掘り下げてきた。
ところが、現代アーティストのデ・アルヴェアはデジタルや機械的なプロセスなど一切使用しない。
彼女は縫いぐるみや模造品の磁器、プラスチック製の花や昆虫などを題材にして、現代社会の価値観をストレートに皮肉っている。
17世紀ヨーロッパの静物画に構図のヒントを得て、水晶や輸入磁器などの高級品、さらに昆虫や腐敗の象徴を「メメント・モリ (死の記憶)」として描いたという。
一見すると、微笑ましい遊び心があるように感じられるが、デ・アルヴェアの作品に玩具が登場するのは、失われた子供時代や、幼年期に受けたトラウマといった暗い意味を含んでいる。
さらに敷衍 (ふえん) するなら、現在の環境危機や、差し迫った動植物の絶滅を暗示しているようだ。
50枚の緻密なドローイングで構成された劇的な2つの銀河壁画の前では、宇宙における人間の物理的な存在感とスケール感をより強く意識させられる。
“Liqueur” by Ana de Alvear, 2014. / Colored pencil on paper. / © The San Diego Museum of Art.
チケット:
大人$15
シニア(65歳以上)*$10
軍人$10
大学生$8