「大統領は憎悪広げるな」… ユダヤ人社会、深まる分断
シナゴーグ襲撃事件、サンディエゴ教会でも平和の祈り
2018年11月1日
トランプ政権で深まる米国の分断は、結束が固いユダヤ人社会にも影を落としている。
トランプ大統領が10月30日、銃撃事件が起きたペンシルベニア州ピッツバーグのツリー・オブ・ライフ・シナゴーグ (ユダヤ教会堂) で犠牲者を追悼した。
「憎悪をまき散らすな」「ユダヤ人の味方だ」。
住民の大統領への評価は真っ二つに割れている。
「ユダヤ人は皆死ね」。
土曜の安息日の礼拝が行われていた10月27日午前、AR15型ライフル銃を持ったロバート・バウアーズ容疑者 (46) はシナゴーグに押し入って、こう叫び、約20分にわたり銃撃を続けた。
犠牲者が11人に上る「ユダヤ人社会を標的にした米国史上最悪規模の事件」 となり、捜査当局は憎悪犯罪 (ヘイトクライム) として捜査を進める。
トランプ氏が訪れたシナゴーグ近くでは「 (反ユダヤ主義の) 白人ナショナリズムを非難するまで歓迎しない」と大規模な抗議デモが発生、住人ら約2,000人が「憎しみはいらない」などと書かれたプラカードを手に行進した。
ユダヤ教徒の会社員デビッド・レビンさん (47) は 「言葉には結果が伴う」 と書いた紙を持って参加した。
事件が起きた時、真っ先に思い浮かんだのが、移民らを非難し憎悪を煽るようなトランプ氏の発言だ。
祖父母が欧州で経験したホロコースト (ユダヤ人大量虐殺) と同じことが、今、米国で起こりつつあると感じる。
「トランプ氏は移民を侮辱し、銃保有の権利を擁護するが、犯人は移民ではなく、誰も必要としないライフル銃を持っていた」と憤る。
ユダヤ系の人権団体によると、トランプ政権1年目の昨年、ユダヤ人に対する嫌がらせなどは前年比で6割近くも増えた。
だが、住民によると、多くのユダヤ人が暮らすピッツバーグでは宗教が異なる人々が共存し、これまで目立ったヘイトクライムは起きていなかったという。
ピッツバーグの事件を受け、サンディエゴのベス・イスラエル・シナゴーグでも29日、犠牲になった人々を追悼し、平和への祈りをささげるユダヤ教信者が1,000人以上集まった。
集会にはフォールコナーSD市長、ニスリートSD市警察本部長、ゴアSD郡保安官も姿を見せていた。
米国最大のユダヤ人団体「名誉毀損防止組合」 (Anti-Defamation League) によると、昨年来、サンディエゴ地区で発生したヘイトクライムは51件を数え、そのうち反ユダヤ主義や人種差別に根付く扇動集団による事件は31件に上る。
一方で、ユダヤ人社会ではエルサレムをイスラエルの首都と正式に認定したトランプ氏を評価する声も多い。
今回、トランプ氏に同行した長女のイバンカ大統領補佐官と夫のクシュナー大統領上級顧問が共にユダヤ教徒であることも信頼を強める一因になっている。
*写真は銃撃事件が起きた当日の現場の様子 (ピッツバーグ=10月30日)
(2018年11月16日号掲載)